事例紹介
ハッピーリタイア
Case5
計画的に事業承継対策を進め
故郷で農業をやるという長年の夢を実現
創業社長が50歳代から事業承継とセカンドライフのプランを立て、60歳で引退。「故郷で専業農家になる」という夢をかなえた、ハッピーリタイアメントのお手本のような事例です。
産業用機械メンテナンスのN社を経営するN氏は、「60歳になったら引退し、故郷に移り住んで専業農家になる」ことを目標に、早くから具体的なプランを立てておられました。50歳代前半には農地を購入。奥様も緑に囲まれた環境を気に入り、「夫婦二人でのんびりしたい」と引退・移住を楽しみにされていたそうです。
会社の業績は堅調で、当初、N氏は社員による事業承継を考えていました。候補となる人材もいたようです。しかし、その人が株を買い取る資金の調達、個人保証の問題などをクリアできず、社内承継は実現に至りませんでした。
そこでN氏が選んだのが、M&Aによる事業承継。良い買い手が見つかれば事業がそのまま承継され、社員の雇用を守ることができるし、さらなる事業の発展も望める。自分は安心してリタイアすることが可能で、売却したお金を農業を始める資金にあてることもできる。誰に迷惑をかけることもない――M&AはN氏にとって、最も妥当かつ合理的な選択肢だったのです。
N社は技術力が高く、財務内容も良好であったことから、ほどなくして半導体製造設備のメンテナンスを手がける上場企業とのM&Aが成立。専業農家になるというN氏の夢を知っていた社員たちは、福利厚生制度や研修制度の整った、安定した上場企業に譲渡されることを喜び、「社長には第二の人生を楽しんでほしい」とN氏を温かく送り出してくれたそうです。
N氏は引退後、株の売却代金で新居をかまえて念願の農業を始め、セカンドライフを楽しんでおられます。一方、N社はM&A後も業績好調で、買収した企業も社員たちの働きぶりを高く評価されているとのこと。N氏は引き継ぎが終わってから完全に引退し、全く経営に関知していらっしゃいませんが、社員たちとの交流は続いているそうですから、今は遠くから巣立った我が子の成長を見守るような気持ちでいらっしゃるのではないかと思います。
成功のポイントは言うまでもなく、N氏が早くから事業承継対策に取り組んだことにありますが、なぜN氏は後継者問題を先送りにせず、早期に解決することができたのでしょうか?
いろいろな理由が考えられますが、最大の要因はセカンドライフについて具体的なプランがあったことではないかと思います。
創業社長にとって、わが子のように大切に育ててきた会社を手放すのは、とても寂しいものです。いずれ引退しなければならないとわかっていても、会社の経営から離れることなどできないと考え、まだまだ皆を引っ張っていかなければという責任感も手伝って、なかなか決心がつかないのが普通だと思います。
仕事ひとすじで、 「引退してからの自分が想像できない」という経営者の方は多いですが、その考えを切り替えないことには、事業承継の問題に向き合うことはできません。コツはセカンドライフを具体的に思い描いてみること。「趣味もないし、引退してもやることがない」と口にしていた方も皆さん、実際に第一線を退くと、社長時代にはできなかったことをして、セカンドライフをエンジョイしていらっしゃいます。