INTERVIEW

開業115年の小さな町の総合病院
後継者不在のなか、地域医療を担う使命感から選んだ、M&Aという選択

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医療法人川崎病院 理事 宮野 明子 氏・理事で前事務長 𠮷野 有子 氏

医療法人川崎病院
理事 宮野 明子 氏(写真右)
理事で前事務長 𠮷野 有子 氏(写真左)

房総半島の中央に位置する人口約8400人の千葉県大多喜町。人口減少と高齢化が進むこの町の総合病院である医療法人川崎病院は、開業115年を迎えた2022年6月、病院や介護施設を運営支援するヘルスケアアクセラレーター株式会社(本社・東京都港区)にM&Aで経営を譲渡した。後継者がなく、一時は閉院も考えたが、地域医療を守る責務から第三者への承継という道を選んだという。祖父が始めた川崎病院の経営責任者を務めていた宮野明子理事と、明子氏の次女で前事務長の𠮷野有子理事に、医療法人におけるM&Aという選択について話を伺った。

病院と老健施設、サ高住を運営
80名の職員を雇用する医療法人

大多喜町で明治40(1907)年に開業して今年で115年です。3代、4代にわたって町民の健康を見守ってきた医療機関ですね。

川崎病院、外観
千葉県大多喜町で115年にわたり地域の医療を支えてきた川崎病院

宮野:当院は内科、外科、リウマチ科、小児科、循環器科など総合診療を担い、入院病床が26床あります。大多喜町で入院ができて、総合的に診る病院は今ではここだけなので、町民の皆さんに頼りにしていただいています。病院のほか、介護老人保健施設とサービス付き高齢者向け住宅も運営していて、医師、看護師、介護職員など非常勤を含めると約80名の職員を抱える医療法人です。祖父が開業したこの病院を私が3代目として受け継ぎ、医師である夫が理事長を務めています。

その病院を閉院することも一時考えられたと聞きました。それはどうしてですか。

宮野:後継者がいなかったからです。子どもは4人いて3人は医者ですが、口をそろえて病院を継ぐつもりはない、経営していく自信がないと言われました。継いでくれればという気持ちはありましたが、病院経営の大変さを間近に見てきた子どもたちに強いることはできませんでした。

𠮷野:開業医と勤務医はやはり違います。きょうだい3人とも勤務医ですが、病院を経営するとなると、患者さんへの診療だけに注力できないわけです。財務の知識も必要ですし、職員のマネジメントや施設管理にも目を配らないといけません。責任をもってそのすべてを背負えるのかどうかを、それぞれが考えて出した結論でした。

M&A仲介依頼のきっかけは病院に届いた手紙
内容のわかりやすさと息子の評価が決め手に

閉院ではなく、第三者への譲渡を考えられたのはどういういきさつからですか。

宮野:施設の老朽化もあって病院を閉じることも考えましたが、閉院するには莫大なお金と労力がいります。病院と2施設を運営していますから、約80名いる職員の退職金も必要になります。それでどうしようかと。病院は私名義でしたので、私が元気なうちに何とかしなければという焦燥感を強くもったのが、今から3年前の75歳を迎えた時でした。その後、M&Aという第三者への事業承継の手法があることを次女が教えてくれたのですが、私は、最初は何のことやらまったくわかりませんでした。

𠮷野:M&Aという手法自体は知っていましたし、仲介会社から病院に手紙がたくさん届いてもいました。地域医療機関としての機能を維持すること、80名の職員の雇用を守ること、家族に金銭的な損害が及ばないこと、経営の負担から解放されること、この4つの条件を満たせるのはM&Aしかないかもしれないということを、父と母に話しました。

私は長年勤めた東京の会社を辞めて2020年に病院事務長として実家に戻ったのですが、想像していた以上に病院運営が大変だということがわかりました。大手の企業だと分業化で個人の業務範囲は限られますが、この規模の病院ではすべての課題が事務長に集中します。途中で体調を壊してしまい、家族経営では病院を続けていけないと思ったこともM&Aを考えた理由です。そこで、ストライクさんの手紙をみてご連絡しました。

たくさん届いていたM&A仲介会社の手紙の中から、なぜストライクを選ばれたのですか。

𠮷野:M&Aについて書かれていた内容がわかりやすかったからです。手書き風のお手紙も入っていて丁寧さも感じました。投資関係の仕事をしている私の長男に「ストライクという企業を知っている?」と聞いたときに、「ストライクは知っているよ」と言って、最近の動向など企業情報を詳しく説明してくれたんです。ストライクという会社を息子が評価していたことに安心して、お願いしようと思いました。

熱意と将来性に期待し
若い30代の経営陣の会社に譲渡

譲渡の際に希望した条件は何でしょうか。

川崎病院理事で前事務長の𠮷野有子氏
川崎病院理事で前事務長の𠮷野有子氏

𠮷野:一つは理事長を引き続き父が務めることです。交代すれば、職員の間で不安が高まるでしょうし、父の医師人脈で外来診療にあたっていただいている東京からの専門医の先生との関係も切れてしまいます。患者さんの診療環境と職員の処遇を変えずに、動揺させることなく移行ができること、そこが最大の関心事であり希望でした。地域医療をあずかっている町立病院のような存在ですから、その責任があります。

