INTERVIEW

獣医療業界を成長産業に。
経営と診療の分業で見据える先制医療の未来

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片浜どうぶつ病院 院長 栗原 誉規 氏

片浜どうぶつ病院 院長 栗原 誉規 氏

静岡県沼津市の「片浜どうぶつ病院」(株式会社楽)は、予防医学を基盤とする先制医療をモットーに掲げ、地域の動物たちの健康を総合的にサポートしてきた。2024年2月、同院は全国で幅広く動物病院を展開するWithmalグループに参画し、新たな一歩を踏み出した。M&Aの経緯や狙いについて、院長の栗原誉規氏にお話を伺った。

「一の予防は百の治療に勝る」を信条に、
先制医療による0.5次診療に注力

片浜どうぶつ病院の沿革や診療方針、特徴を教えてください。

片浜どうぶつ病院外観
2012年の開業以来、予防医療に注力してきた片浜どうぶつ病院

じつは当院を開業する前、別の地域の病院で事業承継の話があったのですが、いろいろあって計画が頓挫し、自分で1から病院を開業することになりました。私か妻のどちらかの地元で開業しようと考え、今から12年前の2012年、妻の出身地である静岡で開業しました。

当院の診療方針は、「先制医療による0.5次診療」です。動物病院の役目は、疾患が発症してから治療をすることだけではありません。従来の獣医学では発症前診断が不十分だったため、そこがジレンマになっていました。近年は獣医学が発展したことで、発病前の段階での検査による予見や、犬種ごとに発病しやすい疾患や年齢などの予測が可能になり、早期の医学的介入が可能になってきています。そこで当院では従来の予防医学をさらに発展させ、先制医療という概念を取り入れて、日々の診療に励んでいます。

先制医療を実現するために、どのような取り組みをされているのでしょう。

診療の際に心がけているのは「一の予防は百の治療に勝る」という信条です。これは学生時代の恩師の言葉で、また私自身が大学で栄養学を専攻していたこともあり、特に意識して仕事をしてきました。

先制医療というと「予防メインの動物病院」と誤解されがちですが、私たちは「内科の究極を突き詰めた獣医療」だと考えています。従来の医療は疾患が発症してから対応するのが一般的ですが、当院では「発症を防ぐためにはどうすべきか」という視点でアプローチしています。当院には現在、4名の獣医師をはじめ、動物看護師やトリマー、ドッグトレーナーなどのスタッフが在籍し、動物たちの健康を総合的にサポートしています。検診メニューや健康管理スケジュール、身体づくりのトレーニングなどを提案し、診療にあたっています。

「疾患の発症を防ぐ」という病院の方針を、飼い主様はどのように受け止めていますか。

実際には、先制医療の概念をお伝えしても、すぐには理解していただけないことが多いですね。そのため、飼い主様の意識変革に向けて努力を続けています。たとえば「この犬種は血統的にこういう病気になることが高確率で考えられるので、今からこういう予防策をとっておくといいですよ」といった、具体的な説明を行っています。このようなアプローチを通して、徐々に先制医療への理解が深まり、定期的にペットの診察を受けに来られる飼い主様が増えています。私たち医療者も、飼い主様も、大切なペットが元気で長生きすることを願っています。そのために、最善の医療を提供することが動物病院の使命だと考えています。

“診療兼経営”のプレイングマネージャーでなく
経営者として獣医療の発展に貢献したい

M&Aを考えるようになったきっかけを教えてください。

片浜どうぶつ病院 院長 栗原 誉規 氏
今回、お話を伺った片浜どうぶつ病院の栗原 誉規院長

もともとは譲渡側でなく譲り受ける側になりたいと思っていたので、病院の経営基盤が整ってきた時期に、いろいろ検討していたんです。けれども病院でトラブルがあって院内の雰囲気が悪化し、精神的に弱ってしまいまして……。そんな時期に、ストライクさんからM&Aの提案がありました。私は長年にわたって「プレイングマネージャー」として仕事をするうちに、だんだんプレーヤーとしてのモチベーションが低下してきたことを感じていました。また、診療よりも経営に興味があったので、プレーヤーとマネージャーを分けるべきだと考え、経営者として専念できるなら譲渡してもいいと思うようになりました。

ご家族や従業員の承継については検討されましたか。

いや、それは考えませんでしたね。当院の勤務医たちはその意向を示していませんでしたし、ペット数が減少していく中で、これから厳しくなる業界です。承継は大きな責任を伴うので、従業員に任せようとは思っていませんでした。

また、わが子はまだ幼く、妻は臨床検査技師として仕事をしているので、親族内承継についても検討しませんでした。妻は「見ていてつらそうだから、早くM&Aを決めて、ラクになったほうがいいよ」と第三者への譲渡を後押ししてくれました。

譲渡の条件について教えてください。

そろそろ臨床よりも経営に専念し、これからの獣医療の成長戦略を考えていきたいと思っていました。そういった環境があるならば、それは私にとってステップアップになると捉えました。小規模な病院ではできることが限られているので、大規模なグループ病院に参画することで、自分の意見を採用してもらいながら、会社経営がうまくいくように協力できる環境を求めていました。

お相手にWithmalグループを選んだ理由は?

