ご成約インタビュー No.102
INTERVIEW
創業わずか半年でM&A
急成長スタートアップが手掛ける“エンプロイーサクセス”革命
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株式会社PeopleX 代表取締役CEO 橘 大地 氏
アクティブ・コネクター株式会社 代表取締役 松本 麻美 氏
エンプロイーサクセス事業(企業の持続的な成長のために社員が能力を発揮できるよう支援する事業)を展開する株式会社PeopleX(東京都渋谷区)は、2024年11月、外国籍IT人材の採用を支援するアクティブ・コネクター株式会社(東京都文京区)の全株式を取得し、子会社化した。PeopleXは、弁護士ドットコムの電子契約サービス「クラウドサイン」の元事業責任者の橘大地氏が2024年4月に創業した急成長スタートアップで、同年6月には16億円を超える資金を調達するなど、投資家からも非常に注目を集めている。そんなPeopleXとアクティブ・コネクターのM&A案件について、成約に至るまでの経緯や今後の展望について第一部では両社の代表に、第二部では本案件に携わった関係者も交えて座談会形式でお話を伺った。
<第一部>
株式会社PeopleX × アクティブ・コネクター株式会社
包括的なHRサービスを提供するために
まず初めに両社の事業内容を教えてください。
橘:PeopleXは、社員のスキルアップ・エンゲージメントを強化するエンプロイーサクセスHRプラットフォーム「PeopleWork」という製品の開発・販売や、人材紹介サービス「PeopleAgent」、業績直結型の組織人事・報酬設計コンサルティングサービス「PeopleConsulting」といった事業を展開しています。様々な「人」の課題でお困りの企業や個人を支援させていただく会社です。
松本:アクティブ・コネクターは2013年に創業し、外国籍ITエンジニアとスタートアップのマッチング、人材紹介の事業を展開しています。
M&Aを検討したきっかけはなんですか?
松本:近年、日本企業の多くが外国籍ITエンジニアを積極的に採用する動きが高まっています。それに伴い、マーケットが非常に過熱化してきました。これまでのように、小規模で丁寧な支援では、お客様のお力になるのが難しいと感じ、もっとスピード感を持ち、包括的なHRサービスを提供できる企業とご一緒したいと考えました。ただ、1人で譲渡先を探すことには限界があったので、今回デロイトトーマツベンチャーサポートの方にご相談させていただきました。
橘:ストライクさんから素晴らしい企業の譲渡ニーズがあると伺ったのが最初のきっかけです。その後、アクティブ・コネクターの松本さんに直接お会いして、すぐに譲り受けたい旨をお伝えしました。
トップ面談を振り返っていかがですか?
橘:マーケットとして、これからIT人材の不足が致命的な課題になっていくことが想定できます。そこで、外国籍エンジニアの方を新しい日本の企業に就労支援したいという思いがあったので、そのようなマーケット視点でのお話をさせていただきました。お会いしてから、松本さん自身がマーケットに対して非常に思いがあり、丁寧に事業を展開されていたので、人の魅力、組織の魅力を感じ、ぜひ譲り受けたいと強く思いました。すぐに100枚ほど資料を作り、ご一緒させていただけるようプレゼンをさせていただきました。
松本:橘さんはスタートアップの中でも最先端を走っておられる方でしたので、最初お会いするまでは、正直会うのが怖いと思っていました。ですが、実際にお会いしてみると、本当に誠実で、とてもカリスマ性のある方で、このような方がリーダーをされているのであれば、きっとこれからもすごい勢いで事業を推進されるのだろうと感じました。
どれくらいのスピードで進みましたか?
