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M&A後、譲受企業の従業員の退職を防ぐには?

当社は業界内で有数の規模を誇るメーカーです。ある同業者の技術力に魅力を感じ、ぜひとも当社の傘下企業として迎え、一緒に成長を目指したいと意気込んでいます。

初めてのM&Aを検討する中で最大の不安は、お相手となる企業の従業員がM&Aをきっかけに退職してしまうことです。同業者なのでよくわかるのですが、高い技術力を支えているのは技術職の従業員です。M&Aのプロセスの中で、退職のリスクにどのように向き合えばよいでしょうか。

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M&Aの前後で適切な対策を講じることで退職のリスクを減らすことが可能です。

大前提として、M&Aを理由に従業員の退職が起こるケースは極めて稀です。しかし、今回のご相談のように、従業員が持つ技術力に魅力を感じてM&Aを検討されている場合は、看過できない論点かと存じます。

従業員の退職リスクを減らすための対策について、M&A実行の前後に分けて解説します。

M&A実行前の対策

事前にキーマンと面談して継続勤務の意思を確認する

M&Aの実行前に従業員と面談を行い、継続勤務の意思を確認する方法があります。もちろん、売り手の事前の合意が必要となりますので、M&Aについての情報を開示する従業員の範囲とタイミングに留意し、売り手買い手双方が納得感を持ってM&Aができるように、配慮する必要があります。

M&Aを開示する範囲は、「キーマン」と呼ばれるような、事業の運営上欠かせないポジションの従業員やコアとなる技術を保有している従業員に絞ることが望ましいです。従業員全員に開示してしまうと、意図せぬ印象を持たれたり、情報が漏洩するリスクが大きすぎるからです。

情報開示のタイミングについては、売り手と買い手の間で経済条件や契約条件が固まってから行うことが望ましいです。従業員にM&Aを開示して継続勤務の意思を確認し、すぐにM&Aが実行できれば、情報漏洩のリスクや、M&Aに対する漠然とした不安を理由に転職活動等を開始するリスクを最小限に抑えることができます。

M&A実行後の対策

経営方針の変更は、従業員との信頼関係が構築されてから

従業員の皆さんにとって、自らが勤務する会社が買収されたニュースは、まさに“寝耳に水”です。「雇用は守られるのか」「給料は維持されるのか」「働き方が大きく変わるのではないか」等の不安が一気に湧いてくるのは無理もないことです。

累計2,300件以上のM&Aを手掛けてきた当社の実績の中で、わずかながら従業員が退職したケースを分析すると、「M&Aがきっかけで退職する」わけではなく、「M&A後の新運営方針がきっかけで退職する」ケースがほとんどです。具体的には、従業員の不安が払拭されないまま、一方的に経営方針や現場オペレーションを変更したことで従業員の不安が増幅されていくケースです。したがって、M&A実行後には、従業員に対しての不利益変更は行わない旨を、まずは率直かつ丁寧に発信し続けることが重要だと考えられます。

もちろん、従業員の退職を危惧するあまり必要な経営改善などがなされず、シナジーが発揮されないのでは本末転倒です。大切なのは、会社の成長に必要な経営方針の変更等をいつ行うかです。M&Aの直後は従業員の不安が生じやすいので、従業員が新しい経営陣になじみ、信頼関係ができてくる半年後ぐらいから徐々に行うことが望ましいと言えます。

今回は、買い手の立場から従業員の退職リスクへの対応策を解説しました。「職業選択の自由」は憲法に明記された権利であり、株式譲渡契約書等で契約上のリスクヘッジをすること(従業員の継続勤務を契約書で縛ること)が容易ではありません。その一方で、M&Aの成否を左右する重要な論点です。各案件の状況によっても対策は異なるため、詳しくは経験を積んだ当社のM&Aアドバイザーにご相談ください。