ご成約インタビュー No.93
INTERVIEW
北海道密着の地質調査会社
全国展開の大手と手を組み
次世代の人材育成と地域貢献を目指す
- #後継者不在
- #事業拡大
- #従業員雇用
- #老舗
- #建築・土木
株式会社ユニオン・コンサルタント
会長 関根 幸博 氏
総務部長 荒井 史彦 氏
株式会社ユニオン・コンサルタントは1973年設立、約50年にわたり北海道の公共工事で信頼と実績を積み重ねてきた地質総合コンサルタント。同社は株の承継や人材育成の問題を解決し、さらなる成長を図るため、2022年12月、同業大手の川崎地質株式会社(本社:東京都港区)への株式譲渡を行った。川崎地質は公共工事に強い同社との協業により北海道での事業拡大を図る方針で、2024年5月には北海道支店を同社ビルに移転している。当時の社長で現会長の関根幸博氏、M&AやPMIのキーマンである総務部長の荒井史彦氏に譲渡の経緯やPMIについてお話を伺った。
同業ながら強みが異なり
シナジーを生み出せる相手を選んだ
まず御社の沿革、事業内容とその特長を教えてください。
関根:当社は今年で創業51年目の地質総合コンサルタント企業です。地質調査の会社としてスタートし、高い技術力で実績を重ねるとともに、社会環境の変化や社会的なニーズに応え事業の多様化を図り、測量や土木設計も手掛けるようになりました。現在は地質調査が約7割、測量・土木設計が約3割となっています。
荒井:一番の特長は現場に強いことで、あらゆる場所での調査や測量に対応可能です。地域に根差して事業を展開してきたため北海道の地盤に精通した技術者を擁していること、地質調査と測量のサービスを一貫して提供できることも大きな強みです。
M&Aを考えるようになった背景、理由をお聞かせください。
関根:理由は大きく二つです。一つめは株式の承継です。当時、株式の約6割を創業家が所有していましたが、その方たちが高齢になって「株の所有は自分たちの代で終わりにしたい」と。次の世代に相続してもらっても株がさらに分散してしまうだけなので、何らかの方法を考えなければなりませんでした。
もう一つは技術の承継です。この仕事は国家資格を持つ技術者がいないと成り立ちませんが、主な有資格者が皆、50代になってしまいました。手を打とうにも、人材難が加速する中、自社の力だけで新たな人材を確保・育成するのは非常に難しい。5年先、10年先のことを考えて、株式の承継と技術の承継のために譲渡を決断しました。
M&Aの検討を始めたのはいつ頃ですか?
関根:私が2016年に従業員承継を行って社長になったときには、すでに株の承継の問題が出ていました。創業家からは当初、経営陣に買ってもらえないかという話もありましたが、とても個人で出せるような金額ではありません。お金を借り入れる、持ち株会社の制度を利用する――いろいろな方法を検討しました。M&Aしかないという結論に至り、ストライクさんを含め仲介会社に相談をしたのが2019年頃だったと思います。M&Aについては全く知識・経験がなかったため、専門家にゼロからすべて教えてもらいました。
どのようにしてお相手の検討を進められたのでしょう?
関根:今回のM&Aについては荒井を含め幹部と共有していたため、「雇用と業務内容の現状維持」「人材育成のサポート」の2つの条件をベースに1社1社、じっくり検討していきました。
異業種と組むのは、やはりハードルが高いと考えました。同業でも全員の雇用の維持は約束できないとか、設計系の企業で我々の業務内容が変わる可能性があるといったケースもありました。川崎地質さんは同業ですが、同社は国土交通省や防衛省のほかゼネコンなど民間の仕事にも強く、我々は北海道および道内の各市町村の仕事に強いという違いがあります。我々の業務内容も雇用も現状維持で、互いの強みを生かしていこうと考えが一致したことが一番の決め手になりました。
荒井:栃本(泰浩)社長が「ユニオン・コンサルタントという企業を尊重します」と言ってくださったことが印象に残っています。習慣や文化に違いはあるものの、同業同士だからこそわかり合えることも多かったですね。
創業家や元社員などに株が分散
一人ひとりの合意を得る必要があった
成約に至るまで大変だったことはありますか?
