事例紹介
M&A
Case4
奥様の後押しで事業承継対策がスタート
ご夫婦の二人三脚で後継者問題を解決
創業社長の奥様が会社の将来やご主人の健康を案じて、後継者問題に着手。ハッピーリタイアメントを迎えられた好例です。
K薬局は10店舗、売上高50億円、どの店も業績好調な地方のドラッグストアチェーン。後継者がいないことが唯一の問題で、その解決のため行動をおこしたのは、創業当初から経理・総務関係の仕事を一手に引き受け、社長のK氏を支えてきた奥様でした。ご主人の健康状態や会社の行く末を考えて、私の会社にM&Aの相談にいらしたのです。
気力、体力の限界を感じながらも、会社のため、社員のためにまだまだ辞められないと頑張り続けるご主人の心情も何となく察しておられたのではないかと思います。
突然に浮上したM&Aの話にK氏は戸惑われたようですが、「従業員の雇用条件・環境を維持できる」「K薬局の名前を残すことや、社長が今のまま経営を続けることも可能」といった情報を得て、「お店やスタッフを大切にしてくれる買い手を見つければ会社の将来は安泰」との結論に至りました。
その後はご夫婦で協力してM&Aに臨まれ、約4ヵ月のスピード成約で全国大手チェーンに株式を譲渡されました。買収額7億円、K薬局の社名、店名、社員の待遇などはほぼそのまま引き継がれるという好条件での売却でした。
この話には後日談があります。当時60歳代だったK氏はM&Aを決めた時点で引退の意思はなく、相談役として会社に残っていらっしゃいました。しかし、しだいに「肩の荷を下ろしたい」という気持ちが強くなり、約1年後、強く慰留されたにも関わらず第一線を退かれました。
その後はご夫婦で旅行を楽しむなど、充実した時間を過ごしていらっしゃるとのこと。忙しい現役時代には考えられたかった余裕のある毎日に、「あのとき、あのタイミングで会社を手放す決断をしてよかった」と話し合われることもあるそうです。
事業承継対策は本来、トップが決断・実行すべきことだと思いますが、創業社長にとって、会社を手放す決心をつけるのは簡単なことではありません。日々の業務が忙しく、なかなか後継者問題に着手できないことも多いでしょう。
私はK薬局のご夫婦から、創業社長が後継者問題解決に向け第一歩を踏み出すには、家族の後押しが必要なこともある、と知りました。背中を押すのは、共に会社を支えてきた社員の方であってもいいのかもしれません。
第一線で活躍するトップの方に事業承継について話すのは、引退を促すようで気まずいこともあるでしょう。そのようなときは、セカンドライフについて話してみてはどうでしょうか。若い頃から仕事第一で会社のために尽くしてきた創業社長は、会社から頭を切り離すことがなかなかできないもの。例えば奥様と「引退したら旅行をしよう」「○○の趣味を一緒にやろう」などと話すうち、リタイアの時期や事業承継の問題に向き合えるようになることも多いのではないかと思います。