橘:初めてお会いしてから2カ月少々です。お話を伺ってから1カ月ほどで譲り受けのオファーを出させていただき、その後の1カ月で財務資料の調査をさせていただきました。そして、本日の成約式に至ります。
M&Aはスタート地点
成約式を終えてのお気持ちを教えてください。
松本:期待とワクワクする思い、それに責任の大きさも感じています。今まで自分たちが想像していた以上の大きな世界がいきなりPeopleXさんとご一緒することで目の前に広がりました。一方で、M&Aはゴールではなく、あくまでも事業を一緒に成功させていくためのスタート地点に立ったということなので、これからしっかりと結果を出していくという点では大きな責任感を感じています。
橘:この日を迎えられたことをとてもありがたく思います。これから我々と一緒になることで、間違ってもサービスの質が落ちたり、従業員が不安に思ったりすることがないように、誠意をもって取り組んでいきたいです。アクティブ・コネクターさんが作り上げた素晴らしい価値を何倍にもしていかなければいけないプレッシャーと闘いながら楽しんで事業を展開していきたいです。
M&Aをしたことによる今後の展望を教えてください。
橘:外国籍エンジニアの方々に日本で働くことの魅力を感じていただくことが、マーケットの成長には不可欠です。そのためには、優秀なエンジニアが日本で働きたいと思えるような海外向けのマーケティング施策を、官民一体となって進めていく必要があります。私たちは政府と一体となって、日本で働くことの魅力を海外に発信していきたいと考えています。また、外国籍エンジニアの方々が日本で働く際には、PeopleXやアクティブ・コネクターに相談していただけるよう、日本最大のエンジニア紹介会社を目指していきます。
松本:1人でも多くの求職者の方々と企業の皆様にご満足いただけるマッチングを実現していきます。事業の拡大スピードを重視しながらも、一つ一つのプロセスを丁寧に行い、サービスの質を高めることで、お客様への価値提供を追求していきたいです。
業界No.1の会社へ
10年後、20年後にお2人が叶えていきたい世界はありますか?
橘:日本の人的な課題を解決するNo.1の会社になりたいです。10年先を見据え、1兆円規模の総合的なHR企業として成長することを目指しています。今後、日本では労働人口の減少が進む中で、生産性を上げることが重要な課題となります。そのような課題に直面した際、最初に思い浮かべていただける企業でありたいと考えています。また、松本さんはニュージーランドにお住まいで、アクティブ・コネクターの皆さんは世界各国でご活躍されています。当社としても、このグローバルなネットワークを活かし、より高い視座で世界を代表する企業へと成長してまいります。
松本:当社はずっとミッシングピースになりたいと思い、事業を展開してきました。橘さんがおっしゃったように、人的課題を解決したいと思ったら、まずは思い出していただけるような唯一無二の企業として活躍していきたいです。
スタートアップにおけるM&A戦略を進める意義をどのようにお考えですか?
橘:スタートアップにとって、ミッションは非常に重要です。当社は「ピープルサクセス」、つまり働く全ての人を幸せにすることをミッションに掲げています。このミッションに共感した社員たちが参画し、投資家からも資金提供をいただいています。自分たちだけで事業を進めるのではなく、M&Aも積極的に活用することで、より早くミッションの実現に近づけると考えています。以前は、ベンチャー企業への投資資金が限られており、M&Aという選択肢を取ることが難しい時代がありました。しかし今は、スタートアップエコシステム(公的機関や研究機関などがネットワークを作ることによってスタートアップの発展を支援するシステム)が整備され、M&A仲介も活用しやすくなっています。今後もこのエコシステムを活用し、さらなる成長を目指していきたいと考えています。
ストライク担当者やサービスはどうでしたか?
