ご成約インタビュー No.47
INTERVIEW
ブランドを刷新し、新商品も開発
働き方の改善で従業員の士気も向上
~経営不振の老舗洋菓子店、M&Aからの再生
- #後継者不在
- #成長加速
- #企業再生
- #老舗
- #外食・食品関係
モロゾフ株式会社 代表取締役副社長 山岡 祥記 氏
株式会社鎌倉ニュージャーマン 代表取締役社長 野村 謙 氏
神奈川県鎌倉市で1968年に創業し、看板商品の「かまくらカスター」が広く愛されてきた洋菓子製造・販売の株式会社鎌倉ニュージャーマン。2020年4月に洋菓子大手のモロゾフ株式会社(本社・兵庫県神戸市)によるM&Aで新生会社となって2年が過ぎた。この間にブランドを刷新し、老朽化した工場設備や店舗をリニューアル、モロゾフ流の生産管理で従業員の働き方も見直してきた。経営不振に陥った老舗製菓を、どのようにして立て直したのか。モロゾフの山岡祥記副社長と鎌倉ニュージャーマンの野村謙社長に改革の道のりを伺った。
看板商品のおいしさが譲受の一番の決め手
首都圏強化のブランド戦略とも合致
鎌倉ニュージャーマンを譲り受けた経緯を教えてください。
山岡: モロゾフは1931年に神戸市で創業し、チョコレートの製造販売からスタートした会社です。定番商品として人気のプリンやチーズケーキ、焼き菓子を全国の百貨店などで販売していますが、首都圏での売上をさらに拡大していくことが課題でした。鎌倉というブランドイメージの高い地域で愛されてきた鎌倉ニュージャーマンの子会社化は、中期経営計画で首都圏強化を掲げていた当社の戦略とちょうどかみ合いました。
特にどのような点に価値や魅力を感じましたか?
山岡:やはり商品です。1982年に誕生した看板商品の「かまくらカスター」は、創業者が当時人気だったシュークリームとショートケーキをミックスさせた新しい洋菓子として開発しました。一世を風靡した生菓子で、多くの菓子メーカーが真似をした原型です。こだわりを持って作られた本家本元はやっぱりおいしい。これが最大の魅力です。その一方で焼き菓子は弱かった。モロゾフが得意とするクッキーなどの焼き菓子を加えれば、商品の幅が広がると思いました。
もう一つは自社工場ですべて生産していることでした。他社に真似のできない特長のある商品を作るには、自社の生産ラインが必要です。モロゾフも自社生産を通してきました。老朽化した工場の補修は必要でしたが、工程が比較的自動化されていて、増産可能な規模の工場があったことも魅力でした。
従業員の皆さんに対しては、どのような印象を?
山岡:店舗の販売員も工場の従業員も一生懸命で真面目な方ばかりでした。経営が厳しくなって給料も抑えられ、遅配も起きていましたが、毎日残業もして作っておられた。厳しい環境下でよくやっていたな、と。しっかりと商品を作ってくれる方がいたことも、譲受を決める際の重要なポイントでした。
野村:真面目でひたむきな従業員を支えていたのは、会社や商品に対する愛情です。私は2020年4月、譲受とともに社長として着任し、約130人の従業員全員と個別面談をしました。その多くを占める契約・パート社員からも「こういう会社に変えてほしい」といったさまざまな意見が出て、会社を良くしていきたいという強い思いが伝わってきました。とても良い企業風土だと感じました。
さらに感心したのが、社員がオールラウンダーであることです。管理の仕事をしながら夕方から売り場に立って販売の仕事をする。販売員が商品写真を撮り、ポップを自作して販促的な仕事をこなす。一人でいろいろなことができてしまう。大企業にはない強みだと思いました。
一方で、足りなかったものは何でしたか?
