ご成約インタビュー No.97
INTERVIEW
北海道ガスのグループ会社が
地域の給排水設備工事会社を譲受
施工人材・技術力の強化を狙う
- #事業拡大
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- #アフターM&A
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北ガスフレアスト株式会社 代表取締役社長 日南産業株式会社 代表取締役社長 高橋 憲司 氏
北ガスフレアスト株式会社 常務執行役員 総合企画部長 髙橋 恒行 氏
北海道ガス株式会社のグループ会社で、ガス機器小売事業やリフォーム事業を手掛ける北ガスフレアスト株式会社は2024年2月、札幌市内の一般住宅を中心に給排水衛生設備や冷暖房空調設備の工事を行う日南産業株式会社の全株式を取得した。北ガスフレアストは、日南産業の強みである高い技術力を持つ人材を譲り受けることで施工人材の強化を図るとともに、将来的には給排水設備工事からガス工事を一気通貫で行う体制を目指す。
4月に両社の代表取締役に就任した高橋憲司氏と、今回のM&Aにおいて中心的な役割を果たした北ガスフレアストの髙橋恒行氏のお二人にM&Aの狙いやPMIについてお話を伺った。
取引のない企業とのM&Aは
北ガスグループ初の試み
まずそれぞれの事業内容、特徴を教えてください。
高橋社長:日南産業は、札幌市内および札幌市近郊の一般住宅を中心に給排水衛生設備、冷暖房空調設備、水道施設などの工事を行う会社です。設立は1984年、40周年を迎えます。2024年2月に北ガスフレアストと資本提携をし、北ガスグループに仲間入りしました。4月より北ガスフレアストの代表取締役に就任した私が日南産業の代表を兼任しています。
売上高は9億円超、給排水設備工事では札幌市で3本の指に入る規模の会社です。施工班を自社に擁していることが一番の特徴で、その技術はクライアントであるハウスメーカーに高く評価されています。40年にわたり培ってきた実績と信頼が最大の強みです。
髙橋常務:北ガスフレアストは、北海道ガスのガスをお使いいただいているお客様に対してガス機器の販売・取付、メンテナンス、安全点検、リフォーム工事を行う北海道ガス株式会社のグループ会社です。北ガスのお客様が約60万軒、そのうち約40万軒が当社の担当エリアです。近年はリフォーム事業が第二の柱になっています。
今回のM&Aの背景をお聞かせください。
髙橋常務:建設・設備業界は施工の人材不足が非常に深刻です。当社も採用を強化してはいますが、他社との協業に解決の糸口はないかと考え、M&Aも視野に入れストライクさんと情報交換する中で、今回のM&Aに至りました。
近年リフォーム工事の受注が増えているため、当初は内装工事会社のM&Aを画策しておりましたが、ストライクの田中さんより日南産業をご紹介いただき、事業シナジーの検討を重ねる中でイメージが膨らんでいきました。また、特定のハウスメーカーに依存することなく取引先が分散されているため健全な財務体質であることや、自社で施工班を持ち多くの職人が在籍しているところも非常に魅力的でした。
どのような相乗効果が期待されたのでしょうか。
髙橋常務:ガス工事と水道工事は職人も技術も機械も異なるため、別々の会社で施工するのが一般的ですが、もし自社で一気通貫のサービスが実現できれば効率は格段に向上し、取引先であるハウスメーカーや、エンドユーザーのお客様の利便性も高まると考えています。
それまでの譲受は協力会社などが中心だったそうですね。
髙橋常務:元々、当社は北ガスのサービス指定店として営業していた会社でしたが、2003年に北海道ガスの傘下に加わりました。その後、同業のサービス店や取引関係のある協力会社との吸収合併などを繰り返し、現在の北ガスフレアストの体制があります。これまで多くのサービス店や取引会社が仲間に加わりましたが、取引関係のない企業がグループに加わるのは、当社はもちろん北ガスグループとしても初めてのケースでした。
成約に至るまで大変だったことはありますか?
