ABOUT M&A

M&A(エムアンドエー)は英語のMergers(合併)and Acquisitions(買収)の略です。つまり、M&Aとは、複数の企業を一つの企業に統合したり(合併)、ある企業が他の企業の株式や事業を買い取ったりする事(買収)をいいます。

M&Aの種類・手法(スキーム)

一般的に、狭義のM&Aは、「企業や事業の経営権を移転させる事」をいい、合併株式譲渡(譲受)、事業譲渡(譲受)等の手法があります。一方で、広義のM&Aには、経営権を移転しないまでも、何らかの協力関係を構築する資本提携や業務提携が含まれます。

M&Aの「成立」とは

何をすればM&Aが成立するのでしょうか。これは、M&Aの手法によって違います。例えば、株式譲渡(譲受)の場合は、譲渡側と譲受側で合意した条件に基づき契約を締結します。その契約に基づき譲渡側から株式を譲受側に譲渡して、譲渡対価を支払うと成立します。また、合併の場合、日本では会社法上の組織再編として規定されており、契約を締結後、会社法で求められる手続きを履行すれば成立します。

M&Aの目的、メリット・デメリット

譲渡側の目的

譲渡側のM&Aの目的は、事業承継対策や創業者利潤の獲得、エグジット、事業の選択と集中、企業再生等があります。

譲受側の目的

譲受側のM&Aの目的は、既存事業の規模の拡大、新規事業の獲得、人材や技術の確保等があります。

M&Aのメリット

  • 個人保証から解放
  • 優秀な後継者を選択可能
  • 創業者利潤を最大限に得られやすい

M&Aのデメリット

  • 費用がかかる
  • 数ヶ月から数年、引き継ぎ期間を希望されることもある

M&Aの歴史

戦前、M&Aは、日本で積極的に行われており、財閥の拡大や業界再編に寄与していました。1800年代後半から1900年代に旧財閥系がいわゆるM&Aも活用して事業拡大したことが知られます。1880年頃から政府は官業を三井や三菱等の財閥に安く払下げ、これら事業を譲り受ける事で財閥が事業を拡大します。この手厚い保護体制のもとで、事業買収を進め様々な産業を傘下に収めていきます。

明治時代から昭和初期において、日本の産業や国際貿易の発展、戦争による需要などにより、財閥が巨大な富と権力を手中に収めていきました。財閥は、純粋持株会社に様々な企業を傘下に収めて運営しましたが、敵対的買収も含め、数多くのM&Aが行われたとされます。日本のM&Aブームのひとつに、明治時代後期からの紡績業の再編が挙げられます。当時の業界では紡績業界の合従連衡が唱えられていました。当時の日本の基幹産業であった紡績業が、中国等の新興国台頭により競争環境が厳しく、燃料費や人件費のコスト増により業績が悪くなっていたとされます。いわゆる再生M&Aも数多く行われました。結果として、地方色が強く小規模であった数百社存在した紡績企業は概ね6つの企業に収斂されました。

この頃、製糖業のM&Aも盛んに行われていました。27の製糖会社が合従連衡を繰り返していった結果、1920年代前半には11の製糖会社にまで絞り込まれます。そして、1927年の金融恐慌期の業界再編によって、9つの製糖会社が生き残ることになりますが、戦時体制の深化にともなう業界再編によって、近代製糖業界は四大製糖と呼ばれる台湾、明治、大日本、塩水港のメインプレイヤー4社へと収斂されました。

また、1920年代には競争が激化した電力業界の合従連衡が盛んに行われました。発電所や大容量送電線の獲得という意味で垂直的、供給区域の拡大という意味で水平的なM&Aを実施していきました。数々のM&Aを通じて5社の大手に集約したとされます。双日のルーツであり、戦前に存在した鈴木商店のM&Aの歴史も興味深いです。第一次世界大戦中に台頭し、一時は三井、三菱も圧倒すると言われました。鈴木商店もM&Aを積極的に活用して事業を拡大させた企業といえます。

