ご成約インタビュー No.51
INTERVIEW
後継者不在、業績低迷、財務懸念――
レガシー企業が抱える難題を解決へと導いた
ベンチャー企業とのM&A
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協和海運株式会社 代表取締役社長 鈴木 文雄 氏
協和海運株式会社は1960年の創業以来、地元横浜を中心に輸出入通関、化学品及び危険物保管、運送を営む老舗企業。近年はフォワーダー業も手掛け、多様化するクライアントのニーズに応えている。同社では代々、社内承継が行われてきたが、三代目社長の鈴木文雄氏は2022年7月、ベンチャー企業とのM&Aに踏み切った。決断の背景や心境、今後の事業展開などについて鈴木氏に伺った。
黒字経営ながら業績低迷、財務課題も山積み
事業承継の問題に直面
社内承継からM&Aへ舵を切る
御社の沿革、事業内容や強みを教えてください。
当社は1960年の創業以来、横浜港を中心に、貨物の輸出入通関・配送・保管の3本柱で事業を展開してきました。初代の社長が化学品および危険物に特化して創業したこともあり、他社がなかなか扱えない特殊貨物に対応できることが特色の一つとなっています。
平成に入ってからは、多様化する物流のニーズに応えるため国際複合一貫輸送の認可を受け、いわゆる「フォワーダー」としての業務も行っており、4本目の柱となっています。
鈴木さんは三代目の社長でいらっしゃいますね。
私が社長を受けたのは「致し方なかった」のが正直なところです。二代目の時代にリーマンショックの影響で景気が低迷、当社の取り扱い件数も減り決算赤字が続いたことに加えて、デリバティブの失敗で債務が拡大、財務体質が悪化……。そんなときに二代目が病気になり、余命宣告を受けて、後を継いでほしいと言われたのです。
引き受けると個人での連帯保証が必要でした。妻とも相談して、二代目には二度、断りました。でも、もうあと数日というような容態になり、「なんとか協和海運の看板を残してくれないか」と最後の打診を受け……。私にとっても、45年お世話になってきた大切な会社です。協和海運を守りたい。でも連帯保証人にはなりたくない――葛藤しましたが、最終的には社長の職に就きました。
会社の譲渡を決断されたきっかけを教えてください。
財務体質が改善できないまま事業承継の問題に直面したことです。私が社長になった後、黒字経営に転じ、業績は堅調ですが、今の返済のペースでは完済までに20年ぐらいかかる計算になります。私はまもなく70歳、とてもそこまで頑張れません。当社はこれまで社内承継をしてきましたし、次もそのつもりで四代目の候補者を決めていました。でも、その社員に打診したところ、私のときと同じように連帯保証を理由に断られてしまいました。
銀行とも事業承継の話をする中で、外部から後継者を招聘するという案も出ましたが、役員報酬などを考えると、それも難しい。暗中模索しているときにストライクさんからお話をいただき、M&Aを決断するに至りました。
譲渡するに当たって、希望の条件はありましたか?
お相手探しはストライクさんにお任せしていました。こちらから希望や条件をいろいろ出すようなことは基本的にはなかったです。ただ、畑違いの会社とのご縁はイメージしていませんでした。ストライクさんから紹介されたのは2社で、提携に至ったShippioさんは同業、もう1社は当社の業務の一角である運送業でした。当社の“親”になっていただくわけですから、社員のことを考えても、同業あるいは近しい業種のお相手が安心だと思いました。
レガシー×ベンチャー
企業文化や仕事のやり方は違うが
だからこそ相乗効果が期待できる
若いベンチャー企業とのご縁となりましたが、考え方や社風の違いなどについて不安な点はありましたか?
我々はアナログなやり方を通していて、電話、FAX、Eメール以外のツールを使ったこともありません。ですから、最初はShippioさんが「デジタルフォワーダー」だと言われてもよくわからず、戸惑いました。でも、いろいろお話をお聞きするうち、IT技術を駆使して貿易業務の効率化やコスト・人員の削減を図っていること、将来的に通関業務のデジタル化を目指していることなどが徐々にわかり、協業のイメージがつくようになりました。
Shippioの社員さんは非常にスキルの高い方が多いのですが、この業界はスキルが高いだけでは通用しないところもあって、我々の60年以上にわたる経験がお役に立てる部分があると考えています。レガシー企業とベンチャー企業の組み合わせですから、企業文化や仕事のやり方に大きな違いはありますが、だからこそお互いの長所を結び付けることで、相乗効果を生み出せると期待しています。
トップ面談の印象を教えてください
率直に言わせていただければ、皆さん“紳士”でいらっしゃるなと思いました。買収する側ですし、もっと“強面”と言うか、強引で高姿勢かもしれないと勝手に想像していたのですが、そのようなことは全くありませんでした。皆さん物腰が柔らかく、温かい方ばかりで、和やかにお話しすることができました。
交渉のプロセスにおいて、悩んだこと・不安だったことはありますか?