譲渡先としてヘルスケアアクセラレーターさんを選ばれた理由を教えてください。

𠮷野:ストライクさんからは譲渡先として3社をご紹介いただきました。その3社とも、患者さんや職員の処遇を維持すること、病院名を変えないことにも同意され、評価額についてもほぼ同じでしたが、決め手となったのはヘルスケアアクセラレーターさんの若さです。社長、副社長ともに30代。全国各地の病院や介護施設の運営支援や経営コンサルティングの実績を積んで起業した熱意と将来性に期待しました。父と母も同じ印象を持ちました。

2022年6月にM&Aが成約するまでの間で苦労したことは何ですか。

𠮷野:経営母体が変わることで職員を動揺させないことです。ストライクさんに提出する社内資料を集める際も職員に悟られないように準備したために時間がかかりました。ストライクさんに正式依頼したのが2021年10月なので成約まで約9カ月間でしたが、資料を早く出せていればもっと短縮できたはずです。

苦労したことのもう一点は、反対する身内の説得です。これは家業を第三者に譲渡する際にはありがちな話だと思います。私たちのケースでは理事長である父の反対でした。まずM&Aとは何かがわからない、経営状況に余裕はないが借金はないので自力で継続できるはずだ、こんな地方の古い病院を買う企業があるわけがないと言って、私の提案を最初は聞き入れてくれませんでした。M&Aに詳しい私の長男が間に入って、孫の説得でなんとか聞く耳をもってくれて、それから本人もM&Aの本を買ってきて病院での事例などを調べていました。それでようやく理解を得て、話が進んでいきました。

職員の皆さんへはどのような形で伝えましたか。

𠮷野:M&A成約後の7月に全職員を集めて理事長が経緯を説明しました。後継者不在で皆さんも将来に不安を感じていたかもしれないが、経営を譲渡することで病院を維持することを決めたと伝えました。ヘルスケアアクセラレーターの社長と副社長も同席されて、社長から「雇用条件の変更なく、これまで通りに働いていただきます」といった話をしてくれましたので、大きな反発や動揺もなく受け入れてもらいました。

病院が継続できた安堵感
地域医療を支える「家業」の重荷から解放

ヘルスケアアクセラレーターさんから人材は来ているのですか。

𠮷野:事務長が来られました。この病院に欠けていたのは事務長のポストを担える人材だったので、そのワンピースがはまった感じです。前職でも病院の事務長職を経験された30代の若い方で、保健所などとの対外業務から、財務や人事・採用に至る院内業務まで熟知されています。多くの病院や介護施設を運営支援しているヘルスケアアクセラレーターさんに譲渡して良かったと感じる大きなポイントですね。

地域医療を担う病院としての責務を感じておられた宮野様に伺います。M&Aを決断して良かったですか。

川崎病院理事 宮野明子氏
川崎病院理事 宮野明子氏

宮野:ほっとしました。冗談に思われるかもしれませんが、成約したときは、もうこれでいつでも死ねると思いました。私は医者でもなく、家業として病院を引き継ぎました。115年もの間、町の皆さんに頼りにしていただき、地域医療を支えてきたわけです。小さな町ですから皆さん顔見知りです。病院が続けられるかどうかという心理的負担は相当なものでした。その重荷から解放されて、本当に気持ちが楽になりました。

ストライクの担当者の対応はいかがでしたか。

医療法人川崎病院 理事 宮野 明子 氏・理事で前事務長 𠮷野 有子 氏、ストライク田島
宮野氏のご自宅での一コマ(写真中央はストライクの田島)

𠮷野:ご担当いただいた田島さんは説明がわかりやすく、とにかくリアクションが早かったです。私のほうから「これはどうなっていますか」と尋ねることはありませんでした。毎回しっかりと返答があるので、やりとりにストレスを感じませんでした。M&Aなんて初めての経験ですから、わからないことばかりです。素人質問をしているなと自覚しながら尋ねても丁寧に返してくださる。そうした対応と人柄がすごく良かったですし、感謝しています。

後継者不在で承継問題を抱える医療法人は多いと言われます。そうした悩みをもつ方へ経験を踏まえてのメッセージを最後にお願いします。

𠮷野:地方の古い病院に興味を持つ事業者などいないだろう、M&Aを仲介してもらうほどの価値なんてないよねと思い込んで、悩みを抱えたままにしている方もいると思いますが、まずは相談してみることです。自分たちが気付いていない価値がわかったり、抱えている負担を楽にする方法が見つかったりするかもしれない。私たち家族にとってストライクさんに相談して良かったと思う理由は、そこにあります。事業継続の悩みを解決するビジネス手法として検討してみる価値はあると思います。

本日はありがとうございました。

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