INTERVIEW

従業員承継が頓挫し、後継者不在に
「M&Aは難しい」と考えるも税理士事務所の助力で無事に成約

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入船プラスチック工業株式会社 代表取締役社長 入船 佳樹 氏、税理士法人吉井財務研究所 代表社員 税理士 市橋 晃 氏、税理士法人吉井財務研究所 福山支店 支店長 梶山 慶学 氏、ストライク東

入船プラスチック工業株式会社 代表取締役社長 入船 佳樹 氏
税理士法人吉井財務研究所 代表社員 税理士 市橋 晃 氏
税理士法人吉井財務研究所 福山支店 支店長 梶山 慶学 氏

1969年の創業以来、プラスチック板加工・銘板製作販売を主な業務として、工場や商業施設の表示プレートや看板、レーザー加工品などさまざまな製品を受注生産する入船プラスチック工業株式会社(本社:岡山県岡山市)。代表取締役社長の入船佳樹氏は事業承継について顧問である税理士法人吉井財務研究所に相談しM&Aを決断、2023年11月、電気工事の設計・施工を専門に行う旭電業株式会社(本店:東京都世田谷区)を中核とする持株会社旭ホールディングス株式会社への譲渡を決めた。譲渡への道のりについて、入船氏と吉井財務研究所のお二人にお話を伺った。

創業55年のプラスチック加工メーカー
顧客のアイデアや要望を形にし
早く安く「困りごと」を解決

入船プラスチック工業様の事業内容を教えてください。

入船プラスチック工業株式会社 代表取締役社長 入船 佳樹 氏
入船プラスチック工業株式会社・代表取締役社長の入船佳樹氏。2023年11月、M&Aによる第三者事業承継を実行。

入船:1969年に父が創業した当時は、電信柱の番号札を製作していました。そこからだんだんと事業を拡張し、今は社内に加工部門、彫刻部門、印刷部門を設けて、主力の銘板や表示板のほかにプラスチックのカバーや展示物などさまざまなものを製作しています。

サービスの強みは何ですか?

入船:工業地帯の工場に出入りするうちに、「お客様の困りごとを解決する」というスタイルができあがりました。現場で営業担当が「こういうものがほしい」と言われたら、大半の会社は既存の商品を探すでしょうが、私たちは営業担当がある程度の出来上がりを考え、製造部門に伝えて製品にします。さまざまな機械を備え、レーザー彫刻や刻印加工、インクジェットプリンターによる印刷などお客様のさまざまなニーズに対応しています。お客様は飲食店などにも広がっています。ワンストップで困りごとを解決できる。しかも早くて安い。これが強みです。

コロナ禍で従業員承継を断念
税理士のアドバイスを受け、
譲渡先を探すことに

親族承継の選択肢はなく、従業員承継の準備をされていたとお聞きしています。

入船:娘2人、息子1人がいますが、「岡山から出て、それぞれの人生を歩め」という考えで育てました。今は3人とも首都圏で暮らし、上場企業など大手に勤めています。私も大学卒業後に商社に勤めたので、上場企業で働く面白さはわかります。会社を継ぐ必要はありません。

60歳で引退するつもりで、「この人なら」と思う従業員を後継者候補として育ててきました。個人保証を負わせることになるので悩みましたが、本人も「やります」と言ってくれて、取引銀行にも相談して「やりましょう」となりました。吉井財務研究所さんには2013年から顧問をお願いしていて、事業承継に関しても、弊社の担当である梶山さんにM&Aの可能性も含めお話ししていたと思います。

梶山:試算表の処理や報告のため毎月ご訪問する中で、従業員承継の話をお聞きしました。そこで、承継の担当税理士である市橋を連れていきました。

市橋:「従業員承継は難しい」というご説明をした覚えがあります。親族ではない方が承継して従業員がついていかなかった、などというケースがあるからです。M&Aのほうが社長にとって金銭面のメリットが大きいといったお話もしたと思います。ただそのときは、従業員承継が既定路線ということで、株式の評価や融資制度の確認などをしました。

なぜM&Aに舵を切ったのでしょうか?

