ご成約インタビュー No.99
INTERVIEW
親子3代で経営してきた理化学機器や研究用試薬などの卸売会社
同業の専門商社に経営を託すことで、
20年後、30年後の安定経営を選択
- #後継者不在
- #業界再編
- #従業員雇用
- #老舗
- #商社・卸・代理店
株式会社シンコー理化 顧問 岩垂 弘将 氏
光学機器、分析機器などの理化学機器や研究用試薬などの卸売事業を手がける株式会社シンコー理化(大阪市)は2024年6月に、同業で医療、理化学用品の専門商社である株式会社ケミカル同仁(熊本市)の傘下に入った。話しが持ち上がって実質、半年ほどでのスピード成立で、財務や税務などのデューデリジェンスに要した時間もわずか数時間という異例の速さだった。両社社長がともに40代という若い経営者同士の相性の良さも交渉の進展に拍車をかけたようだ。 シンコー理化の社長でオーナーだった岩垂弘将氏(現シンコー理化顧問)に、経営権の譲渡を決断するに至った経緯や葛藤、譲渡後の変化などについてお聞きした。
家族以外に経営を託すことに激烈な葛藤も
最初に、シンコー理化の事業の特徴をお教えください。
岩垂:当社は光学機器などの理化学機器を販売していますが、こうした商品だけでなく消耗品も売り上げの大きな部分を占めています。消耗品は手放れがいい商品です。例えばビーカーなどは売ってしまえばそれで終わりです。そうした商品はネットでも買える時代になっています。ですので、注文を待っているだけでは事業が成り立ちません。
そこで大事にしているのが、普段の付き合いです。発注がなくても足しげく通い、長いお付き合いをさせていただいています。メールでの注文が多いのですが、定期的に訪問することで、直接口頭で注文をいただくこともあります。そこが強みの一つだと考えています。
そうしますと、営業の方は長い期間、同じ担当をされることになりますか。
岩垂:5、6年は担当します。本当はもっと早く異動した方がいいのかも知れませんが、5、6年同じ担当をしていますと、得意先の若手の方が人事異動で責任者になられることなどがあり、次第に味が出てきます。例えば、喫茶店に何度も通っていると、いつものコーヒーでお願いします、みたいな形で注文を貰えることが本業界では多々あります。
事業承継にM&Aを選択された理由は何でしょうか。
岩垂:私には17歳の息子がいますので、後を継いでもらうというのも一つの選択肢としてありました。ですが、息子に自分のやりたいことがあるのであれば、それをやらせてあげたいという思いがありました。
そして、むしろこちらの方が大きいのですが、20年後、30年後に安定した会社として残せるかというところが重要でした。ケミカル同仁さんに経営をお願いすることで、これが実現できると考えました。
岩垂さんは親子3代でシンコー理化を経営されてきました。家族以外に経営を託すのに葛藤はありませんでしたか。
岩垂:激烈な葛藤がありました。やはり、最初はそこですよね。ただその時に思ったのが、バトンを一族で受け継いで走ることが社員にとって必ずしも幸せではないということです。一族で受け継ぐのは自己満足であって、社員にとっては安定した生活が一番重要です。
社員自身に考えさせるという方針が一致し譲渡を決断
いつごろからM&Aの検討を始められたのでしょか。
岩垂:M&Aについて考え始めたのは2023年の3月ごろですね。そのころに一族で経営を受け継ぐ以外の方法としてM&Aという選択肢があることを知りました。そこからいろいろと検討をし、その年の6月にストライクさんに仲介をお願いしました。
2024年6月に会社を譲渡しましたので、1年ほどで話がまとまったのですが、内装の工事や書類収集などに時間がかかったため、実際は方向性が定まるのに要した期間は半年ほどでした。
岩垂さんは48歳です。早期にリタイアされる決断をされた理由は何でしょうか。
岩垂:私の母親が65歳で亡くなったのが理由の一つとしてあります。母はシンコー理化の経理をずっとやっており、やっと仕事から離れられるとなったタイミングで病気になって亡くなりました。私は65歳まであと何年あるのか、健康寿命はどれだけあるのかということを考えた時に、ギリギリまで仕事をすることの他にも選択肢があるのではないかと考え、決断しました。
私は高校卒業後にシンコー理化に入社しましたので、自分でやりたいことを考えたことがありません。育った環境で、そのままレールに乗った感じです。今はシンコー理化の顧問として残っていますが、来年の6月で一旦終わることになります。そのあと100パーセントフリーの状態になってから、ゆっくりとやりたいことを見つけたいと思っています。
ケミカル同仁に経営を託すことを決められた理由は何でしょうか。
岩垂:ケミカル同仁の上野社長とは同じ世代で、考え方が一致しているのが一番でした。社員に対してあまり上から抑え込まずに、社員に自身で考えてゴールに向かって走らせようという考え方が同じでした。
