ご成約インタビュー No.87
INTERVIEW
北海道・名寄で素牛を育てる畜産農家
顧問税理士の後押しで
M&Aによる事業承継を選択
- #後継者不在
- #事業拡大
- #地方創生
- #セカンドライフ
- #外食・食品関係
有限会社きしかわ畜産
代表取締役 岸川 春巳 氏 岸川 和子 氏 ご夫妻
北海道名寄市で畜産業を営む有限会社きしかわ畜産は2024年2月、道内で飲食店事業をメインに食肉加工業などを行う道内の大手グループに事業を譲渡した。きしかわ畜産はホルスタインの雄の子牛を育てる素牛農家で、後継者不在のため一時は廃業も考えたが、顧問税理士のアドバイスを受けM&Aによる事業承継を検討、かねてから畜産業を手掛けたいと準備を進めていた同グループとのご縁が成立した。M&Aに至った経緯や想い、事業の引き継ぎなどについて、岸川氏ご夫妻にお話を伺った。
有限会社きしかわ畜産
ご成約インタビュー動画
生まれてまもない子牛を
生後7カ月頃まで育てる素牛農家
無借金で優良経営を続ける
「素牛農家」について教えてください。
春巳氏:素牛農家は、酪農家で生まれた生後1週間~10日の子牛を市場で選んで買い、7カ月頃まで育て、「肥育農家」に出荷します。牛は肥育農家でさらに1年間ぐらい育てられ、食肉用として出荷されます。私たちは素牛農家で、ホルスタインの雄を月に約50頭、集荷・出荷しています。
分業体制になっているのはなぜですか?
春巳氏:生まれたばかりの子牛を育てるのは大変で、手がかかります。病気にも弱く、とても丁寧な飼育が必要です。肥育農家に出す生後7カ月ぐらいになると体重も300キロぐらいに増え、手がかからなくなって、病気で死なせてしまう心配もなくなります。
分業にせず一貫して肥育まで育てる農家もありますが、それだけの牛舎、設備が必要になりますし、出荷するまで、つまりお金になるまでに約20カ月かかるため、素牛農家と肥育農家で役割分担しています。
お父様が素牛の飼育を始められたそうですね。
春巳氏:私は東京で電気関係の仕事をしていましたが、30歳を過ぎ、親の希望もあって1996年にこちらに戻ってきました。素牛の飼育を始めたのはその少し前のことです。父はもともと家畜商、子牛の飼育に精通してはおらず、私がほかの牛舎を見学して教えてもらいながら、ノウハウを身につけていきました。その後、私が事業を引き継ぎ、2000年に会社組織にしました。現在は父が始めたときの倍以上の規模になっています。
優良経営の秘訣を教えてください。
春巳氏:よくわかりませんが……借金をなるべくしないことでしょうか。これは父の教えでもあります。実は私も「F1種」と呼ばれる牛を肥育しようとして失敗し、長年のお付き合いの業者にエサ代の支払いを待ってもらって何とか乗り切った経験があります。借金があると、牛の価格が下落したりしたときに厳しくなるのだろうと思います。やはり借金をしないこと、素牛だけにしぼって長く続けていることが安定した経営につながっているのかもしれません。
「必ず売れる」といわれても半信半疑
顧問税理士の先生への信頼から
廃業→M&Aに舵を切る
廃業を考えておられたとお聞きしています。
春巳氏:数年前に大きなけがをしてから、進退を考えるようになりました。子どもは3人いますが、誰も継ぐつもりがないし、継いでほしいとも思っていなかったため、当初は廃業するつもりでした。
和子氏:顧問税理士の松田(樹宣)先生にご相談したところ、廃業は税負担があまりにも大きい、必ず売れるから売ったほうがいいと教えてくださいました。でも、信じられなくて……「うちなんて売れるわけがないだろう」と。ただ、廃業するにも牛舎や設備を処分するのに数千万円かかります。誰かもらってくれる人はいないか考えていたぐらいなので、「もし本当に買ってくれる人がいるならありがたい」「信頼の厚い松田先生がおっしゃるなら」と思い、お相手を探してもらうことにしました。
松田先生からストライクをご紹介いただきました。
和子氏:旭川の松田先生の事務所で、松田先生、ストライク担当の本間さんにお会いしました。仲介会社は敷居が高く、高圧的な人が来たら怖いなと思っていたのですが、本間さんはとても気さくで話しやすい方でした。
松田先生のご紹介なら間違いないですし、ストライクさんにお願いしようと決めましたが、その時点でもまだ半信半疑でしたね。去年のゴールデンウィーク明けからお相手を探してもらい、数カ月して具体的な候補が挙がるようになって、やっと現実味を帯びてきたような感じでした。
10月に行われたトップ面談の印象をお聞かせください。
春巳氏:お相手のグループは一次産業には縁のないような大手ですが、ステーキ店やハンバーグ店が有名で食肉加工業も行っており、社長は一次産業、特に畜産を手掛けたいと考えていて、ずっと牧場を探していたそうです。飾らない大らかな人柄で、社員のやりたいことを積極的に支援するところも素晴らしいと思いました。
うちの事業をやりたいという社員の方は畜産や畑作の経験があり、同グループでも農業の研修を受けているとのことでした。経験者が引き継いでくれることは非常に大きかったですね。まだ農場がないうちから研修を行っていたところに同グループの熱意も感じました。
成約までに大変だったことは?