橘:スピード感を持ったご支援内容も素晴らしいですが、親近感が湧くようなお人柄でしたので、お話を前に進めやすかったです。これからもぜひお力を借りたいです。
今後M&Aを検討される経営者へアドバイスをお願いします。
松本:M&Aは、自分だけで努力してどうにかなるようなものではないと思っています。今回、PeopleXさんとご一緒させていただけたのも、全てストライクさんとデロイトトーマツベンチャーサポートさんのご紹介のおかげです。ご縁を繋いでくださる方と出会えることが大切だと感じています。
橘:M&Aという手法は、日本ではまだ歴史が浅く、特にスタートアップ企業によるM&Aは発展途上の段階です。しかし、目指すべき未来を実現する手段として非常に有効です。素晴らしい企業との出会いは事業の成長を大きく加速させる可能性を秘めています。経営者の皆様には、事業拡大の選択肢の一つとして、M&Aを常に視野に入れておくことをお勧めします。
<第二部>座談会
株式会社PeopleX CFO 開田 康志 氏
株式会社PeopleX Head of Agent 中川 秋星 氏
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 M&Aアドバイザリーリーダー 鈴木 二功 氏
PeopleXとアクティブ・コネクターの経営統合は、スタートアップ業界における新しいM&Aの形を示す注目の事例となった。今回、ストライクは買い手サイドのFAとして支援し、売り手サイドはデロイトトーマツベンチャーサポートがFAを担当した。
第二部では、両社の代表と本案件に携わった関係者による座談会を開催し、ご成約に至るまでのポイントや今後の展望について語っていただいた。
最大の魅力は“人”
M&Aを進めるにあたって、苦労した点やポイントを教えてください。
鈴木:最適なマッチング先の選定に最も苦心しました。アクティブ・コネクターさんは、国籍、性別、言語など多様性を重視される企業です。外国人ITエンジニアの人材紹介会社として、今後の成長を考えると、同じくグローバルな視点を持つ企業とのマッチングが不可欠でした。そこで、ストライクさんに理想的なパートナー候補についてご相談させていただいたところ、PeopleXさんをご紹介いただきました。調査を進める中で、スタートアップながら、1年後、2年後、3年後の明確なビジョンを持ち、現状の課題と解決策を綿密に検討されている企業であることに大変驚きました。
開田:アクティブ・コネクターさんの最大の魅力は、豊富な経験を持つ優秀な方々の存在です。皆様の専門性と実績を高く評価させていただき、今後も同じビジョンを共有し、高い目標を持って共に歩んでいただけることは重要な判断基準として位置づけました。
鈴木:PeopleXさんに質問です。スタートアップ企業によるスタートアップ企業の譲り受け案件では、株主の方々、特にベンチャーキャピタル(VC)様への説明責任が大きな課題となります。今回の案件において、譲り受けのタイミングや戦略的意義について、株主の皆様とどのようなコミュニケーションを取られたのか、お聞かせいただけますでしょうか。
開田:まず、リード投資家の方へ本案件についての事前説明を行い、その後、月例の株主報告会でも全株主の皆様にご説明させていただきました。説明のポイントは大きく二つありました。一つ目は、当社の成長戦略とパーパスの実現において、アクティブ・コネクターさんが最適なパートナーであることを、主に定性面からご説明させていただきました。特に、自社単独での成長よりも、同社との協業により、より早く確実に当社が実現したい世界、目標の達成が可能であることを強調しました。二つ目は、当社の投資基準・考え方、加えてリスク評価とその対応策についてです。当初は、調達した株主資本によるM&Aということで、株主の皆様から慎重なご意見をいただくことも想定していました。しかしながら、予想に反して、むしろ積極的な推進を支持するコメントを投資家様からいただき、大変心強く感じました。
今後のグループの拡大成長について教えてください。
橘:企業と個人、双方のキャリアに関する課題を総合的に支援できる体制の構築を目指していきます。そのために、人材紹介企業様をはじめ、人事・採用コンサルティング企業様、HRテクノロジーサービスを提供する企業様など、HR領域で幅広い価値を提供できるパートナー企業との協業機会を積極的に追求していきます。
中川:当社は「ピープルサクセス」を経営理念に掲げており、アクティブ・コネクターさんの従業員の皆様の成功(エンプロイーサクセス)を最優先事項として位置づけています。両社の強みを最大限に活かしながら、一方的な統合ではなく、相互の価値を融合させることで、より大きなシナジーを生み出していきたいです。特に、アクティブ・コネクターさんが築き上げてこられた多様性のある組織文化は大きな強みであり、この価値をさらに発展させていくことを重要な経営課題として取り組んでいきます。
松本:大きなスケールでビジョンを掲げるPeopleXさんとの協業により、HR業界において唯一無二の価値を提供する企業として成長していきたいです。
競合他社が多い人材領域において、どのような差別化を図っていきたいですか?
