INTERVIEW

地元住民に長く親しまれてきた老舗薬局
同業とタッグを組むことで新たな事業展開を模索

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株式会社トミオカ薬局 取締役 富岡 伸夫 氏、株式会社トミオカ薬局 2代目 富岡 清氏、株式会社タウンメディカル 代表取締役 今泉 勝 氏、ストライク丸岡

株式会社トミオカ薬局 取締役 富岡 伸夫 氏
株式会社タウンメディカル 代表取締役 今泉 勝 氏

1946年の開業以来、地域に根差した調剤薬局として親しまれている株式会社トミオカ薬局(埼玉県熊谷市)は2024年9月に、同じく埼玉県内で調剤薬局「かばさん薬局」を展開している株式会社タウンメディカル(埼玉県草加市)に株式譲渡を行った。トミオカ薬局の3代目である富岡伸夫取締役と、タウンメディカルの今泉勝代表取締役社長に、調剤薬局が置かれている現状やM&Aの背景、今後の事業展開についてお話を伺った。

調剤薬局もモノからヒトへ
これからは薬剤師の質も問われる時代に

御社の事業内容を教えてください。

トミオカ薬局
初代の郷里である熊谷市で開業して75年超。
地域密着型の薬局として地域住民に欠かせない存在となっている。

富岡:トミオカ薬局は陸軍軍医学校の薬剤官を務めていた私の祖父が1946年に郷里である熊谷市で開業しました。当時は調剤薬局なんてものはありませんでしたので、薬剤師である祖父が、祖母と共に夫婦二人三脚で薬や雑貨を売るという形でやっていました。祖父が亡くなったあとは私の父が引き継ぎ、1988年に新たに市街地北部に箱田店を開業しました。2000年頃から医薬分業の機運が高まり、当社でも調剤薬局を展開していこうということで店舗数を増やしていき、現在は6店舗体制になっています。

今泉:タウンメディカルは埼玉県草加市を中心に調剤薬局「かばさん薬局」を22店舗展開しています。調剤薬局のほか、患者さんのご自宅などに医薬品をお届けする在宅訪問にも力を入れています。そのほかに「かばさん保育園」も3施設運営しています。薬局で働く薬剤師には女性が多いのですが、子どもが生まれても変わらずに働き続けて欲しいという思いから保育園の運営も開始しました。

調剤薬局の現状や課題にはどのようなことがありますか?

富岡:昔は処方箋をたくさん受け付ければその分だけ利益を上げることができましたが、相次ぐ診療報酬改定や薬価改定により、ただ薬を調剤すればいいということではなくなりました。調剤薬局の業界でも「モノからヒト」への時代になってきており、かかりつけ薬局の機能を備えたり、地域貢献に注力したりしないといけません。

今泉:病院の隣にある、いわゆる門前薬局と呼ばれるような調剤薬局はお店を開いていれば患者さんが来るので、それだけで経営が成り立ちました。
そういう薬局は○○病院の隣の薬局、というようにお店の名前を憶えてもらえません。
それを私は疑問に思っていて、きちんとお店の名前を憶えていただく必要があると感じていました。お店の名前を憶えていただくためには薬を処方するだけでなく、薬剤師が患者さんとコミュニケーションを取れなければ印象に残りません。今後、調剤報酬点数の加算を取っていくためには薬剤師のコミュニケーション能力も問われる時代になってきていると感じます。

M&Aを検討されたのはどのような理由からでしょうか。

株式会社トミオカ薬局 取締役 富岡 伸夫氏
株式会社トミオカ薬局 取締役 富岡 伸夫氏

富岡:当社は私が経営に入るまでは私の両親が夫婦二人で経営していました。4年ほど前に母が亡くなり、父が一人になったタイミングで私がトミオカ薬局の代表取締役になりました。今も父は会長として働いてくれていますが、実質的な経営者は私一人になりました。社内で後継者の育成が難しかったことに加え、2021年あたりのコロナ禍の影響で財務状況が厳しさを増していく中で、お世話になっている銀行に経営相談をしていた際、M&Aによる事業承継という選択肢もあるかもしれない、という話を聞いて動き始めました。

祖父の代から続く薬局の譲渡には葛藤も
経営のパートナーを得たことで孤独感から解放される

祖父の代から続いてきた会社を第三者承継するにあたり葛藤などありましたか?