髙橋常務:M&Aはお相手のご意向もあって成立するものですから、ご紹介を受けてから具体的に話を進める段階に至るまで半年ほどの時間がかかりました。ただ、その間も田中さんが定期的に状況を報告してくれていましたし、無理に進めようとしないところに好感を持ちました。
また、親会社である北海道ガスの取締役会決議事項となるため、基本合意以降はデューデリジェンスや社内承認の対応など、北ガス担当部門との連携が必要でした。北ガスグループ内の協議や承認がスムーズに進むようにするためにも、田中さんと常に電話やメールのやりとりをしていましたね。
常勤の経営陣が着任し
PMIをスピーディに展開
制度と意識の改革を図る
資本提携後、北ガスフレアスト側から経営人材が派遣されています。
髙橋常務:「常勤で経営を担う人材を派遣する」ことが前オーナーからのリクエストでもありましたので、北ガスグループより青木と嘉多山の2名を派遣し、日南産業の取締役常務執行役員に就任、スピーディにPMIを進めてくれています。
PMIはどのように進んでいますか?
高橋社長:まずは人事・福利厚生制度の改革、処遇改善を進めています。人事評価制度の整備はこれからですが、7月のボーナスでは新たな査定制度を導入しました。言葉にして喜びを伝えてくれる社員もいて、モチベーションアップにつながっていると感じました。
人材教育に関しては、現場の方々に北ガスグループの行動規範を身につけてもらうべく、北ガスフレアストの工事に同行してもらっているところです。日南産業は新築工事がメインなので、お客様にお会いすることがほとんどありませんが、北ガスフレアストはリフォーム工事が多いため、実際にお客様がお住まいになっているご自宅内など制約された条件の中で工事を行うため、施工を担う社員は身だしなみ、立ち居振る舞い、養生などさまざまな教育研修を受けています。今後は日南産業のメンバーにも教育研修を受けてもらい、より一層のサービス向上を目指していきたいと考えています。
社員の方の変化は見られますか?
高橋社長:北ガスグループの一員になった期待感で、モチベーションは高まっていると思います。本当に皆さん前向きで、私に対しても「こんなことがしたい」「こうすればもっと働きやすくなる」といった意見や希望をどんどん出してくれるので、良い意味で驚いています。
青木と嘉多山の人柄、経験によるところも大きいと思っています。二人ともそれぞれの役割を把握し、社員の皆さんと非常に良い関係が築けているように感じています。バーベキューなど社内イベントも大好評で、最近は社員同士のコミュニケーションも活発になってきています。
経営面についてはいかがですか?
高橋社長:近年、戸建住宅の建築市場は縮小傾向にあります。このままではいずれ行き詰まってしまうため、ハウスメーカーごとの数字を分析するなどして利益構造の改善を図っているところです。営業活動も効率を上げ、成果を出せるように強化していくつもりです。
“人のシナジー”もM&Aのメリット
2つの文化が融合することで
社員の成長を促すこともできる
取引先の反響はありましたか?
高橋社長:社長就任のご挨拶に伺ったところ、多くのお取引先が「北ガスのグループに入ってくれて良かった」と喜んでくださいました。協力会社の経営基盤が安定することで、より安心して発注できるようになるのだろうと思います。
「いずれは当社が給湯暖房・衛生設備工事とガス工事をワンストップで承ります」というお話をしたところ、皆さん期待を寄せてくださいました。ガスと水道を一緒にやれば工期短縮、コスト低減が可能です。お取引先であるハウスメーカーにとってもメリットは大きく、我々が他社との差別化を図る武器になると考えています。
北ガスフレアスト様の今後のM&A戦略をお聞かせください。
髙橋常務:北ガスフレアストはリフォーム事業にさらに注力する方針で、そのためにも内装工事業や電気工事業のグループ化を考えています。ガス、水道に加えて内装や電気もできると“鬼に金棒”です。将来的には住宅の設備工事全般を担うことで、お客様に対して新たな付加価値を提案できるようにし、より快適な暮らし・地域社会を支えていきたいです。
高橋社長:M&Aは事業拡大の戦略の一つですが、「共に成長できる」ことが大きなポイントです。日南産業を見ていて、全く別の企業文化が交わることによって、事業のシナジーだけでなく、新たな世界に触れた個々の社員が成長していく“人のシナジー”もあると実感しています。人が成長すれば、企業体質もまた進化するはずです。今回のM&Aも、両社の人材の成長と両社の発展を促す価値あるものにしていきたいと思っています。
日南産業に着任した取締役のお二人にPMIについてお聞きしました。
