ご成約インタビュー No.100
INTERVIEW
地域医療存続と従業員の雇用維持のため
全国展開の医療法人グループに譲渡
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医療法人大庭クリニック 理事長 大庭 憲邦 氏
福岡県飯塚市の医療法人大庭クリニックは、地元の介護施設や個人宅を対象に、内科と糖尿病内科の訪問診療を行っている。創業者で医師の大庭理事長は、多忙な日々が続く中で体力に不安に感じるようになった。しかしながら、身内に後継者がいなかったため、地域医療の存続と従業員の雇用維持のために、閉院ではなく第三者への譲渡を決意。ストライクに仲介を依頼し、「地域医療を支えたい」という理念が共通する医療法人グループに入ることになった。大庭理事長は、勤務時間外でもオンコール(患者の急変時などに対応できるよう自宅などで待機すること)状態でなければならず、完全休養日がほぼ取れない状況が15年間にわたって続いていた。今回の譲渡決定に、「これから少しは休みが増えそうだ」と安堵の表情も見せる大庭理事長に話を伺った。
訪問診療を月130件、体力的な不安から譲渡の検討を開始
クリニックの概要を教えてください。
福岡県飯塚市と、隣接する小竹町を対象エリアに、内科と糖尿病内科の訪問診療をメインで行い、一部外来も受け付けています。ドクターは私一人で、訪問診療件数は月間130件ほどです。無床診療所として一人で月に100件以上の訪問診療をこなすのは地元でも珍しいと思います。元々は、1988年2月に内科クリニックとして私が開業し、1991年8月に医療法人化しました。訪問診療を始めたのは2009年からです。当時は、私の妻も耳鼻科医として当院とは別の場所で耳鼻科クリニックを経営していました。2011年8月から約10年間は、当院と妻の耳鼻科クリニックが同じ建物で一緒になり、内科、糖尿病内科、耳鼻咽喉科の診療を行っていました。2021年8月に妻が引退したのに伴い、再び内科と糖尿病内科のクリニックとして現在に至っています。従業員は3人です。
どういった背景から譲渡をお考えになったのですか。
私の子どもは飯塚市内で耳鼻科医として既に開業しているため、大庭クリニックを継ぐ後継者は身内にはいません。そういった状況で働き続けてきましたが、年齢も重なり、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた2020年には、月に100件以上の訪問診療を行うには体力の不安を感じるようになりました。しかしながら、閉院は考えませんでした。仮に私が突然閉院すると、これまで診てきた患者さんが困ると思ったからです。飯塚市は高齢者が多い地域ですが、医師の高齢化も進んでいます。私が閉院すると、患者さんがこれまで同様に診療を受けられるか分かりません。地域医療を存続させねばという思いがありました。同時に、従業員の雇用を守るためにも閉院の選択肢はありませんでした。そうは言っても、一番年長の婦長が60~65歳まで働くためには、私は85~90歳まで働いてクリニックを経営しなければいけない計算になります。それは現実的ではないと思い、譲渡を考えるようになりました。
個人的なつてでは後継者が見つからず、ストライクに仲介を依頼
M&Aに対して、当初どのようなイメージを持っていましたか。
M&Aという手法は、2019年に顧問税理士から教わって初めて知りました。その時は譲渡を本格的に考える前だったので、「そういう手法があるのだな」という程度に話を聞いていました。私の中で、M&Aは一般的な企業の間で行われるものであり、医療業界とは縁が薄いものだと感じていました。
ストライクに仲介を委託された経緯を聞かせてください。
譲渡を検討し始めてから、私や妻が個人的なつてを頼って第三者の後継者を探したのですが、一向に見つかりませんでした。そこで、ある仲介会社に動いてもらいましたが、それでも候補先が見つかりませんでした。そのような中、懇意にしている証券会社の方に相談すると、ストライクさんを紹介してくれました。担当の高橋歩武さんに初めてお会いしたのは2023年の7月です。
譲渡先の候補を探すにあたり、大庭先生のほうで条件や要望はありましたか。
まずは従業員の雇用を守ってくれることです。また、日曜日だけは休ませてほしいことと、年間に1回は1週間程度の休暇がほしい旨も同時に要望しました。というのも、私は訪問診療を始めて以来15年間にわたって、勤務時間外でもオンコール(患者の急変時などに対応できるよう自宅などで待機すること)の状態を続けてきたので、休みがほしいのは率直な気持ちでした。
共通した「地域医療を支えたい」という理念が譲渡の決め手
譲渡先は、全国で中小医療機関のネットワークを広げている医療法人グループだそうですね。早い段階から候補に挙がったのでしょうか。
高橋さんにお会いした後、1~2カ月ほどで候補に挙がりました。2024年1月に先方の理事長と飯塚市で初めてお会いし、色々とお話を聞くことができました。先方は、私のように後継者不足で悩む地方の中小医療機関のグループ化を進めていますが、そこには全国各地の地域医療を支えたいという明確なビジョンがありました。地域医療を存続させたいという私の考えとも共通し、理事長自身も医師でしたので、印象はとても良かったですね。
最終的に先方を譲渡先に選定した決め手は。
先方が東北や関東の医療機関をグループ化した事例をお聞きして、引き継ぐ医療機関に寄り添ったお考えを持っていることが分かりましたし、引き継いだ後の運営の仕方についても納得できました。総じて、安心感を持てたのが一番の理由です。また、私から先方には、すぐには難しくても数年以内には後継者になる医師を派遣してほしいと要望していました。それに伴い、それまでの期間は、私が引き続き現場に出ても構いませんともお伝えしていました。それらの点や休日などの条件も了承してくださった結果、2024年5月に譲渡契約が成約しました。