しかし、金融恐慌により破綻してしまいます。そして、いわゆる再生M&Aにより破綻した鈴木商店傘下の企業が復活する事になります。双日は勿論、神戸製鉄所や帝人、サッポロビール、J-オイルミルズ等様々な企業が鈴木商店の流れをくんでいます。鮎川財閥、いわゆる日産コンツェルンはM&Aを積極的に展開した財閥のひとつです。日産自動車を中心に、現在の日立製作所、JXTGホールディングの源流の財閥になります。中核の日本産業は、株式公開により資金を調達し、その資金を活用し、M&Aを進めていきました。その子会社も積極的に株式公開を行っています。新日鐵住金の前身である日本製鐵は、官営八幡製鉄所を中心に、輪西製鉄、釜石鉱山、三菱製鉄、九州製鋼、富士製鋼の1所5社が1934年に合同して設立された鉄鋼メーカーでした。設立は、現物出資方式がとられています。その後、東洋製鉄の資産の現物出資や大阪製鉄より資産を買収し事業を拡大しました。

<出典>
明治後期のM&A戦略『日本産業金融史研究 紡績金融篇』所収の紡績会社を中心に 青地 正史
戦前日本におけるM&A阪南経済Now7月号
急増するM&Aをいかに理解するか:その歴史的展開と経済的役割 宮島 英昭 経済産業研究所
近代製糖業の経営史的研究 久保 文克/中央大学商学部教授

M&Aの市場

ソニーのコロンビアピクチャーの買収や、三菱地所のロックフェラーセンターの買収に象徴されるように、日本のM&Aが脚光を浴びたのが1989年になります。これ以降、1997年の独占禁止法の改正、1999年の株式交換株式移転制度の導入をはじめとしたM&Aに関連する法改正の影響もあり、年々M&Aは増加していきました。2006年には会社法の施行や2007年の三角合併の解禁の動きもあり、日本のM&A件数は急激に増加しました。

その後、リーマンショックなどの影響により、日本のM&A市場は一時的に落ち込みます。東日本大震災のあった2011年には会社法の施行前の水準までM&A件数が減少しました。しかし、近年は2011年を底に再度増加基調が続いています。特に、アフターコロナを迎えた日本では、日銀による金融緩和策の影響もあり、世界でもトップクラスにM&Aが活発な市場となっています。一方で、世界を見回してみると、2022年以降の大幅な金利高により借入コストが高騰しています。米国の「シリコンバレーバンク」や「ファースト・リパブリック・バンク」などの大手銀行の経営破綻は記憶に新しいでしょう。資金調達コストが増大したことで、海外企業はM&Aにやや慎重になっているのが現状です。その結果、日本企業は世界でも安定的な買い手として、M&A市場において存在感を増しています。

また、国内のM&Aの件数が増加している要因として、少子高齢化問題も挙げられます。日本の構造的な課題である少子高齢化問題は、すべての産業において将来不安を生み出しており、自社の営業努力だけでは業績の拡大が出来ないのではという危機感を覚えている企業も少なくありません。このような状況下において、特に譲受企業では、業績の拡大を目的としてM&Aを検討するケースが増えています。

一方、譲渡企業側では、経営者の高齢化と事業承継問題が社会問題となっており、M&Aの増加要因になっています。中堅中小企業の経営者の平均年齢は年々増えているにも関わらず、後継者が決まっていない企業の割合が高い状態が続いています。この事業承継問題の解決手段としてM&Aが浸透しつつあります。また、以前はM&Aといえば、乗っ取りやマネーゲームといった悪い印象を持った経営者が多かったのではないかと思いますが、近年では課題解決の手段としてM&Aを捉えている経営者も増えている印象です。

近年M&Aが増加している理由

<売却側>M&Aが増えている背景

① 経営者の高齢化および後継者不在

東京商工リサーチの2023年調査によると、経営者の平均年齢は63.76歳と、年々高齢化が進んでいます。以前は、親族内承継が当たり前でしたが、ご子息ご子女がいない、いても継いでくれない・継がせないという経営者が増えており、会社を第三者に譲渡するケースが増えています。