ですので、会社を譲渡した6月以降も、社内はそれ以前とあまり変わっていません。M&Aによって、大きく変わると社員はストレスに感じるはずですので、極力自然体のままにしておき、ある程度慣れた頃に少しずつ変えていくことになるのではないかと思っています。
譲渡の条件として希望されたことは何でしょうか。
岩垂:社員の継続雇用と会社の評価です。社員の雇用は何ら問題なく受け入れていただきました。会社の評価については、先祖代々がんばってきた会社をどのように評価していただけるのだろうかと思っていましたが、考えていた以上のご提示をいただきました。
ですので、結論が出るのが非常に早かったです。デューデリジェンスでのインタビューも私と経理を担当していた妻と顧問の会計士の先生の3人で資料を用意していたため、2時間ほどで終わりました。
今回の譲渡を社員の方はどのように受け止められていますか。
岩垂:最初はみんなびっくりしていました。どうなるのだろうかと、不安に思っていたでしょうが、全員の雇用を継続することや、大きく変わることがないことなどを説明したところ、徐々に落ち着き納得してくれました。
好い業績が良い縁に
今後の事業展開(協業など)についてはどのような計画をお持ちですか。
岩垂:ケミカル同仁と同社のグループ会社の藤本理化(東京都文京区)、シンコー理化の3社によって、熊本、大阪、東京の3カ所に拠点ができることになりますので、これを活かして事業展開することになると思います。ケミカル同仁は大学や病院に強く、藤本理化は大学に強いという特徴があります。シンコー理化は企業が中心ですので、互いの販路を活用することができます。
また仕入れの面でも効果が見込めます。例えばケミカル同仁がメーカーと直接取引があり、シンコー理化がそうした取引がないのであれば、交渉の余地が生まれ、利益幅の拡大などが期待できます。
販路や仕入れ以外にはどのようなシナジーを期待されていますか。
岩垂:営業のやり方などは3社それぞれ違います。3社を見比べると、こういう風にやれば、うまくいくといった事例があるかも知れません。すでに、いろいろと情報交換をしており、成功事例を共有しようとしています。
どのような時にM&Aを実行して良かったと思われますか。
岩垂:譲渡してまだ数カ月ですが、直近で私が実感したのは求人ですね。これまでは当然ですが、自分たちで求人活動を行っていました。今はケミカル同仁に専門の部署がありますので、そちらでやっていただいています。募集だけでなく、書類選考もやっていただき、こちらでは面接だけを行います。
この方法だと手間がかからないのはもちろんですが、応募数がかなり増えるという変化がありました。原因ははっきりとは分かりませんが、大きな企業グループに入ったことが理由の一つではないかと考えています。
ストライクのサービスや担当者についての感想をお聞かせください。
岩垂:大変満足しています。ストライクさんだけにお願いしましたので、比較はできませんが、個人的には大満足です。短期間にスムーズに話が進みました。ケミカル同仁さんに引き合わせていただいたことが全てでしょう。恐らく違う会社さんだったら、このようにうまくは運ばなかったと思います。
M&Aを検討されている経営者にアドバイスをお願いします。
岩垂:20年後、30年後を見て決断をすることが大事ではないでしょうか。先を見据えて早めに動くことが重要です。今回このように良いご縁をいただけたのも、早めに動いたからです。シンコー理化の業績は右肩上がりで、売り上げは2期連続で過去最高を更新しています。こういう業績の良い時だったからこそ、良いご縁があったのだと思っています。
本日はありがとうございました。
M&Aアドバイザーより一言(山下 遼大・コンサルティング部 アドバイザー談)
オーナー様にとって、自身の子供のように大切に育ててきた会社を誰にどのような形で承継するかは、非常に重大で難しい決断です。シンコー理化様も3代にわたり「親族内承継」にて事業を承継して参りましたが、従業員と会社の成長を考え「M&A」という選択を取られました。大きなご決断の結果、ご満足いただけるお相手を見つけることができて良かったです。M&Aを進めていく、とご決断いただいてからは非常にスピード感をもって進めることができました。特にシンコー理化様が素晴らしかった点は「社長に依存していない」組織作りをされていたことでした。多くの中小企業では社長がいないと会社が回らなくなってしまうことが多いですが、岩垂元社長は従業員の方々を信頼し、徐々に大きな役割を従業員に委ねながら組織作りを進められていました。その結果、譲受企業様側からの人材派遣を必要とせず、M&A後の事業上のシナジーを考えることに専念できたと思います。
今後も、両社のさらなる成長を心より祈念するとともに、M&Aを通じて同仁グループの発展に一層貢献できるよう努めてまいります。
本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
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