中川:今回の譲り受けによる効果は、企業様と求職者様の双方に大きなメリットがあると考えています。企業様に対しては、人材供給力が大幅に強化され、採用ニーズにより確実にお応えできる体制が整いました。また、人材業界では未経験のエージェントも多い中、当社もアクティブ・コネクター社も業界経験豊富なコンサルタントが揃っておりますので、むやみに量を推薦するのではなく、質の高いご提案を差し上げられることがポイントになるかと思います。求職者様に対しては、これまで各社個別の求人案件に限定されていた選択肢が大きく広がります。これにより、キャリアの可能性がより拡大し、マッチング率の向上にもつながると確信しています。
成長戦略としてのM&A
これからM&Aをご検討されるスタートアップ企業の方にアドバイスをお願いします。
鈴木:起業家の皆様にとって、事業の成長戦略には大きく三つの選択肢があります。IPO、M&A、そして非上場での事業拡大です。IPOは多くの起業家が目指す選択肢ではありますが、実現できる企業は限られています。また、非上場での事業拡大も一つの選択肢ですが、現在のビジネス環境では、スピード感が極めて重要になっています。起業家の皆様が創出されたサービスや商品を、より早く、より広く世の中に展開していくためには、様々な成長戦略を柔軟に検討する必要があります。その中で、今回のケースのように、十分な資本力とアセットを持つ企業とM&Aを通じて協業し、急速な成長を実現するという選択肢が、今後ますます重要になってくると考えています。特に、スタートアップ企業同士のM&Aは、業界の新しいトレンドとして、益々注目されると考えています。起業家の皆様には、これらの選択肢を幅広く検討いただき、最適な成長戦略を選択していただければと思います。
開田:先ほど申し上げました通り、当初はこの企業フェーズでのM&Aの実施について、株主の皆様からご懸念の声が上がることも心配していました。しかしながら、この数年で、M&A仲介企業も含めた関係者の皆様のご尽力により、スタートアップ業界におけるM&Aに対する認識が大きく変化していることを実感いたしました。M&Aは、買い手・売り手双方にとって、事業の成長を加速させる有効な手段ですし、スタートアップエコシステム全体、引いては日本経済の発展にも大きく寄与すると思います。この好ましい流れを継続・発展させていくためにも、スタートアップ企業の経営者の皆様には、成長戦略の選択肢の一つとしてM&Aを積極的にご検討いただければ良いのかなと考えています。
本日はありがとうございました。
担当アドバイザーより一言(豊住 孝文・イノベーション支援室 アドバイザー談)
私は前職がキャディという大型資金調達を実現しているグローバルスタートアップにおいて主に米国オフィスの立ち上げを担いました。その際、多額のコストと時間がかかるのを目の当たりにし、その経験から「非連続な成長手段」としてM&Aという選択肢の重要性を実感いたしました。PeopleX様はまさに非連続な成長を遂げる企業であり、創業から僅か半年というタイミングでM&Aを実行されました。これは類を見ない先進的な選択であり、スタートアップ企業の新しい成長モデルとして今後広がっていくと考えています。アクティブコネクター様もスタートアップとして、外国籍ITエンジニアというニッチな領域において圧倒的な実績があり、素晴らしい提携をご支援できたことに感謝しております。スタートアップ企業にとって最も重要な経営資源は資金だと言われていますが、私は「時間」だと思っています。VCファンドの満期や上場ゴールに制約されることなく、今後はアーリーステージからM&Aを成長戦略として取り入れる企業を増やしていけるように日々活動を進めて参ります。PeopleX様、アクティブコネクター様、この度はご成約、誠におめでとうございます。
2024年12月公開
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