セミナーレポート
SEMINAR REPORT
事業継承の「難関」
経営者保証解除にどう取り組むべきか?

事業承継最大の「難関」とも言われている経営者保証。「商売に失敗すれば、家財産の全てを失う」とのイメージが根強く、後継者候補が事業承継に尻込みする最も大きな理由の一つだ。国や金融機関は事業承継を促進しようと、経営者保証の見直しを進めている。事業承継の売り手は経営者保証という「難関」を、どのように乗り越えるべきなのか?
そこでストライク<6196>は「事業承継前に知っておくべき”経営者保証”解除のための基礎知識」をテーマにWebセミナーを開催。黒木正人行政書士事務所(岐阜市)の黒木正人所長を講師に、売り手企業の経営者に向けて事業承継での経営者保証解除のポイントを解説した。
「経営者保証に関するガイドライン」が潮目に
黒木所長は1982年に十六銀行に入行、事業支援部長や十六信用保証常務を経て、2012年に飛騨信用組合へ移籍。常務理事や専務理事、理事長を歴任し、融資する側から経営者保証に向き合ってきた。
2021年に黒木正人行政書士事務所を立ち上げて経営者保証なしの融資による顧問先支援を数多く手がけるほか、中小企業庁岐阜県よろず支援拠点コーディネーターとして中小企業のサポートにもあたっているエキスパートだ。
黒木所長は2013年に全国銀行協会と日本商工会議所が策定した「経営者保証に関するガイドライン」で潮目が変わったと指摘する。ガイドラインに法的拘束力はないものの、中小企業経営者と金融機関の自主的なルールとして機能しているという。
ガイドラインによると、「法人と経営者の明確な区分分離」「財務基盤の強化」「適時適切な情報開示」の3要件が将来にわたって充足される体制が整備されていれば、金融機関は経営者保証なしの融資を検討する必要がある。持続可能性がある企業の事業承継ならば、経営者保証は不要になったわけだ。
ところが現実には事業承継時に金融機関が前経営者と後継者の両方から個人保証を求める「二重保証問題」が依然として残っていた。ガイドライン策定から4年ほど経った2017年度すら、36.9%の中小企業が金融機関から二重保証を求められたという。
しかし、2019年に国が同ガイドラインの特則として「二重徴求の原則禁止」を盛り込んだ。併せて事業承継時に経営者保証を不要とする新たな信用保証制度「事業承継特別保証制度」を策定。一定の要件を満たした事業承継に当たり、2020年から経営者保証なしに最大2億8000万円まで融資が受けられるようになった。
さらに2024年3月からは信用保証協会が保証料率を0.25%または0.45%上乗せすることで経営者保証を不要とする制度を新設するなど、経営者保証解除のハードルは確実に下がったと指摘する。
経営者保証解除を金融機関に認めさせるポイントは
とはいえ、全ての事業承継案件で経営者保証が自動的に解除されるわけではない。よほど信用がおける取引先でなければ、経営者の責任感と本気度を推し量り、それらを担保するために経営者保証が必要だと考える金融機関も少なくないのだ。
黒木所長は事業承継時に経営者保証を解除するための対策として、第1に「会社のバランスシートから社長の貸付金を消す努力をすべきだ」と話す。役員貸付金がある企業は会社と経営者のお金の区別が曖昧と見られ、「金融機関は融資に慎重となり、経営者保証を外すことにも消極的になる」(黒木所長)からだ。
第2に債務超過状態を解消して資産超過にすること、第3に債務償還年数を15年以内とするだけのキャッシュフローを実現しておくことを挙げた。「この3要件を実現していれば金融機関は正常な融資先と見るので、事業承継を含めて経営者保証なしの融資をしてくれる可能性が高い」(同)という。
もっとも「全ての要件を満たしていなくても、金融機関と交渉すれば経営者保証を解除してくれる可能性はある」(同)ので、諦めずに相談してみよう。黒木所長は「新しい融資を経営者保証なしで受けながら保証つきの融資を返済していけば、いずれ保証なしの融資のみになる」とゴールを設定する。
具体的な経営者保証解除の事例については、金融庁の「『経営者保証に関するガイドライン』の活用に係る参考事例集」や経済産業省 中小企業庁の「事例でみる経営者保証の解除~課題解決のポイントとその効果」などが参考になるという。
黒木社長は「M&A業界を揺るがしている『悪質な買い手』問題を防ぐためにも、経営者保証の解除は重要。事業譲渡を考えているのなら、ぜひ経営者保証解除にトライして欲しい」と呼びかけている。
文・写真:糸永正行編集委員
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