社長年齢別 後継者あり 後継者不在
30歳未満 × 94.5%
30歳代 4.9% 95.1%
40歳代 12.0% 88.0%
50歳代 24.3% 75.7%
60歳代 45.7% 54.3%
70歳代 56.7% 43.3%
80歳代 65.3% 34.7%

出典:株式会社東京商工リサーチ:「社長の平均年齢 過去最高の63.76歳 最高は高知県65.96歳、最年少は広島県62.67歳」

② M&Aのイメージ向上

売却側のM&Aに対するイメージが向上していることも、M&A増加の要因です。具体的には、「M&A=身売り・乗っ取り」から、「M&A=経営戦略の手段の一つ」というイメージへ変化してきています。大手資本傘下に入ることで、事業拡大を実現できるとともに、自社株式の現金化・代表連帯保証の解除・従業員の雇用維持が可能であり、会社を売却できることが一つのステータスと考えられるようになってきています。

<買収側>M&Aが増えている背景

① M&Aに関する法改正の後押し

M&Aを行うにあたり、法や税務上の判断が曖昧であった部分の法整備が進み、M&Aを手掛けやすくなりました。

M&Aに関する法整備一覧
  • 1997年

    独占禁止法改正

  • 1999年

    株式交換・株式移転制度の導入
    産業活力再生法の制定

  • 2000年

    民事再生法の施行
    会計制度の改正

  • 2001年

    組織再編税制の整備
    会社分割制度の導入

  • 2002年

    連結納税制度の導入

  • 2006年

    会社法の施行

  • 2007年

    三角合併の解禁

  • 2010年

    グループ法人税制の導入

  • 2014年

    産業競争力強化法の施行

  • 2018年

    株式対価M&Aの整備

  • 2019年

    株式交付制度の導入

  • 2021年

    経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の創設

  • 2023年

    オープンイノベーション促進税制の導入

  • 2024年

    中堅・中小グループ化税制の導入

② 環境変化のスピード加速および資金調達

ITの発達により、環境変化のスピードが加速しています。こうした環境下において、自社でゼロから事業を立ち上げるのではなく、M&Aによって時間を買うことを経営戦略として考える経営者が増えています。また、上場企業・未上場企業共に実質無借金企業が増加傾向にあること及び低金利が続いていることにより、M&A資金の借入を行いやすい環境にあります。

今後もM&A市場は成長・拡大する見込み

1.生産年齢人口の減少によるM&Aの増加

下記の通り、すでに日本では生産年齢人口(15歳~64歳)が年々減少しています。生産活動の中心を担う生産年齢人口の減少に伴い、どの業種においても人材不足が深刻化することが予想されます。現に運送業や建設業などではすでに人材不足が叫ばれています。中小企業において人材不足は経営難に直結する問題であり、人材不足が原因で第三者へ経営権を譲渡する中小企業が増加すると予想されます。

生産人口の推移

2.業界の寡占化によるM&Aの増加

例えば調剤薬局業界においては、大手企業が市場シェア拡大のためにM&Aを活用したことでM&Aの件数が急増しました。調剤薬局業界は、トップ企業でも市場シェアが低く、シェア拡大の余地が存分にあったことが要因です。調剤薬局業界以外でも、寡占化が進む業界では今後M&Aが頻繁に行われることが予想されます。

3.ベンチャー企業のM&Aの増加

リーマンショックの影響で一時期落ち込んでいたIPOの件数が徐々に回復ており、2021年には初めて100社を超える125社を記録しました。日本においてベンチャー企業のEXITの手段はIPOがまずイメージされますが、米国においてはEXITの手段としてM&Aが用いられることが圧倒的に多いです。日本のベンチャー企業でもEXITの手段としてM&Aを選択する経営者が増えてきており、一般的な企業価値算定結果を遥かに上回る金額でのM&Aの実例も見受けられます。コロナの影響もあり、2022年・2023年は90件強の水準となっていますが、今後もEXITの手段としてM&Aが用いられるケースが増加すると予想されます。

出典:PR TIMES「【2023年IPO総まとめ】国内IPO企業数は96社!監査法人、主幹事、シ団シェアは?【Next IPO Club/IPOレポート Vol.010】」

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