野村:一人ひとりの力を束ねるリーダーシップを持つ人がいませんでした。当時の経営者は資金繰りが大変で、現場にまで力が割けなかったのでしょう。もう一つは自信です。一生懸命働いても成功体験が少なかったからだと思います。商品を売り切って楽しいとか、これだけの実績が上がったとか、そうした成功体験が積み上がってくると、もっと力を発揮できるはずです。コロナ禍でM&A前との比較は難しいのですが、2021年は対前年比で1.5倍、2022年も現状で対前年比1.5倍と売上は伸びているので、これからです。
従業員がモチベーション高く働けるよう
職場環境と働き方の改善から着手
再生に向けた取り組みを教えてください。
山岡:最初に手を付けたのは職場環境の改善です。工場内のエアコンをすべて取り換え、休憩場所である食堂のテーブルや椅子なども新しくしました。人によってバラバラだった制服もモロゾフの制服に統一しました。また、食堂の壁には「鎌倉の風土を愛し スイーツで笑顔をとどける」という新たな企業理念を掲げました。従業員がプライドを持ち、モチベーション高く働ける環境をまず整えるべきだと考え、最初の約3カ月間はその改善に費やしました。
従業員の皆さんに変化は見られましたか?
野村:新しいエアコンをつけてくれてうれしいなどと感謝されましたし、「次はトイレをお願いします」といった声も上がりました。働く環境が変化したことで、間違いなく士気は変わりました。コロナ禍で時間に余裕があったため、少しずつお金をかけながら設備の補修や取り換えをし、従業員の働き方も見直しました。
とにかく残業が多く、土日も休みなく工場を稼働させていたのです。商品が売れているからではなく、非効率な働き方が原因でした。例えば、午後8時の閉店後に店舗の販売員から翌々日の発注数が本社にFAX され、管理部門の社員は深夜に各店の発注数を集計していました。だから月の残業は60時間を超えるのが当たり前だったのです。発注数の締め切り時間を前倒ししたり、翌朝に自動集計するようにしたことで、残業は平均月20時間程度になりました。
山岡:工場は日曜日を休みにしました。これまで休めなかったのは、設備メンテナンスの問題に加えて計画生産の発想がなかったから。製造ラインを見直して自動化を進めるとともに、生産管理に関してはモロゾフから1年間、責任者が入って、現場指導やルールづくりにあたりました。年間の販売予測を立てて、どの時期に何を作るのかを考え、工場の稼働を平準化させ原料ロスや残業を減らしていきました。
モロゾフの製造技術で新商品を開発
新ブランドとして独自の成長に期待
商品や店舗もリニューアルされましたね。
山岡:かまくらカスターとロールケーキ以外の商品のラインナップを変えました。「かまくらミニ」「かまくらボーロ」などモロゾフの製造技術を取り入れた新商品を開発し、商品すべてに「かまくら」の名を付けてブランドを強化しました。また、焼菓子の製造ノウハウを持つモロゾフの強みを生かして、常温で日持ちする商品を強化することで、手土産やギフト需要に応えられるようにしました。
野村:企業ロゴも鎌倉の市章であるササリンドウを用いた印象的なものに変え、商品パッケージも鎌倉の風情を表現したデザインに一新しました。JR鎌倉駅前の本店も2020年11月、鎌倉彫を取り入れた木と黒壁が融和するジャパニーズモダン調にリニューアルし、今年7月には2 、3階を「鎌倉ニュージャーマンCAFE」としてオープンしました。カフェ経営のノウハウを持つモロゾフが運営、モロゾフのプリンやチーズケーキもメニューにあります。
店舗は横浜高島屋、ラゾーナ川崎プラザなど4カ所に新規出店しました。新生会社への期待から声をかけていただいたケースが多く、うれしかったですね。
鎌倉ニュージャーマンのこれからに期待することは?
山岡:日本は少子高齢化が進み、私たちが基盤とする百貨店の売上も、かつての10兆円規模から半分以下に落ちています。そうした中でモロゾフが生き残っていくには、売上や利益を補完し合う新たなブランドをいくつか持つことが必要です。その一つのブランドとして鎌倉ニュージャーマンが育ち、10年後に30億円の売上と確実な利益を上げられるような独自ブランドへと成長することを期待しています。
最後にモロゾフの今後のM&A戦略をお聞かせください。
山岡:先ほども触れましたが、国内市場が縮小する中で、モロゾフという大きな幹にいくつかの枝を成長させていく必要があります。M&A戦略は、その一つの柱だと考えています。
戦後の時期を除けば国内メーカーのM&Aは初めてです。この経験値を次につなげられるように、まずは鎌倉ニュージャーマンのさらなる成長に注力したいと思います。
本日はありがとうございました。
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