この業界は将来的にかなり厳しい予測が立っており、すでにペットの頭数がピーク時から3割減少し、動物病院の潜在顧客数もピーク時の40%まで減少しています。これからの時代に対応していくには、規模の大きな経営体力が必要です。Withmalグループのバックボーンを知り、山崎社長の考えを伺ったところ、私と同じ問題意識や危機感を持っていることがわかりました。方向性が一致したため、Withmalグループを選ぶことに決めました。

従業員のみなさんには、いつ、どのようなタイミングで伝えましたか?

譲渡契約の調印後です。まだ検討の段階で早まって伝えると動揺させてしまうと思い、決まるまで一言も話していませんでした。調印後の朝礼で、従業員たちに「病院を譲渡しました」と説明しました。法人の名前が変わるわけでもなく、給料体系や雇用条件、勤務形態も何も変わらないため、皆さんに特に大きな影響はないと伝えたところ、特に大きな反応はありませんでしたね。

現場の声を経営戦略に生かす
架け橋としての役割へ

成約後の変化や、今後の展望について教えてください。

今後一定期間はこれまで通り院長として留任し、徐々に後任の採用や引継ぎなどを整えていく予定になっているので、仕事内容はこれまでと変わっていません。とはいえ、経営の負担が軽減され、気持ちはだいぶ楽になりました。今後は、Withmalグループに意見を伝えながら関わったり、現場の意見を吸い上げる相談役のような役割を果たしたりできたらと考えています。また、個人的には不動産経営にも挑戦してみたいと思っています。

ストライクのサービスや担当者の対応はいかがでしたか?

片浜どうぶつ病院 院長 栗原 誉規 氏、ストライク吉川
診療よりも経営面に興味が湧いてきたと話す栗原院長(写真右はストライク担当の吉川)

もともと「絶対に譲渡する」と決めていたわけではないところからのスタートでしたので、担当の吉川さんには、M&Aに対する率直な思いや疑問などをたくさん聞いていただきました。こちらの要望や条件が通るように一生懸命動いてくださっている吉川さんの姿を見て、揺るぎない信頼感が生まれました。本当に感謝しています。

最後に、病院経営において課題を感じている獣医師の方へメッセージをお願いします。

片浜どうぶつ病院 院長 栗原 誉規 氏、ストライク吉川
「これからの獣医療が伸びていくには診療と経営を分けることも選択肢の一つだと思います」と栗原院長

私を含め、開業している獣医師は、自分の専門知識だけでは乗り越えられないことで悩んでいる場合が多いですね。「獣医師としての技術を磨けば、きっと成功するはず」と専門知識だけで開業し、いざ経営者としての厳しい現実や課題に直面したとき、診療にも専念できず、悩むことが多いと思います。

獣医師という専門だけにこだわらず、さまざまな観点から経営について学び、現実的な目線を持つことが大切です。これから獣医療が成長産業として伸びていくには、経営の負担を感じながら診療に専念するのでなく、診療と経営を分けることも選択肢の一つだと思います。専門はそれぞれの専門で分業して行っていくほうが、より充実した人生を送ることにつながると確信しています。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(吉川 雄太・企業情報部 シニアアドバイザー談)

ストライク吉川 雄太

片浜どうぶつ病院の栗原先生は「獣医療の発展への貢献」と「経営と診療の分離」を目的にM&Aをご検討されておりましたが、先生自身は40代とお若く、M&Aの緊急性は高くなかったため、当初は「良いご縁があれば」というお気持ちであったと思います。
そのような中で今回のお相手となったWithmalグループの山崎社長は、栗原先生と同様に「動物病院業界を変えたい」という熱い気持ちをお持ちであったことから、今回のM&Aが実現に至りました。
M&Aは「ご縁とタイミング」と言われることが多いですが、栗原先生が今回早期にM&Aを検討していたことがこの良縁を生んだと思います。
Withmalグループのサポートやグループ病院との連携を通じ、今後さらに片浜どうぶつ病院様が成長・発展されていくことを、心より祈念しております。

本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。

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