和子氏:必要な書類をそろえるのはとても大変でした。特にデューデリジェンスの前後は「これもあれも」という感じで、毎晩遅くまで机に向かっていました。松田先生にはわからないことを教えてもらったり、相談にのってもらったり、資料を請求してもらったり、本当に親身になって助けていただきました。本間さんとは頻繁にやりとりしていましたが、レスポンスがとても早く、気になることを送るとすぐに返信がくるので安心でした。「一瞬たりとも不安にさせない」という感じでしたね。大風呂敷を広げたりせず、中立的な立場でサポートしてくれていると感じられたのもよかったです。双方のことを考え寄り添ってくれる、信頼の置けるアドバイザーでした。
畜産・農業経験者に実務を移行中
引き継ぎが終わったら札幌でセカンドライフを楽しみたい
成約したときのお気持ちをお聞かせください。
春巳氏:ホッとすると同時に、これまでのことをいろいろ思い出しました。一抹の寂しさはありましたね。今は次の人生を楽しもうという気持ちになっています。
社員の方にはいつ伝えましたか?
春巳氏:成約後に伝えました。長年、私と二人三脚でこの農場をやってきた人なので、どんな反応か気がかりでしたが、「じゃあ今月いっぱいでオレも辞めようかな」と。
あっさりしたもので(笑)、慌てて引き止めたぐらいです。結局、パートとして5月末まで働いてもらうことになっています。彼も65歳、彼が引退した後、新しく人を雇ってやっていくのは厳しいと思ったことも事業承継を考え始めたきっかけでした。ちょうどいいタイミングだったと思います。6月以降、新しい人を採用するつもりです。
後継候補の方は早速現場で働いておられるそうですね。
春巳氏:30代でまだ若いですが、自分がこの農場を担うという責任感、経営者意識が高いので、頼りになるし引き継ぎもしやすいです。
和子氏:働き者で、毎朝早くから一生懸命働いてくれています。奥さんと赤ちゃんと一緒に家族で名寄に引っ越してきてくれたのですが、子煩悩で、私は家族を大事にしているところもいいなと思っています。
経理関係の引き継ぎは?
和子氏:彼が簿記の資格を持っているので引き継ぐ予定ですが、農場のほうが忙しく、まだ時間がとれていません。心配なところもあるのですが、顧問税理士を引き続き松田先生にお願いできることになりました。今後も松田先生のお力をお借りできると思うと安心です。
札幌へお引っ越し後、やりたいことはありますか?
和子氏:私はのんびりしたい! ずっと仕事と子育てに追われるような人生だったので、まずはゆっくりしたいです。
春巳氏:私は一番の趣味がボードゲームと一輪車で、子どもたちに教えたりもしています。札幌でも人と関わるようなことが何かできるといいですね。
最後に後継者問題を抱える一次産業の経営者にメッセージをお願いします。
和子氏:自分たちの行動範囲内に買い手がいないと、世界中探してもいないと思ってしまいますが、範囲を広げてみると意外にやってみたい人がいるものです。「売れない」「廃業しかない」と決めつけずに、M&Aという選択肢を考えてみることをお勧めします。
春巳氏:M&Aは大手企業の取引だというイメージも強く、私たちには縁のない、別世界のものだと思っていましたが、よいお相手にめぐりあうことができました。事業承継で悩んでいるなら、一度ストライクさんのような専門家に相談してみるといいのではないでしょうか。譲渡できない場合もあるかもしれませんが、「専門家の意見を聞いてみる」ことがとても大切で、事業承継の問題を解決する糸口になると思います。
本日はありがとうございました。
顧問税理士の先生にお聞きしました!