社員の技術や実績、思いを尊重し、
最高・最大のパフォーマンスを引き出す
日南産業株式会社
取締役 常務執行役員 青木 勝則 氏
取締役 常務執行役員 嘉多山 洋一 氏
――PMIが順調に進んでいるとお聞きしています。
嘉多山:4月に着任し、着手できるところからどんどん着手しています。まずは人事・福利厚生面ですね。私は主に工事部門を担当しており、5月にまず新たな資格に関する制度をつくりました。北ガスグループの制度の“いいとこどり”をしたような内容で、資格取得の補助、資格手当などが盛り込まれています。
人材教育については、日南産業の職人たちに北ガスフレアストのエアコン工事の手伝いをしてもらう形で、北ガスフレアストの施工の基準ややり方を経験してもらっています。週1で職人の班長会議を始めたので、そのときに北ガスフレアストの工事で学んだこと、失敗したことなどを共有したりもしています。今後は、日南産業の現場に北ガスフレアストの社員が学びに行く場もつくり、両社の良いところ、改善すべきところを共有し合う体制にしていきたいと考えています。
青木:私の大きな役割は一言で言うと「いい・悪いを明確にする」ことです。今回のM&Aで日南産業は、オーナー企業から上場会社のグループ企業となりました。社員の皆さんがより働きやすい環境、長く働ける環境をつくっていくためにも、改善すべきことを速やかに改善していかなくてはなりません。これまで築き上げてこられた良い企業文化は維持しつつ、丁寧に取り組んでいきたいと考えています。
今のところ順調に進んでいます。二人体制なのが良い方向に働いているかもしれません。PMIを進めるには社員の思いを尊重し、正すことと支えることの両方が必要だからです。どちらかというと私が厳しいことを言う側で、嘉多山が寄り添う側(笑)。実際、嘉多山は人の心をつかむのが上手で、皆の信頼を得ています。
――社内イベントを企画されているそうですね。
嘉多山:高橋社長の意向もあり、早速5月にバーベキューを企画しました。幸い会社の敷地が広いので、家族も呼び、子どもたちもたくさん参加してくれて楽しかったです。好評だったので、6月には近隣の取引先もお招きして行いました。今後も定期的に開催していく予定です。
北ガスグループが毎年7月に札幌ドームを貸し切って行う1万人規模のリレーマラソン大会にもチーム日南産業で参加しました。大会後の打ち上げは焼肉屋を貸し切り、北ガスフレアストと日南産業の社員100名近くが参加して、とてもにぎやかでした。良い交流の場になりましたね。
――今後の方針をお聞かせください。
青木:社員は皆、今回のM&Aをポジティブにとらえ、何事も前向きに取り組んでくれています。問題だと思っていること、やりたいことなどを積極的に伝えてくれているので、変えられるものから着実に変えて、社員の皆が最高・最大のパフォーマンスが出せる環境を整えたいです。
嘉多山:私は職人の方たちの技術と実績をリスペクトし、彼らがプライドを持って気持ちよく働けるようにしたいと考えています。その思いはストレートに伝えましたし、しっかり響いていると思っています。北ガスグループに入ったことで日南産業の社員がより一層力を発揮できる会社になるように、そして北ガスグループにとって日南産業が欠かせないピースとなるように、PMIを着実に進めていきたいと思っています。
本日はありがとうございました。
M&Aアドバイザーより一言(田中 遼真・北海道営業部 シニアアドバイザー談)
経営者にとって、築き上げてきた会社を誰にどのような形で承継するかは、人生の中でも特に重大な決断です。
日南産業様も長年にわたり「親族承継」と「M&A」の選択に深く悩まれていましたが、北ガスフレアスト様との出会いが大きな転機となりました。
当初は慎重に検討を重ねておられましたが、具体的な提案内容が日南産業様の想いと事業ビジョンに見事に合致し、その結果、お話は順調に進展しました。そして、最終的にはお互いにとって非常に満足のいく形で成約の日を迎えることができました。
本件を通じて、M&Aは相手企業や条件次第で、その結果が大きく変わることを改めて実感いたしました。
事業承継に悩まれている経営者様には、早めの情報収集と積極的な選択肢の検討が、未来の可能性を広げる鍵となることをお伝えしたいです。
今後も、両社のさらなる成長を心より祈念するとともに、M&Aを通じて北海道経済の発展に一層貢献できるよう努めてまいります。
本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。
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