富岡:それはありましたが、このまま続けていくことで立ち行かなくなることの方が恐ろしかったので、事業承継という選択をしました。家内には相談しましたが、決断は私自身がしました。父には候補先企業が上がってきたタイミングで話をしました。

譲渡にあたり希望された条件や、タウンメディカル様とお会いになった際のご印象、決め手についてお聞かせください。

富岡:希望した条件は当社が存続し、従業員が継続して働けることでした。タウンメディカルさんとお会いした際の印象ですが、今泉社長は一代で調剤薬局を20店舗以上展開されていましたので経営手腕の高い方でいらっしゃると感じました。また、タウンメディカルさんは主に埼玉県南部で出店されているので当社とエリアが重複していない点も良かったです。
実は、今泉社長が熊谷のご出身でトミオカ薬局のことを以前からご存知だったんです。当初、本店以外の店舗を切り離して譲渡する、という話も出ていました。それは、トミオカ薬局の象徴ともいえる本店は私が引き続き経営に携わった方がいいのではないか、と考えてくださったからです。そこまでトミオカ薬局のことをよくご理解くださり、あり方を考えてくださったことが決め手になりました。

トミオカ薬局様の譲受をきめられた理由についてお聞かせください。

株式会社タウンメディカル 代表取締役 今泉 勝氏
株式会社タウンメディカル 代表取締役 今泉 勝氏

今泉:本店だけでなく、箱田店や末広店といった他の店舗のことも知っていましたので、トミオカ薬局さんが譲渡を検討されていると聞いて驚きました。生まれ育った熊谷で昔から知っている薬局さんのお話だったので、これもご縁だと感じ、頑張ってみたいなと思いました。

M&Aを決断して良かったと思われるのはどのようなときでしょうか。

富岡:一番は会社が継続していくということです。二つ目はグループ化したことで経営面の相談相手ができたことです。現在、人材確保の問題や財務状況、就業条件など当社の構造的な問題を今泉社長と共に変えていこうとしているのですが、こういったことは社員には相談できませんし、高齢の父からもアドバイスを受けにくいです。経営面での相談ができるお相手ができたことで精神面の負担が軽くなりました。経営者というのは孤独ですから、そういった孤独感を解消できたことがM&Aのメリットだと感じています。

トミオカ薬局様は長年ご勤務されている従業員の方も多いそうですが、従業員の皆様からはどのような反応がありましたか。

富岡:成約するまで一切明かしていなかったので驚いたとは思いますが、充分な賞与が出せないといった状態が続いていたので、社員の中には何となく会社の変化を感じていた者もいたと思います。

今泉:成約後の翌週に43名の社員全員と面談しました。いろいろと話を聞く中で問題意識を持っている社員もいましたので、今後はそういった意見を参考にしながら改革に着手していく予定です。

今後はお互いの強みを生かし、新たなサービス展開に向けて動き出す

ご成約後の両社の協業に向けた取り組みや、今後の事業展開についてお聞かせください。

株式会社トミオカ薬局 2代目 富岡 清氏
トミオカ薬局の2代目・清氏は今も現役の薬剤師として店頭に立っている。
トレーに描かれているのはマスコットの「トミオカくん」。

