背景と現状
事業承継のタイミング~経営者のハッピーリタイアメント
引退が決まると寂しいながらも
「肩の荷が下りる」もの
なぜ後継者問題は先送りにされてしまうのでしょうか?
日々の忙しい業務の中で後回しになりがちということもあるでしょうし、責任感が強い経営者ほど「元気なうちは働かねば」「自分の信用がないと経営が成り立たないのでは」と考え、引退をためらうものです。
何歳で引退すべきか? これは、とても難しい問題です。一概に何歳ぐらいが良いと決められるものでもないでしょう。
ただ、私が事業承継型M&Aをお手伝いするケースのほとんどは、60~70歳代の経営者の方です。このぐらいの年齢になると、やはり心のどこかに「このまま会社を続けていくのはしんどいな」という思いが生じるようで、引退が決まると皆さん、「寂しい気持ちもあるけれど、肩の荷が下りてホッとした」といって、セカンドライフを楽しんでおられます。
なかには体調不良からM&Aを決めたのに、引退したら心身ともにストレスから解放されて、すっかり元気になったという方もいます。
60歳を過ぎると新しいことへの適応力が低下
減収減益の企業の比率も高くなる
知的活動能力(知能)の研究においても、新しいことの学習や新しい環境に適応するために必要な問題解決能力は、60歳以降、急速に低下するといわれています。
私が数年前、事業承継型M&AのサポートをしたA氏は、引退を考えたきっかけが「スマホ」だったと話してくれたことがあります。
A氏はガラケーを使っており、社員に情報共有のためスマホを使ってほしいと言われたものの、なかなか使いこなせなかったそうです。以前は率先して新しいツールを取り入れ、社員に勧めていた自分が、いつの間にか周囲についていけなくなっている。そんな自分がいつまでもトップでいていいのか――。
それが引退を考え始めたきっかけになった、というのです。
東京商工リサーチ「2014年全国社長の年齢調査」によると、企業の減収減益の比率は70歳代以上が27%で最も高く、次に60歳代が26%で、「社長が高齢化するほど安定や成長を支えるビジネスモデル構築が遅れ、従来の営業モデルからの脱皮が難しく、業績悪化につながっている」と分析されています。
後継者問題が広がりつつある中で、リーダーである経営者が高齢化して以前のような積極的な経営ができなくなり、企業の活力が低下してしまうという傾向も顕著に現れてきているようです。
- 出典:東京商工リサーチ 2014/10/2『2014年全国社長の年齢調査』
80歳代の女性社長が増加
背景にあるのは男性社長の急逝により
高齢の妻がやむなく後を継ぐケース
一番怖いのは後継者問題を先延ばしするうち、経営者ご本人の体調が悪化してしまうことです。
私も最近、経営者のご主人が急逝され、株と連帯保証を相続しなければならなくなって、途方に暮れているという女性のご相談を受けたばかりですが、女性社長の比率を年代別に見ると、なんと80歳代が最も多いというデータが出ています(帝国データバンク「2015年全国女性社長分析」)。背景にあるのは、やはり男性社長が亡くなった後に奥様がやむを得ず社長になるというケースで、今後さらにこうしたケースが増えていくことも考えられます。
- 出典:帝国データバンク 2015/3/26『2015年全国女性社長分析』
体調を崩されてからM&Aのご相談をお受けすることもありますが、体調が良くない中で大きな決断を下すのは本当に大変なことだと、いつも感じさせられます。
事業承継を成功に導くには、元気なうちに家族や社員、そしてご自身のために計画を立てておくことが、ひとつのカギになると思います。