理事長職、屋号はそのままでお相手先のグループ傘下に
譲渡後の大庭クリニックの運営体制は、どのような形になっているのですか。
医療法人大庭クリニックは、お相手先の医療法人のグループに入りましたが、引き続き私が理事長を務めます。一般的な企業の例で言えば、これまで私はオーナー社長でしたが、雇われ社長に変わった形です。ただ、屋号は医療法人大庭クリニックのままですから、従業員や患者から見ると、今までと変わらないでしょうね。それに、私自身も引き続き現場で働きます。日曜日は休みになりましたが、それ以外では今までと同じような勤務を2024年11月まで続け、それから少しずつ休みを増やしていく予定です。後継者の医師は成約から3年後の2027年6月までに先方から派遣されて、私と理事長職を交代する予定です。これとは別に、現在、事務系のスタッフが先方から当院に派遣されています。
譲渡について、従業員の反応はいかがでしたか。
従業員は、この先も私が経営していくと思っていたようです。私が「経営から身を引きます」と伝えると、皆が一様に「これからも一緒に働けると思っていたから寂しいです」と言ってきました(苦笑い)。そのため、引退後も従業員とプライベートな付き合いがある妻も加わって、今回の譲渡の理由を説明しました。従業員が60~65歳まで働けるための手段であること、そして、私がすぐに現場からいなくなることはない、ということをきちんと伝えると、従業員たちは納得してくれました。
自身の休日が増えることにも安堵
今回、M&Aによる第三者への譲渡となりましたが、その決断をしてよかったと感じられた点は?
地域医療が存続できたことと、従業員の雇用が守られたことの2点です。私自身としては、自分があと何年間現場で働いたらいいのか、ある程度の期限が見えたことが大きいですね。足元では休日が増えたことが嬉しいです。これまでは土日も介護施設で訪問診療をしてきたため、週末に休みを取ることはありませんでした。2024年7月のある日曜日は、十数年ぶりに朝から丸一日休むことができましたよ。
長くオンコールな状態であったことも含めて、ご自身よりも患者さん優先の生活がずっと続いていたのですね。
ですから、妻は私をもうそろそろ休ませたいと思っているようです。これまで、長期休暇もろくに取れませんでした。昨年に、たまたま1週間ほど時間ができたので、二人で海外旅行に行きましたが、それも約40年ぶりのことです。今後は、少しずつ長期休暇も取れるようになると思うので楽しみです。
ストライク担当者の丁寧さを評価
この度のM&Aにおけるストライク担当者の対応はいかがでしたか。
高橋さんには、とてもよくしていただきました。また、仕事が早いことが印象的でした。それまで1年半以上も譲渡先が見つからなかったのに、ストライクさんに委託してから1~2カ月後には今回の案件が動き出していましたから。もう一つは細かな点ですが、これまで高橋さんとは何度となくメールのやり取りをしてきて、その全てで、最後は必ず高橋さんからの返信メールで終わっていました。そういった徹底した丁寧さにも感心しました。
第三者承継なら仲介会社活用を
最後に、後継者不足に悩んでいる中小の医療機関にメッセージをお願いします。
第三者への事業承継を検討しているのであれば、対応がきちんとした仲介会社の活用をお勧めします。個人で譲渡先を探すのは、よほどのつてがないと難しいです。現に私と妻は見つけることができませんでした。一方で、仲介会社が間に入れば非常にスムーズです。譲渡候補先も探してくれますし、今回の当院の例で言うと、こちら側の要望や条件をストライクさんに伝えれば、ストライクさんがそれをかみ砕いて先方と交渉してくれます。私は、こちら側の言い分と先方からの要求にどう答えるかの検討に専念できるのです。そのため、交渉期間中は全く負担を感じませんでした。また、今回の譲渡を通じて、第三者への事業承継を考えている医療機関が一定数いるという印象を改めて持ちました。M&Aは、医療業界とは縁が遠いものと思っていたので、仲介会社の存在はありがたいです、特にストライクさんは対応が丁寧なので、これからも医療関係のM&A実績を増やされることを期待しています。
本日はありがとうございました。
M&Aアドバイザーより一言(高橋 歩武・ヘルスケアグループ アドバイザー談)
医療法人大庭クリニック様は、福岡県飯塚市で30年以上にわたり地域に寄り添った診療を行っており、長年患者様に愛されているクリニック様です。外来に加え、訪問診療でも数多くの患者様へ医療を提供されており、地域になくてはならない医療機関です。
M&Aを検討するにあたり、大庭先生は、「地域医療の継続と全従業員の雇用を守る相手先でなければならない」という思いを強く持たれておりました。面談を重ねる中で、ご自身の診療内容や患者様・従業員様に対する想い、地域課題等をお伺いし、大庭クリニック様を存続させることの重要さを何度も実感いたしました。
その中で、将来の方向性への一致・大庭先生の大事な想いを引き継ぐことが出来るお相手先として、既に全国各地域で診療実績のある医療法人グループ様とのご成約に至りました。M&Aを検討する理由や背景はそれぞれ異なりますが、譲渡をご検討される医療法人様は増えてきております。第三者承継という手法を通じ、一件でも多くの医療機関の課題解決に寄与できれば幸いです。
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