税理士法人吉井財務研究所 代表社員 税理士 市橋 晃 氏
税理士法人吉井財務研究所の市橋晃氏。同事務所の代表税理士で、事業承継や相続の分野で豊富な経験を持つ。

入船:2020年のコロナ禍の影響です。事業承継どころではなくなり、会社を生き残らせて経営を安定させようと一生懸命でした。その後、コロナ禍を乗り切るめどが付いたのですが、承継予定だった従業員が2022年に「体調が思わしくない」と退職することになりました。従業員承継を断念し、銀行や吉井財務研究所さんに相談しました。

市橋:お話をお聞きして、M&Aによる事業承継をご提案しました。ストライクさんを紹介したのは、全国展開をしている大手のため、買い手候補のネットワークが豊富にあるだろうと考えたからです。ストライクさんは税理士協同組合と提携していて、仲介手数料を抑えられるというメリットもありました。

お相手が見つかるまでに大変だったことはありますか?

入船:私たちのような小さい規模の会社は譲渡が難しいだろうとは思っていましたが、なかなか決まらずにかなりへこみました。買う立場だったら、ニッチな市場で社長が属人的に経営しているように見受けられるところにはなかなか手を出しませんよね。買い手候補からいろいろな質問が飛んできて、結構しんどい思いもしました。M&Aの教科書にも書いてある「トップライン(売上高)を落とさない」を守ることも大変でした。毎晩遅くまで仕事をしました。

お相手は同じ岡山発祥の企業
「任せておきなさい」の一言が決め手に

旭電業様を譲渡先に選ばれた決め手は何だったのでしょうか?

入船:旭電業さんはお客様でもあり、事業シナジーが見込めますので、最初から譲渡先として頭にありました。M&Aのために改めてお会いしたのが2023年8月だったと思いますが、旭電業の松岡(徹)社長が「任せておきなさい」と言ってくださいました。「任せておきなさい」には従業員やお客様なども含まれます。「この会社なら安心できる」と感じたのが決め手になりました。

もう一つが、同社も弊社も岡山発祥の地場の企業であり、私たちの業態をよく理解してくださっていることです。松岡社長に「入船プラスチック工業の持つ機能、技術を岡山からなくしてはならない」と言っていただきました。この2点が大きいですね。「まだ若いのだから社長を続けてください」と言われ、しばらく留任することにはなりましたが、成約して本当にほっとしています。

吉井財務研究所様からはどのようなサポートがありましたか?

税理士法人吉井財務研究所 福山支店 支店長 梶山 慶学 氏
税理士法人吉井財務研究所の梶山慶学氏。入船プラスチック工業の担当者で、事業承継もきめ細かくサポート。

入船:相手探しから交渉に至るまで、非常にタイムリーにさまざまな資料を出していただきました。譲渡時の税務についても、いろいろと教えていただきました。M&Aという相談先が限られる内容について、都度ご相談させていただけたことで安心して進めることができました。

梶山:入船社長は税務についても十分に理解されており、事業承継の準備もしっかり進めておられたので、私たちもとてもスムーズにサポートさせていただくことができました。M&Aのプロセスにおいては経営者の方が不安になる局面がどうしても出てきますので、なるべくそうならないように、レスポンス早く対応することは意識していましたね。

昨年11月の成約から半年が過ぎました。会社に変化はありましたか?

入船:業績はほぼ同じです。社内は徐々に変わってきています。例えば、これまで新卒採用はしていませんでしたが、旭電業さんの採用担当者から「グループ各社で新卒採用をしますが、どうしますか?」と電話があり、手続きなどサポートしてくださるとのことでお願いしました。このほか、情報システムや倉庫のスペースなどグループのリソースを使わせてもらえて、メリットを感じています。

ストライクのサービスや担当者はいかがでしたか?