夜、ふとんの中で「これでよかったのかな」と考えたりしたことはありました。といっても、そんなに思い悩んだわけではありません。買収するにしろされるにしろM&Aは初めての経験でしたから、最初のうちは一抹の不安もあった、という感じです。ストライクさん、Shippioさんと何度かお会いするうちに、そうした漠然とした不安も消えて、最終契約のときにはスッキリとした気持ちでサインしました。
実務的な手続きの面でわからないこともありましたし、ストライクさんのお力をお借りしてよかったと思っています。山田さんは初対面のときは怖かったけれど(笑)、徐々に人柄がわかり、打ち解けました。M&Aに精通した、信頼の置ける相談相手でした。中村さんはとても優しい人で、親身になって当社や私のことを考えてくれました。私が手こずっていた資料集めを遅くまで手伝ってくれたり、本当に助かりました。
M&Aについて、社員の方にはどのように伝えましたか?
最終契約のすぐ後に全員を集めて朝礼を行い、M&Aについて発表するとともに、協和海運として皆で今までやってきた仕事を変わりなくやっていけること、当面は私が社長を務めるがいずれ交代することなどを説明しました。その後、何か質問はないか尋ねたところ、1~2名の手が挙がりましたが、すでに説明したことを確認するような内容でした。反対や異論の声はなかったです。社員には常々、財政状況をつまびらかにしていますので、皆、今回の資本提携の意義を理解してくれているし、不満も不安もないと思います。
M&Aアドバイザーより一言(中村亘・コンサルティング本部アドバイザー談)
鈴木様は、今まで育ててもらった会社と社員への恩返しとして、同社の社長に就任されました。厳しい経営環境ながら近年は黒字経営を続けておられましたが、ご自身も高齢になり事業承継の問題に直面、M&Aの検討を始められたタイミングでお会いしました。
M&A後の連携を重点に考え、同業や周辺業種を中心に同社の強みを活かせるお相手探しをスタートしたところ、すぐに複数の買い手候補が見つかりました。ベンチャー企業との縁組となり、当初は鈴木様も驚かれていましたが、提携後のシナジー、お相手の社風、経営陣の人柄などをしっかりとお伝えすることで、最終的にはご安心いただけたと思います。提携後の懇親会で鈴木様のほっとされた表情が大変印象的でした。
事業内容に強みがあれば良い譲受先が見つかります。今回はその好例で、協和海運様のお相手も同社の通関業の実績や強みを高く評価しておられました。レガシー企業とベンチャー企業という意外な組み合わせだからこそシナジーを生み出せる好例でもあり、今後の協業に向け、すでに動き出しているそうです。
週1のミーティングを重ね
よりよい協業の方法を模索中
若い力との融合が楽しみ
M&A後、事業内容に変化はありますか?
Shippioさんのクライアントから通関の仕事を請けるようになりました。取扱件数を増やすことは社業発展に直結しますので、ありがたいです。まだ始まったばかりで、横浜港の案件を徐々に請けている状況です。多くのクライアントを抱えていらっしゃるので、今後さらに受注が増えることも期待できますが、横浜港以外の案件をどうするか?大手企業は各地に営業所・支店を持ち全国対応していますが、我々は横浜にしか基盤がありません。将来的にエリアを広げてほしいという意向も受けていますが、そのためには人的リソースなど、さまざまな問題について相談・解決していく必要があります。
今後の協業について期待することを教えてください。
週1回、両社でミーティングを行っていますが、まだ先方が当社の業務の内容・やり方を確認しておられる“入り口”の段階です。先ほどお話ししたように、同じフォワーダーでも仕事のやり方、考え方が違いますから、互いにミーティングを重ね歩み寄り、よりよい協業の方法、システムを探っていかねばなりません。必ずしも難しいことばかりではないですが、相応の時間はかかるだろうと思っています。
近々、両社の懇親会が行われるそうですね。
はい。Shippioさんが企画してくれました。当初予定された日に当社の営業部長と業務部長の都合がつかず欠席するとお伝えしたところ、佐藤(孝徳)社長が「社員同士の大切な顔合わせですから、キーマンが揃うときにしましょう」と、わざわざ日にちを変えてくださった。当日はまず先方の本社を訪問して対面式を行い、それから懇親会の予定です。私も社員も楽しみにしています。
今回のM&Aを振り返って、今の率直なお気持ちをお聞かせください。
総括すると「M&Aをしてよかった」と思っています。M&Aを発表した朝礼の最後に、これまで皆に苦労をかけたが、今回の提携で今より悪くなることはないと保証する、良くするための決断だと説明しました。実際、佐藤社長から給与・賞与面に関しても「今まで以上のことができるよう頑張る」というお言葉をいただいています。まだまだ私が肩の荷を下ろせるような段階ではありませんが、財政面の課題解決の道筋がつき、新たなスタートを切れたことは大きいです。これから協業していく中でいろいろ問題も起こるでしょうが、若い力との融合でどんなことが実現するか、とても楽しみです。
本日はありがとうございました。
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