ご成約インタビュー No.70
INTERVIEW
後継難に悩む各地の動物病院を
事業承継してきた若手経営者
世界的ファンドと共に描く成長軌道
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株式会社Withmal 代表取締役社長 山崎 智輝 氏
Lキャタルトン・ジャパン合同会社 プリンシパル 山口 龍平 氏
動物病院の後継者不在や過重労働の問題を解決したい――。獣医師の山崎智輝氏は26歳で株式会社Withmalを起業。事業継続に悩む各地の動物病院を承継し、管理業務の合理化や獣医師の新規採用を進めて再建に取り組んできた。そして起業から5年を経た2023年9月、コンシューマー領域への投資に特化したグローバル・プライベート・エクイティ・ファンドであるLキャタルトンのファンドに株式を一部譲渡し、再出発を決断する。両社はなぜ合意に至ったのか。山崎氏とLキャタルトン・ジャパン合同会社の山口龍平氏に話を伺った。
株式会社Withmal×
Lキャタルトン
ご成約インタビュー動画
動物病院は地域に欠かせないインフラ
閉院で困る人を助けたいとM&Aを始める
はじめに山崎さんからWithmalの設立経緯と事業内容を教えてください。
山崎:会社を始めたのは2018年で26歳、獣医学生のときです。卒業を前にIT企業でインターンを経験するなかで、自分で生業を持つことに興味が沸いたのがきっかけでした。学生で資金もなかったので資本金9万円でWithmalを起こし、当初は動物病院のホームページ制作をしていました。動物病院の運営事業を始めたのは2020年からで、現在は北海道から沖縄まで、個人病院から獣医師が複数いる規模の病院まで25院をM&Aで事業承継して経営しています。
なぜ動物病院の経営に乗り出されたのですか。
山崎:ホームページの制作などを通じて動物病院業界が抱える課題がわかってきたからです。動物病院の約6割は個人経営で、院長が診療に当たりながら経理や労務管理、スタッフの採用などを担っています。1960年代~70年代の高度経済成長期のペットブームに乗って開業した獣医師は高齢になる一方、新たに資格を得る獣医師は年間千人ほどなので、施設や技術を受け継ぐ若手が見つからないために閉院せざるを得ない状況も見えてきました。
知人からの紹介で最初に事業承継した沖縄の動物病院は、いろいろな問題があって閉院したのですが、もともと来院者の多い病院でした。そこで私たちで何とか再開できないかと、制度融資などを受けて立て直しを始めました。動物病院は地域に根差した「動物のインフラ」だと私は捉えています。インフラがなくなれば、飼い主さんや働くスタッフなど困る人が必ず出ます。そうした人たちを助けたいという思いから事業をスタートさせました。
閉院した病院が再開して地域の方に歓迎されたでしょうね。Withmalグループとなった動物病院にはほかにどんな変化が見られますか。
山崎:沖縄の動物病院では飼い主さんから「ありがとう」という言葉をいただいて、すごく喜んでもらえました。歩いてすぐの病院がなくなって、車で20分かけて新たな病院に通うのはやはり大変ですから。都内にある高齢の院長と奥さまの2人で運営していた動物病院では、事業承継後に当社で2名の若手獣医師を採用し、診療の手を増やすことで飼い主さんの満足度が高まり、経営も順調です。後継者もなく、この先どうしようかと悩まれていた院長の心身の負担も取れ、私たちが受け継いだ価値はあったと感じています。
Withmalグループでは、統一したシステムで病院を運営するのではなく、地域に合った従来のやり方を続けながら、エリアマネージャーが経営をサポートし、クラウドシステムの会計や勤怠管理ソフトを導入して業務効率化を図るようにしています。
動物病院のグループ化は日本でも進むはず
グローバルに展開するプライベート・エクイティ・ファンドが山崎氏の考えに共感
山口さんに伺います。Lキャタルトン・ジャパンの事業内容を教えていただけますか。