今泉:先ほども申し上げた通り、個々の調剤薬局はなかなか店名を憶えていただけません。しかし、トミオカ薬局さんはその名前が熊谷の皆さんに浸透しています。地域での知名度がとても高いので、この名前を活かさない手は無いと思います。
タウンメディカルでは在宅療養している患者さんのお宅や老人ホームやグループホームにお薬をお届けするサービスを展開しています。トミオカ薬局さんは地元での知名度が高いので、そういった施設に対してお薬のお届けサービスの新規開拓ができるのではないかということで準備を進めている最中です。全く知らない薬局が訪問しても相手にしていただけないのですが、トミオカ薬局さんだと「あぁ、あのトミオカ薬局さんだね」と、すんなり受け入れていただけるのです。
その他に、トミオカ薬局さんでは毎月お客様にDMを送付しているのですが、今後はかばさん薬局でも取り入れていきたいと考えています。健康相談や栄養相談などのサービスをお知らせすることでお店に来ていただく機会を増やしていきたいです。

タウンメディカル様の今後のM&A戦略についてお聞かせください。

今泉:今回のM&Aでグループ化によるスケールメリットを追う時代ではなくなったと感じました。医薬品の卸売会社とも話していますが、薬の価格は限界まで下がってきているので、グループの規模を大きくしても仕入れコストを下げるのは難しい段階に来ています。M&Aというとシェアを確保して原価を下げるというイメージがありますが、調剤薬局の場合はそうではなくなっています。ですので、今後は採用といった人材確保の部分に注力していきたいです。人の採用というのはこれからどんどん難しくなっていきます。薬剤師というのは転職が当たり前になっている部分があるのですが、免許があれば稼げる時代ではなくなっていきますので努力をしないといけません。
これからは意欲のある人を10人、20人と増やしていけるようなM&Aをしていくのが良いのではないかと考えています。

ストライクの担当者はいかがでしたか?

株式会社トミオカ薬局 取締役 富岡 伸夫 氏、株式会社トミオカ薬局 2代目 富岡 清氏、株式会社タウンメディカル 代表取締役 今泉 勝 氏、ストライク丸岡
今後はお互いの強みを生かしたサービスを展開していく予定(写真右はストライク担当の丸岡)

富岡:資料関係の準備が非常に大変だったのですが、社員にやらせるわけにもいかず……。丸岡さんには抜けている資料などタイムリーにお声がけいただき、助けていただきました。

今泉:お互いの意向を汲んでスムーズに話が進むようにするための調整能力が素晴らしかったです。
仲介役として非常にうまく進めていただき助かりました。

経営や事業承継に課題を抱えている経営者の方に向けたメッセージをお願いします。

富岡:将来に不安を感じていたらまずは相談してみてはいかがでしょうか。ただ、仲介会社からの手紙や電話だけでは、どこの会社を選ぶのか決めるのは難しいと思います。そのような場合は、当社のようにお世話になっている銀行に相談してみるのもいいと思います。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(丸岡 信哉・法人戦略部 アドバイザー談)

ストライク丸岡 信哉

株式会社トミオカ薬局様は、埼玉県熊谷市で6店舗の調剤薬局を展開されています。薬を処方するだけではなく、患者様に寄り添い、お悩みに真摯にご対応されていたことから地元の方にとってなくてはならない調剤薬局として地域に根差しておりました。
そんな調剤薬局を今後も残していくために富岡社長が選択されたのがM&Aでした。M&Aで企業の傘下に入ることで相次ぐ診療報酬改定や薬価改定への対応をスムーズにし、患者様と向き合う時間を引き続き残していきたいという想いからです。
お相手の株式会社タウンメディカル様はトミオカ薬局様と同じ埼玉県内で展開されており、同社の「かばさん薬局」は現在では22店舗にも上ります。
株式会社タウンメディカル様より、運営ノウハウを享受し、ひいては一緒に成長し続けることができるということでご成約に至りました。
今回の調剤薬局に限らず、地域になくてはならない企業様は多数存在します。これからもそんな企業様のお役に立つことができれば幸いです。

2025年1月公開

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