荒井:財務諸表などの必要書類を短時間で、しかも社員たちに知られないようにそろえるのは大変でした。労務・法務関連の書類もあり、苦労しましたね。
関根:私は株主の意向をまとめるのに苦心しました。先ほどお話ししたように創業家が株の約6割を所有、残りの株は元社員たちに分散していました。私が社長に就任する際、そのうちの数%を買い取り集約してはいましたが、まだ残っているぶんも多く、お一人お一人に売却の同意を得る必要がありました。最後は「創業家が売却するなら」と賛成してくれましたが、約2カ月間、気力も時間も要しましたね。
取引先など法人が所有している株もありました。今はもうお付き合いのない会社もあって、「なぜ御社の株がうちにあるのでしょう?」と聞かれたりもしました。お互い代替わりしているので、なぜなのか私もよくわからない(笑)。
荒井:現経営陣で株を持っているのは関根だけでした。どんでん返しの可能性もゼロではなく、我々も気を揉みましたね。紙の株券なので、どこにあるかわからず探してもらったケースもありました。最後の株券が送られてきたのが川崎地質さんに持参する数日前、本当にギリギリでした。
今回のM&Aが成功に至ったポイントをお聞かせください。
関根:私は成功したかどうかの判断はまだ先だと考えています。5年後、10年後に会社を存続させるためのM&Aでしたから、そのときに存続していれば成功ですね。
事業承継という観点では、後継者問題に悩み始めた段階で、すぐに承継の方法を考えることが非常に重要だと思います。「誰か社員がやってくれるだろう」などと考え先延ばしにすると、残された者が困ることになります。
荒井:そもそもM&Aで後継者問題を解決しようというのは売り手側の考えですよね。川崎地質さんも今回の買収について「後継者問題を解決するためではなく、互いの企業価値を高めるため」とおっしゃっていました。M&Aを成功させるには、どんな相手となら互いに持続・成長できるか、ウィンウィンになるかといった視点で、戦略的にM&Aという選択肢を考えることが大切だと思います。
成約後の準備期間を経て協業はこれから
人材交流を進めるとともに営業力の強化を図る
2024年6月、新社長が川崎地質様より着任されました。
関根:成約後の2022年度、2023年度は私が社長を続投、同社の非常勤役員が3名という体制でした。今年6月の株主総会で私は社長を退任、同社の渡辺均氏が代表取締役に就任しました。2名代表制とし、当社の幹部が代表取締役専務を務めています。
成約時、次の社長をどちらから出すのかは協議して決めることになっていました。当社はこの規模ですから、幹部が社長に就くと実務を行いながら経営も担わなくてはなりません。渡辺社長が就任してくださり感謝いたしております。
荒井:5月には同社の北海道支店が当社ビル内に移転しました。成約後の1年半はお互いを知るためのいわば準備期間で、協業がこれからいよいよ本格化していくと思います。
すでに動き始めていることはありますか?
荒井:川崎地質様には充実した研修システムがあるため、新人研修を同社の東京本社で行うようになったほか、中堅の社員たちも東京へ行って、研修会や技術発表会に参加しています。人材育成のリソースが乏しいことは悩みの種だったので、同社の研修を活用できるのは非常に大きなメリットです。
測量など我々の技術を教える機会も持ちたいと考えていて、提案もしています。異なる意見やノウハウ、経験を持つ人との交流は必ず成長につながるので、人材交流・技術交流は積極的に行っていきたいです。
社員の皆さんに変化は見られますか?
荒井:研修に参加して刺激を受けていますが、意識が変わっていくのはこれからだと思います。意識の変革は急ぐことでも期限を設けて進めることでもありません。社員の気持ちや立場も考慮しつつ、時間をかけて取り組むべきことだと考えています。
川崎地質様とのコミュニケーションはどのように?
荒井:月1回の取締役会に役員の方々に出席していただき、毎月、受注状況や諸問題を共有し、課題解決を図っています。そのほかに何かあれば随時、担当部署である事業統括室長に報告・相談しています。事業統括室長とはM&Aのときからやりとりをしているため、円滑にコミュニケーションがとれる関係性が構築されています。両社でバーベキュー大会を開いたり、社員同士の交流も図っています。
協業の展望をお聞かせください。
荒井:当社は官公庁の仕事がメインなので、営業経験が豊富な渡辺社長の下、特に民間企業への営業を強化し、売上を伸ばすことが当面の目標です。川崎地質さんは親会社ですが、上から押し付けるようなところが一切なく、「一緒に考えながらやっていきましょう」というスタンスです。いろいろなことに一緒に取り組むことが第一と考えております。
関根:これまで仕事の打診があっても対応できる人がおらず、チャンスを逃すことがありました。将来的には互いの強みを生かした協業も目指しますが、まずは川崎地質さんのお力も借りつつ自社の人材や機材を確保し、受注範囲を拡大できる体制を整えていきたいです。
荒井:「北海道に貢献したい」という思いは共通していて、両社がコラボすることによって、北海道に何が残せるかが中長期的な課題です。社会貢献を果たすためには、環境問題や災害対応に取り組むことも欠かせません。栃本社長のお話の中にも「持続性」というキーワードが出てくるのですが、両社が企業価値を高めつつ持続していくこと、そして共に北海道に貢献していくことを目指して、協業を進めていきたいです。
本日はありがとうございました。
M&Aアドバイザーより一言(中辻 智哉・北海道営業部 シニアアドバイザー談)
初期相談の段階から関根社長(当時)をはじめ幹部の方々のご意向をお伺いし、現状の課題や将来像などについて議論を重ねて参りました。
川崎地質様をご紹介させていただき、ご両社面談を複数回行った際には、お互いにどこか似たような社風や雰囲気を感じ取られ、提携後の姿について建設的な意見交換が行われたことを思い出します。
提携後には川崎地質北海道支店がユニオン・コンサルタント本社ビルに移転するなど、真の仲間としてより身近な存在となりました。
今後両社が更に連携を深め、益々発展されることを願っております。
M&Aアドバイザーより一言(田中 遼真・北海道営業部 シニアアドバイザー談)
本件は、技術者不足や技術承継の課題に直面する多くの企業にとって、非常に示唆に富んだ事例です。日本の人口構成の変化や高齢化が進む中で、優秀な技術者の確保はますます難しくなっています。建設コンサルタント業界においても、単独でこの問題を解決するのは困難な場合が多いのが現状です。
私自身、多くの建設コンサルタント業界のM&Aを支援してきた経験から、M&Aは単なる企業統合に留まらず、未来を見据えた成長戦略の一環として非常に有効であると感じています。信頼できる企業と手を組むことで、採用・育成・研究開発・DXなど多方面にわたる企業力の強化が可能になり、結果的に地域社会への貢献にも繋がるでしょう。技術者不足に悩む企業には、M&Aをぜひ一つの有力な解決策としてご検討いただきたいと思います。
本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。
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