山口:Lキャタルトンは北南米や欧州、アジアなど世界17拠点で投資活動を行うプライベート・エクイティ・ファンドです。Withmalさんのような未上場の企業に対して出資するファンドですね。私たちの投資先は食品や飲料、アパレル、ヘルスケアなどコンシューマー領域の企業に特化しているのが特徴で、動物病院といったペット産業もその一つです。日本円にすると約4兆5千億円の運用資金があります。LキャタルトンのLは、世界的な高級ブランドグループのLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンからきていて、彼らは当社の戦略的パートナーです。彼らのネットワークやノウハウ、人材のサポートを受けています。日本法人はまだ新しく2018年に開設しました。私は投資銀行などを経て2021年から所属し、プリンシパルという職位で投資活動の責任者を務めています。
日本ではこれまでどのような企業に投資されましたか。
山口:化粧品ブランドやメガネ販売チェーンなどがあります。ペット関連ではWithmalさんが初めてです。Lキャタルトン全体でみると、米国の動物病院グループに投資した実績が複数ありますし、ペットフードも含めると、ペット関連では20件ほど投資実績があります。
日本の動物病院業界をどのように見ていますか。
山口:個人病院が多く経営の効率化が進んでいない業界だと感じます。米国の動物病院グループへの投資事例を見ても、グループ化することで管理業務の負担が減り、獣医師が本来の診療に専念できる環境をつくることができています。米国のような動物病院のグループ化は今後日本でも進むはずで、業界の変化をサポートできたらと思っています。
M&Aで譲受側だった山崎さんは今回譲渡を決意されました。理由は何でしょうか。
山崎:2020年からの3年間で25の動物病院を承継して会社の規模が拡大するなかで、財務のプロを招きたい、新規採用を強化したいといった、多くの経営課題が出てきました。自分でも何とかやっていける自信はあったのですが、その一方で、私に何かあれば一気に崩れてしまう可能性もあるなという思いがありました。事業を維持・成長させるには、財務基盤や組織体制の強化を図る必要があると考えて、動物病院の譲受2件でお世話になったストライクの市村さんに相談しました。
山口さんはWithmalをご存じでしたか。
山口:日本のペット関連企業を調べて投資先を探るなかでWithmalグループのことは存じ上げていました。動物病院業界に関してはストライク、特にご担当いただいた市村さんが詳しく精力的に活動されており、私たちが市村さんにご相談した時期と、山崎さんが市村さんに相談されたタイミングが偶然に重なって今回の出会いが実現しました。
初回面談を終えて偶然目にした
ファンドチームの姿が譲渡の決め手に
そうして2023年2月に初めて面談をされました。そのときの印象や譲渡の決め手になったことを教えてください。
山崎:この話をするかどうか迷ったのですが、私の中で決め手となったことがあります。初回の面談はストライクの本社会議室で行われたのですが、面談を終えて帰ろうとしたら、ビルの1階にあるチョコレート店にLキャタルトンの皆さんがいらっしゃったんです。小さな丸テーブルを囲むように4人が座ってアイスクリームを食べていました。その光景を目にして、このチーム素敵だな、良い組織なんだろうなと思いました。好きな人とじゃないと、一緒に食事なんてしないじゃないですか。
M&Aでは、譲渡額も重要ですが、私はそれよりも人間性が大事だと思っています。譲渡後もWithmalを経営するのであれば、どんな人たちと一緒に成長していきたいか。そう考えたときに、面談後にアイスクリームを食べていたチームの姿が決め手になりました。
このエピソードを山口さんはご存じでしたか。
山口:後になって山崎さんが教えてくれました。寒い2月に男4人でアイスクリームを食べるって、よくわからないですよね(笑)。私たち日本チームは当時6人しかいなかったのですが、気合を入れて4人でストライクに出向き面談に臨みました。面談では山崎さんの事業に対する熱い想いやそのベースにある動物病院業界が抱える課題を解決していきたいという信念を伺うことができました。弊社はもっともっと成長したいという意欲のある経営者に出資してきたので、面談後、これはすごく面白い、一緒に何かできるといいね、と4人で熱く盛り上がりながらアイスを食べていたんです。
