M&A相談所
QUESTION
会社を高く売るために準備しておくことは?
私は54歳で、社長をしています。後継者がいないので、いずれ会社の譲渡も検討する必要性を感じています。老後やセカンドライフのことも考えると、なるべく会社を高く売りたいと考えています。会社を高く売るために準備しておくことがあれば教えてほしいです。
財務だけでなく、
人材づくりやコンプライアンスの遵守も
会社を高く売りたいというご相談は、非常に多くいただいています。M&Aで会社を譲渡する際の金額を「譲渡価額」と言います。譲渡価額は複数の計算方法で算出する「企業価値」を目安としますが、最終的には売り手企業と買い手企業の双方が希望を出して譲渡価額を調整することになります。
そこで気になるのが、買い手側において価格を決定する際に重視するポイントです。細かく挙げるとキリがないのですが、今回、特に重要な3点を紹介いたします。
ポイント1. 財務の健全性
譲渡対象企業の決算内容(財務状況)は重要な項目です。会社の収益力を「のれん」として価格調整するケースが多いので、当然ながら営業利益は高いほうがよいでしょう。直前期の業績のみで判断されることはあまりなく、直近3期の平均を参考値にされるのが一般的です。譲渡後に収益に寄与する可能性のある勘定科目(例:退任予定の役員報酬や不要となる保険料など)と譲渡後に新たに必要となる費用(例:新たに着任する役員の報酬、その他発生する費用)の差額を「のれん」として譲渡価額に反映するケースもありますので、今後の損益に関わる事象を把握しておくことも重要です。
バランスシート(貸借対照表)においては、過去の取得した不動産の実質価値や保険の解約返戻金などが時価評価され、帳簿価額よりも企業価値が上がるケースがあります。反面、未払い残業や退職金の積み立て不足、不良在庫などは減額要素になる可能性が高いので注意が必要です。
ポイント2. 人材育成・組織づくりの状況
買い手企業は売り手企業の将来を引き受けますので、売り手企業側に将来を一緒につくっていく人材がそろっているかが重要な項目になります。売り手企業側は「買い手企業から人材を送り込んでもらえないか」といった希望を持たれることが多いですが、買い手企業も人材が余っているわけではありません。買い手が大手企業や上場会社の場合は採用を強化できるメリットもありますが、会社を譲り受けた後の採用等に係るコストについては売買価額から差し引きで調整される可能性があります。その他、M&Aに影響を与える人材面の注意点を記載します。
人材面の注意点
- マネジメント人材の育成が進んでいない(社長以外に役員や部長職が少ない、いわゆる文鎮型組織になっている)
- 社員の高齢化(将来の事業承継が曖昧なため、若い社員の積極採用をしていない)
- 社員が定着していない(給与体系・福利厚生・パワハラ体質等の問題を内包している)
このような注意点を抱えている際は、将来的なコスト増加が想定されるため、譲渡価額の減額要素になる可能性があります。早急な対応が難しい内容ばかりではありますが、事前に時間をかけて対策を講じておくことをお勧めいたします。
ポイント3. コンプライアンスの遵守
最近、M&Aで問題になるケースが多いのがコンプライアンスの遵守です。決算書上は収益性が高くても、コンプライアンス上の問題がある場合、譲渡価額の減額のみならず、譲渡自体が成立しないケースもあります。例えば商取引における法令違反、労務における問題、役員や社員の不正など、項目は多岐にわたります。問題点について早めに対応を進めておく必要があります。
このように、譲渡価額を上げるポイントは短期間では対応できないことが大半です。スタートは早ければ早いに越したことはありません。実際、私どもにご相談に来られたときにはタイミングが遅く、対策を講じる時間がなかったケースもありました。今回のご相談者は54歳ですが、会社の価値を上げるための対策を始めるタイミングと、実際に売却を行うタイミングは別です。例えば65歳で会社を譲渡すると考えた場合、54歳は対策に講じ始めるのによいタイミングではないでしょうか。
今回ご紹介したような内容は、経営者の皆様にとってはまさに「釈迦に説法」だと存じます。ただ社長に対して言いにくいことを進言してくれる人が少ないのも事実です。実際にM&Aが進み始めてから、売り手企業の社長が自社の課題の多さに直面して「もっと早く対応しておけばよかった。わかっていたのになぁ…」と悩まれるケースも少なくありません。
当社には、さまざまなケースに対応した経験が蓄積されております。お悩みやご不安がございましたら、情報収集を兼ねてお気軽にご相談ください。