一次産業の経営者の方にM&Aという選択肢を
まず知っていただくことが課題です
税理士法人あさひ会計
代表社員税理士 松田 樹宣 先生
――岸川ご夫妻にM&Aをご提案された経緯、理由をお聞かせください。
数年前から廃業を考えているというようなお話はあり、冗談半分で聞いていましたが、岸川様が大きな事故にあわれたこともあって、「第二の人生を考えたい」「会社を清算したい」という具体的なご相談を受けました。ご夫妻とも廃業しか考えておらず、牛舎などの解体に多額の費用がかかるため、近隣の畜産業者に無償で引き取ってもらえないか交渉していたぐらいです。そこで、私が「待った」をかけました。広大な北海道の地で、一次産業だからこそできる魅力ある事業をやってみたいという人が必ずいるはずだという確信があったからです。私にとってとても大切なクライアントであり、事業内容も業績も素晴らしいので、ここで途絶えさせてはならない、誰かに引き継いでほしいという気持ちも強かったです。私は妻の実家が農家ということもあり、農業・畜産業などの一次産業は、一代で一定の規模に築き上げるのが本当に大変なことをよく知ってもいます。岸川様が築き上げたきしかわ畜産を承継するだけでなく、六次化に向けてよいノウハウを持つ買い手が見つかるのではないか。そう考えてM&Aをご提案しました。
ストライクさんをご紹介したのは、北海道税理士会との提携企業であることに加えて、原則として基本合意に至るまでお客様の負担がないというところに惹かれたからです。もちろん担当者のスキルが重要ですが、当事務所の担当である本間雄大さんは、友人の税理士から推薦されるほど知識・経験が確かで、こちらの要望を真摯に受け止め、交渉にあたってくださいました。
――今回のM&Aについての率直な感想をお聞かせください。
お相手は北海道を中心に飲食業に携わる企業で、今回の譲受をまさに六次産業化に向けての足掛かりにしたいとのこと、両者の想いが一致した“相思相愛”のM&Aだったと思います。正直、こんなにうまくいくとは思っていませんでした。本間さんの努力の賜物だと思います。個人的にも北海道の企業に北海道を盛り上げてほしいという想いがあるので、とてもうれしいです。
――一次産業のM&Aの課題と会計事務所が果たす役割についてお聞かせください。
少子高齢化を背景に離農という選択をされる方はたくさんいます。そのような方にM&Aという選択肢があることをまず知っていただくことが一番の課題だと思います。岸川ご夫妻もM&Aの可能性があるとなかなか信じてくれず、「うちが売れるわけがない」「こんな田舎の山奥の会社がM&Aなんて」「だまされるのでは?」等々、散々でした。お相手を探し始めてからも“話半分”だったように思います。
私が何も提案しなければ間違いなく、廃業・清算していたでしょうし、思い返せば、似たようなケースがこれまでにもあったように思います。事業承継は経営者が判断することであり、税理士にできることには限りがあるのかもしれませんが、税理士が一次産業もM&Aの可能性があるということを念頭に置いて、お客様をサポートすることが大切だと考えています。当事務所でも経営者の立場や考えをよく見据えたうえで、M&Aが課題解決につながるなら積極的に提案させていただけたらと思います。
M&Aアドバイザーより一言(本間 雄大・北海道営業部 シニアアドバイザー談)
一般的にM&Aというと思い浮かぶのは、第2次産業、第3次産業を展開する企業様ではないかと思います。きしかわ畜産様もそうでしたが、第1次産業を展開する経営者の方々には、自社の将来を見据えた際の選択肢にM&Aという手法がそもそもない方は多いのではないでしょうか。
本件は、顧問税理士である松田先生から的確なアドバイスがあり、M&Aという選択肢を見出し他社様に会社を任せることが出来ましたが、まだまだ第1次産業で知名度が低い手法であるかと思います。
後継者不足、就業者の高齢化が進む第1次産業では事業承継は大きな課題になります。M&Aは事業を後世に繋げる有効な手段であるかと思います。本件を通して経営者様の選択肢が広がることがあれば幸いです。
本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。
他のインタビューを読む
-
INTERVIEW No.86
ゼロから切り拓いた中古車ビジネス
社長夫婦が描くセカンドライフへの道のりとは- #創業者
- #セカンドライフ
- #投資ファンド
- #商社・卸・代理店
-
INTERVIEW No.88
獣医療業界を成長産業に。
経営と診療の分業で見据える
先制医療の未来- #創業者
- #戦略的M&A
- #セカンドライフ
- #介護・医療
関連情報
ストライクのサービスSERVICE