INTERVIEW

縮小するマーケットでM&Aにより勝ち残る。
ソフト開発×ハード販売の企業がM&Aを選んだ、その狙いは

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株式会社ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジー 取締役CEO 松室 髙志 氏

株式会社ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジー 取締役CEO 松室 髙志 氏
株式会社ビジョン.ホールディングス 代表取締役 浜本 淳志 氏

米国のコンピューターメーカーであるデル・テクノロジーズ社(東京都千代田区)の製品販売を手がける株式会社ビジョン.ホールディングス(大阪府大阪市)は2023年9月に、文教市場で2位の導入実績を持つソフトウエア開発会社の株式会社ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジー(大阪府大阪市)の株式を100%取得し、戦略的提携関係に入った。ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジーが活動する文教市場は、少子化や予算削減の流れの中、今後大きな伸びが見込めない状況にある。一方、ビジョン.ホールディングスが手がけるハード販売は競争の激化に伴い一般的に利益を出しにくい環境下にある。コロナ禍後、急速に変化しているITサービス市場や文教市場で、企業を成長させるには両社の協力が不可欠と判断。半年ほどの短期間での成約に漕ぎつけた。どのような相乗効果を見込んでいるのか。ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジーの取締役CEOである松室髙志氏と、ビジョン.ホールディングスの代表取締役である浜本淳志氏に戦略をお聞きした。

株式会社ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジー
× 株式会社ビジョン.ホールディングス
ご成約インタビュー動画

8年ほど前から社内での事業承継を検討するも、ここ2年ほどはM&Aを模索

ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジー様は文教市場で高いシェアをお持ちです。商品やサービスの特徴を教えてください。

パソコンの画像

松室:わが社は設立から20年ほどが経ちますが、設立当時から大学をはじめとした文教向けの商品を取り扱っており、売り上げの99.9%が文教関連です。

メインは台湾のソフトウエアメーカーが開発した商品を販売し、サポートしています。パソコンを利用する際には、設定の変更やアプリケーションのインストールなどが必要ですが、これまでは一台一台対応し手間がかかっていました。

このソフトでは百台でも千台でも一斉にパソコンの設定を変えることができるため、需要があります。

文教市場では商品を売った後が大事です。大学や高等専門学校などでは、教室用のパソコンを4、5年おきに何十台、何百台とリースされます。採用していただくには、使い方の問い合わせや、パソコンやサーバーのアップデートなどに対応するサポートが重要になってきます。

わが社では、こうした要望にお応えすることで、採用していただいており、業界では2番手につけています。

M&Aについて考えるようになったきっかけを教えてください。

(株)ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジー 取締役CEO 松室 髙志氏
(株)ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジー 取締役CEO 松室 髙志氏。
引退を考えていた当初は社内承継する予定だったが、社会情勢の変化などを受け、M&Aに舵を切った。

松室:私は今68歳ですが、60歳を越えたあたりから、引退を考えるようになっていました。当初は社内の誰かに託していこうと考え、65歳前後のところで、社長の座を譲るつもりでした。

そうしているうちに、コロナ禍によって文教市場が大きく変わってしまい、経営者が変わっただけで事業が継続していく、また伸びていくと考えることができなくなりました。

もともと少子化によって学生数が減少する見通しなのに加え、パソコンリースの予算が削減される状況になったからです。

これから先、事業を継続し伸ばしていくのは、社内の力だけでは難しいと判断し、2年ほど前にM&Aに舵を切りました。

譲渡の条件として希望されたことは何でしょうか。

松室:まずは事業を継承していただいて、従業員とお客様を守っていただくことが一番大事だと思いました。

今回、ビジョン.ホールディングス様とご縁があったわけですが、決め手は何だったのでしょうか。

松室:ビジョン.ホールディングスの浜本さんは文教市場に詳しく、この分野の仕事もやられていることもあり、文教市場で生き残るためには、このままではダメだという危機感が共通していたことが挙げられます。

文教市場のことを分かっておられる方でないと、事業を伸ばすことができませんので、そうした方にお譲りしたいという思いが強かったですね。

従業員の方に今回のM&Aについてどのようなどのようなタイミングでお話しをされ、どのような反応がありましたか。

松室:M&Aですので、途中の段階では話ができませんので、すべて終わった段階で話をしました。

相手様のこともしっかりと説明したので特に大きな混乱もなく、理解してもらえたと思います。

これまではお客様からリクエストがあっても自社商品で対応できない場合はお断りしていましたが、今後はビジョン.ホールディングスさんの商品やサービスと組み合わせることができます。このため営業の中には、提案できる商品やサービスの幅が広がると喜ぶメンバーもいました。

顧客と長く向き合える窓口の獲得手段としてM&Aを活用

ビジョン.ホールディングス様は、デル・テクノロジーズの製品の販売を中心に事業を展開されています。ビジネスの特徴を教えてください。

浜本:弊社は創業10年の会社で、ハードウエアの導入構築をメインにサービスを提供させていただいております。

ワッセイさんは商品を売ったあとにも、サポートや保守などでお客様とお付き合いがありますが、我々はハードを買っていただいて構築して終了する、一本釣りに近いビジネスをやってきました。

幸い10年間右肩上がりで、2023年の売上高は40億円ほどになり、粗利益率も10%ほどになっています。当初は5、6%でしたが、サービスが評価され、10%がキープでき始めたところです。