ストライクの担当者の印象、サービスについての感想を教えてください。
山崎:市村さんが動物病院のM&Aを担当されていることを知って私から連絡を取ったのが最初の出会いです。市村さんの仲介で2つの動物病院を事業承継しました。市村さんの良さは動物病院業界に詳しいことと、仕事が速いことです。返信はメールではなくて、ショートメッセージです。いつも素早く返してくれます。私はスピード感のある方と一緒に仕事がしたいので、タイムリーにテンポよくやり取りができたことは本当に良かった。最近、獣医師の資格を持っておられる岡野さんも担当に加わっていただきました。ストライクのチームは、私たちの環境や考えを理解しながら事業承継の仕事に携わることができる稀有なチームだと思います。
山口:当社が日本の動物病院業界を勉強していこうというときに、ストライクの別の担当者から紹介されたのが市村さんでした。海外とは異なる日本の獣医師の考えや置かれた環境をいろいろと学ばせてもらいました。それによって今ここに至っており、感謝しています。
M&Aアドバイザーより一言(市村 鉄平・企業情報部 シニアアドバイザー談)
株式会社Withmal様は、山崎代表の動物病院業界の課題を解決したいという強い想いをベースに急成長されてきました。
当社はこれまでWithmal様が譲受側となるM&Aのサポートをさせていただいておりましたが、今回、組織力の強化とさらなる事業の拡大のために譲渡のご提案をさせていただきました。
M&Aと聞くと譲渡側の株主が高い金額で会社を譲り渡して経営を退く、というイメージを持たれる方も多くいらっしゃると思いますが、本件のように譲渡企業の代表が譲渡後も継続して社内に残り、譲受企業様と一緒にさらに事業を拡大していく、という戦略的なM&Aもよく行われます。
今回お相手となったLキャタルトン様は世界的に有名な投資ファンドです。米国では複数件の動物病院グループ、英米中ではプレミアムペットフード会社への資本参画・成長支援の実績があり、ペット関連事業の経験が豊富です。今回のWithmal様のお話を機に国内の動物病院へ活動を拡げていきたいとのことです。
今後、両社の成長に貢献できるように当社としても引き続き動物病院のM&Aに注力していきたいです。
Withmalをサポートするために参画
業界の課題に挑戦し、解決していきたい
2023年9月にM&Aが成約しましたが、何か変化はありますか。これからの展望も合わせて教えてください。
山崎:財務経理のプロがほしいという私たちの経営課題にLキャタルトンさんがいち早く採用活動で手を打ってくれました。公認会計士の方が成約後すぐに入社してくれました。とても優秀な社員で、Lキャタルトンさんと一緒になれたからこそ出会えた方です。私自身の変化でいえば、事業に対する気持ちがさらに前のめりになった気がします。支えてくれる人が増えて、心強くなったからだと思います。
展望ということで言えば、動物病院の獣医師は長時間労働になりがちで女性獣医師がキャリアを積みにくいといった業界としての課題があります。また、ペットの飼育頭数の減少による経営難も見られるようになりました。動物病院業界が抱えるさまざまな問題に一つひとつ挑戦し、解決につなげられる経営者になりたい、Withmalをそのような会社にしたいと思っています。
山口:私たちはWithmalをグループに迎え入れたという感じではなく、Withmalグループをサポートするために参画したと思っています。山崎さん個人でやるにはリソースも体力も限界があります。一人では成し得ないところを、Lキャタルトンと一緒になったことで達成できたと、5年後10年後に言えるように努めたいと思います。
本日はありがとうございました。
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