事例紹介
M&A
Case7
人材確保・育成のためM&Aを実行
潜在的な後継者問題も解決
人材不足の問題を解消し事業拡張を図るために行ったM&Aが結果的に事業承継対策となった事例をご紹介しておきます。
食品卸業のY食品は1990年代の創業以来、黒字経営が続く年商約9億円の優良企業。ここ数年は最高益を更新するほど業績好調で、社長のY氏は事業拡張を図る好機と考えましたが、成長の勢いが増すにつれ人材確保の問題が表面化してきました。
オーナー企業の多くがそうであるように、Y食品もY氏が一人で切り盛りしており、人材採用・育成のノウハウがなく、また忙しいY氏がこの問題に対処する時間を捻出するのは難しい状況にあったようです。
同規模の同業他社と提携を結んだものの、それもうまくいかず、Y氏は大手の上場企業に会社を売却するという方法で人材不足の問題を解決するとともに、事業拡張も図ろうと考えました。
買い手は食品卸・小売業のA社で、年商約60億。同業ですが、得意分野・地域が異なるため相乗効果を生み、両社ともに事業拡大に成功しました。Y食品はA社の人材採用・育成プログラムを活用することで、人材不足の問題を解消することもできました。
Y氏はまだ50歳代で、M&A後も社長職にとどまり、会社の指揮をとりつづけていますが、後継者となる人材はいないため、M&Aにより潜在的な後継者問題も解決したことになります。
結果的に後継者問題を解決できたという事例ですが、事業承継対策の大切なポイントを読み取ることができます。
まず第一に、事業承継対策は成長戦略のひとつである、ということです。やり方次第で、事業承継を成長のチャンスに変えることが可能です。
また、後継者問題はよく「まだまだ引退はしないから」という理由で先送りされがちですが、必ずしも「事業承継=引退」ではないことも、この事例から学べます。
M&Aの場合、創業社長は会社譲渡後、第一線を退いて顧問や相談役などのポジションに就き、大所高所で自社を見守ることが多いです。「M&Aのプロセスで買い手の上場企業のトップと意気投合し、買い手企業の役員に迎えられた」などというケースもありました。
事業承継には、後継者育成など時間をかけて対処しなければならないことも多々あります。トップが引退したいと考えるときは、たいてい気力にも体力にも限界を感じ、「このまま経営を担うのはしんどいな」と思い始めていますから、それから後継者問題のような大仕事にかかるのは、とても大変です。
引退を考えるようになってから後継者問題に着手するのでは、遅すぎると言っていいでしょう。
後継者問題は「まだ元気だから」先送りにするのではなく、「まだ元気なうちに」解決を図るべき。事業承継の方針を決め、「これでわが社の将来は安泰、引退までにもう一花咲かせるぞ」ぐらいの心持ちで、ゆっくり引退の時期を決められるとよいのではないかと思います。