一般的にハードの販売は利益がでにくい傾向にありますが、御社はそうではないのですね。

浜本:ハードだけを売っていると厳しいと思います。粗利益率は1%、2%ではないでしょうか。このため技術サービスや導入サービスに力を入れています。

我々はデル・テクノロジーズ社より製品を仕入れさせていただき、SI(システムインテグレーション=システムの企画、導入、運用などを行うサービス)などを手がける企業さんにお渡しするという、メーカーとSIなどの間にいる会社です。

我々はアプリケーションがシームレスに動くように基盤の部分を提供しており、我々が提供する製品の品質が高くなれば、保守の工数が下がりますので、そうしたところを評価していただいています。

ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジー様のM&Aに踏み切られた理由を教えてください。

(株)ビジョン.ホールディングス 代表取締役 浜本 淳志氏
(株)ビジョン.ホールディングス 代表取締役 浜本 淳志氏。
ワッセイ社と共通の顧客がいたことで、早い段階での相乗効果が想定できたという。

浜本:我々は公共、文教、ヘルスケアという分野での導入事例が多く、売り上げの7割ほどを占めます。文教の分野で活動しておられるワッセイさんとは共通のお客さんがあります。このため相乗効果がすぐに出るのではないかと想定できたのが大きかったですね。

ワッセイさんは文教市場では、全国的にブランドを確立されていましたので、安心感もありました。また、我々は今年で創業10年になりますので、節目の年に事業承継的な形でチャンネルを増やしたいと考え、M&Aを検討していたこともあります。

今回が初めてのM&Aですが、成約に至るまでに大変だと案じられたことや苦労されたことはありましたか。

浜本:成約に至るまでのことよりも、一緒になってからの方が大変ですね。それぞれの企業で文化が違います。成約から半年も経っていない中で、両社を垂直的に統合させるとなると、過度なストレスが生まれます。PMI(M&A後の統合作業)に労力がかかるとは思っていましたが、想像以上でしたし、これに対するコンサルタント料などのコストも想定以上でした。

今後の両社の協業に向けてどのような事業展開をお考えですか。

浜本:我々は今まで、お客様と長く向き合える窓口がありませんでしたので、ワッセイさんのブランドを活用できるのは強みとなります。また、ワッセイさんも今まではソフト供給で終わっていたのが、我々が得意とするデプロイ(ソフトウエアを使える状態するサービス)まで行えるようになるため、お客様の要望やニーズにより細かく、より多く応えていけるようになります。今後はそうした両社の強みを生かした展開を実現したいと考えています。

今後のM&Aについてはどのようなお考えをお持ちですか。

浜本:ご縁があれば2社目、3社目も行いたいと思っています。今はSE(システムエンジニア)の派遣会社などを考えています。派遣先の仕事が減っても社内の開発やデプロイに振り向けることができるからです。

会社を変える、いいチャンスだと捉える覚悟と気合が必要

ストライクのサービスや担当者についての感想をお聞かせください。

(株)ワッセイ・ソフトウェア・テクノロジー 取締役CEO 松室 髙志 氏、(株)ビジョン.ホールディングス 代表取締役 浜本 淳志 氏、ストライク前川
M&Aは成約がゴールではなく、そこからがスタートです(浜本氏)
仕事の流れを変えていくことを前向きに捉える覚悟が必要です(松室氏)
(写真左が担当の前川)

松室:私が関西人だからなのか、人懐っこい方が好きでして。担当の前川さんが関西の方ということもあり、同じ目線で話していただき、とてもやりやすかったですね。大変がんばっていただいたと思っています。

浜本:私も関西出身なので、同じ感想ですね。また文教市場はニッチで独特な部分があります。初めの頃はどう繋いだらいいのか、どう解釈すればいいのかと悩まれたのではないかと思います。狭い世界でのM&A仲介ということで、苦労されたと思います。

M&Aを検討されている経営者の方にアドバイスをお願いします。

浜本:M&Aを行うのは、それほど難しくない状況になっていますが、契約が終わったからといって、そこがゴールではありません。もっと言えばそこがスタートです。両社が一緒になってみないと分からないこともあります。

M&Aでないと変われない組織のルールなどもあります。それをいいチャンスだととらえるような覚悟と気合が必要でしょうね。

松室:ほぼ同じです。経営を統合するためには、確立されている仕事の流れを変えなければなりませんので、変えていくことのストレスはかなり大きなものになります。でも、それは会社を良くするための苦労ですので、それを前向きに捉える覚悟が必要です。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(前川 泰毅・法人戦略部 シニアアドバイザー談)

ストライク前川 泰毅

「業界で生き残るためにM&Aをする」
本件の譲渡企業であるワッセイ社の松室社長がトップ面談時にお話しされていた言葉が印象に残っています。同時に、ニッチな市場で存在感を発揮してきた企業にもこういった危機感があり、岐路に立たされていると改めて実感しました。
買手企業であるビジョン社は浜本社長の実行力から順調に業績を向上させている優良企業で、成長戦略のためにM&Aを実行されました。本件は、ハード×ソフト、営業機会の相互創出などキレイなシナジーが見込まれるため、「PMIは大変だが期待も大きい」とのお言葉を頂戴しております。
両社が一緒になることで新たな価値創造が叶う本件のようなM&Aを引き続き推進していけるよう日々努力して参ります!

本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。