入船プラスチック工業株式会社 代表取締役社長 入船 佳樹 氏、税理士法人吉井財務研究所 代表社員 税理士 市橋 晃 氏、税理士法人吉井財務研究所 福山支店 支店長 梶山 慶学 氏、ストライク東
吉井財務研究所とストライクが連携して、今回のM&Aをサポート。入船氏は「M&Aという相談先が限られる内容について、吉井財務研究所さんに都度ご相談させていただけたことで安心して進めることができました。事業承継の問題を解決するには、顧問税理士事務所等の専門家のサポートが欠かせないと思います」と語る。
(写真右はストライク担当の東)

入船:成約できる見込みが少なかったであろう私たちの会社にきちんと寄り添っていただいて、本当にありがたいと思っています。買い手候補からいろいろなことを質問されて戸惑うこともありましたが、担当の東さんが「僕にできることはなんでもやります!」とフットワーク良く動いてくれました。東さんでなければ、ここまでたどり着けなかったと思います。

市橋:東さんはご自身の経験値をもとに、厳しいことも包み隠さず言ってくれました。それが功を奏したのでしょう。入船社長も「この人は信用できる」と思ったのではないでしょうか。

梶山:最終的には人対人ですね。東さんが真面目に誠実に取り組んだことが、社長との信頼関係につながったのだと思います。

事業承継に向けて大切なのはバリューチェーンの明確化や
税理士事務所等との関係強化

吉井財務研究所様は、今後も顧問先様のM&Aサポートを積極的に進めていく予定ですか?

梶山:事業承継についての社長の考えをくみ取ってサポートすることが基本で、その中にM&Aという選択肢もある、という形になると思います。

市橋:廃業だけはないようにしたいと思っています。そのためにM&Aはいい方法ですが、提案すると「うちの会社を売りたいのか」と言われることもあります。入船社長のようにフレキシブルな考えの方ばかりではありませんので、ハレーションを起こさないように伝えることがとても大切だと思っています。

最後に、事業承継課題を抱える経営者の方にアドバイスをお願いします。

入船:自分の会社の価値を生む仕組み、つまりバリューチェーンをきちんと説明できるようにしておくことがいちばん大事です。自分の会社を「いいな」と思ってくれる買い手候補が現れたときに、創業から始まる歴史や現在の状況、そして未来への展望をわかってもらえるようにしておかなければ、M&Aを成功に導くことはできないと思います。

会社の数字をきちんとつかんでおくことも大事です。吉井財務研究所さんはきっちり準備をしてくれていて、何かを尋ねるとすぐに答えてくれました。今回のM&Aがスムーズに運んだのは、吉井財務研究所さんのサポートがあったからです。事業承継の問題を自分一人で解決するのは難しいので、顧問税理士事務所等との信頼関係を深め、いざというときサポートが得られるようにしておくことも必要だと思います。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(東 孝則・九州・中国営業部アドバイザー談)

ストライク東 孝則

今回の成約のポイントは、旭電業株式会社(旭ホールディングス株式会社)の松岡社長が入船社長の継続勤務を条件としたことと、入船社長がその条件を前向きに受け入れられたところにあります。当時の入船社長のお考えではM&A後すぐの退任ではないことに対して迷われる部分があったかと思います。
昨年11月末の成約以降、初めての決算を4月に終えられた入船社長は、旭電業グループ様というパートナーを得られたことで、以前よりもどこか晴れやかな様子が感じられました。
入船社長は後継者候補の方と一緒に数年間にわたって、自社の強みや課題の整理などを、事業承継の準備として取り組んでおられました。残念ながらその従業員の方が承継することにはなりませんでしたが、そのご準備もあったことで、M&Aの取り組み開始から1年弱での成約となりました。コロナ禍や、後継者候補のご退職もあり、入船社長にとっては経営者として本当に難しい期間を過ごしてこられたと思いますが、事業に対する理解をお持ちである旭電業グループ様との良縁となり、本当に良かったと思います。
今後は旭電業グループ様のバックアップがある中で、入船社長はこれまで以上に前向きに経営に向き合われることと思います。旭電業グループ様の一員として、今後の入船プラスチック工業と入船社長がどのように活躍されていくのか、担当者としてとても楽しみです。

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