事例紹介
M&A
Case6
家族の看病のため引退を決意
専門家のサポートも受けスピーディに解決
奥様の看病のため引退を決意された創業社長が、わずか2ヵ月で事業承継を成し遂げた事例です。
地方都市で調剤薬局2店舗を展開するA薬局を創業・経営してきたE氏は、病に倒れた奥様の看病のため、引退することを決めました。
それまで引退は考えていなかったものの、医療費抑制などを背景に、ご自身の経営理念を貫き通すことに限界を感じていたそうで、奥様との時間をつくるため第一線から退くという決断に迷いは全くない、とのことでした。
その証拠に、それからのE氏の行動は非常にスピーディなものでした。
A社で働くご子息がいたのですが、E氏は「息子には経営者になるだけの能力、資質が不足している」と冷静に判断。医薬に関する知識や人間性も考慮したうえで、「この人しかいない」と同業他社の社長であるM氏に白羽の矢を立てました。そして、M氏も会社を譲り受けることに同意されました。
ここでE氏は「M氏とは旧知の仲だが、だからこそ当事者同士で進めるのではなく、専門家に間に入ってもらうべき」と考えて、メインバンクと私の会社に相談されました。そして、わずか2ヵ月で契約成立。私が初めてE氏にお会いしたのは10月初旬で、12月中旬にはもう最終契約が交わされていました。
12月初旬の恒例の社内忘年会で、会社の譲渡、E氏の退職を発表。社員の方たちにとっては、まさに“寝耳に水”の出来事であり、動揺する人もいたようですが、E氏がうまく対処されて、大きな混乱が起きることはありませんでした。
その後、E氏は奥様の看病に専念。残念ながら奥様は数ヵ月後に亡くなられましたが、E氏からは「おかげで最後まで妻に付き添うことができました」と感謝の言葉をいただきました。
引退を決めてからのE氏の決断力、実行力は実に見事なものでした。たいていのオーナー社長は引退することに迷いやためらいがあるものですが、E氏にはほとんどみられませんでした。奥様のため一刻も早く引退したいという強い動機があったからでしょう。
一方でE氏は焦ることなく、常に的確な判断を下す冷静さも持ちあわせておられました。息子さんに継がせたいというお気持ちはもちろんあったと思いますが、その感情に流されることなく、親族承継はしないという決断を迅速に下されました。
知人だからこそ第三者に入ってもらい、契約をすべきという判断も的確なものだったと思います。手前味噌になりますが、M&Aは億単位のお金が動きますし、譲渡後の社員の待遇など合意しておくべきことが多々ありますので、やはり専門家のサポートを受けて進めるのが安心です。
急展開ではありましたが、社内に大きな混乱も起きませんでした。創業社長が会社のために自信を持って決断したことならば、社員は「信頼する社長の決めたことなら」と安心して受け止められるもの。社長がリーダーシップを最大限に発揮して事業承継対策を決断・実行することが、何よりも大切と言っていいでしょう。