ご成約インタビュー No.72
INTERVIEW
大手企業を顧客にもつコールセンター会社を
業界大手に譲渡した47歳2代目社長の
将来を見据えた経営判断とは
- #事業拡大
- #戦略的M&A
- #老舗
- #人材派遣
フロストインターナショナルコーポレーション株式会社 代表取締役前社長 上杉 研一郎 氏
フロストインターナショナルコーポレーション株式会社 代表取締役社長 兼 株式会社WOWOWコミュニケーションズ 執行役員 小川 真 氏
東京都世田谷区に本社を置くコールセンター業務の会社を2023年8月、同業大手の株式会社WOWOWコミュニケーションズ(本社・横浜市)に譲渡したフロストインターナショナルコーポレーション株式会社前社長の上杉研一郎氏。創業した父の後を継いで7年。47歳で第三者承継に踏み切ったのは、業界の動向や従業員の雇用維持など先を見据えた経営判断があった。社長を退任して会社から離れ、新たな道を歩み始めた上杉氏と、WOWOWコミュニケーションズから新社長に就いた小川真氏に成約までの道のりを伺った。
フロストインターナショナルコーポレーション
株式会社 ×
株式会社WOWOWコミュニケーションズ
ご成約インタビュー動画
東京・世田谷で事業を営んで33年
オペレーターの採用率3割の厳選人材が強み
フロストインターナショナルコーポレーション(以下、フロスト社)の事業内容と沿革を教えてください。
上杉:大手企業の通信販売をサポートするコールセンター事業を主業とする会社です。商社に勤めていた父が、米国での通販事業の拡大が日本にも及ぶとみて1990年に創業し、米国のトレーニングマシンや衣類などを扱う通販事業を始めました。当初から約10年間は、商品の広告宣伝やコールセンター、物流などをトータルで展開していましたが、通販が広く普及してきた2000年代から、お客様対応のコールセンターサービスを外部に提供する業態に切り替えて今に至っています。
事業の強みはどこにあるとお考えですか。
上杉:コールセンター業務の品質の高さ、33年間積み上げてきた知見、クライアント企業と二人三脚で事業を進めていく姿勢が評価されていると思います。特に品質の要となるオペレーターの採用では、面接やロールプレイングテストを行い、採用率は約3割と厳選しています。入社後も優秀な社員が研修に当たり、育成しています。東京の世田谷区と目黒区にオフィスがあるため、オペレーターは近隣の主婦の方が多く、大手企業での勤務経験者が多数います。言葉遣いや振る舞いが身に付いた方が多く、会社としても子育てをしながらでも働きやすいようにシフトに融通を利かせるなどして人材の質重視で運営してきました。
なぜお父様の会社を継ごうと思われたのですか。
上杉:もともと会社を継ぐ意思はなく、父も承知していました。大学を出てから日本航空と外資系証券会社のモルガン・スタンレーに合わせて約12年間勤めたのですが、父が65歳を迎えたころに、父に万が一何か起きてしまった場合どうするかを考えるようになりました。一人っ子でしたので、会社の状況を知っておいた方が良いと思ったんです。話を聞くと、質の高いコールセンターという軸足があり、顧客も食品や化粧品、人材業界の大手ばかり。魅力ある会社だとわかり、私自身も責任ある立場で仕事をする経験を積んでみたくなり、2013年に入社して2016年に父が会長に就き、私が社長を継ぎました。
父からの株式の承継と業務DX化への投資
のしかかる2つの課題でM&Aを検討
引き継いだ会社をいつ、どのような理由から譲渡を検討されたのでしょうか。
上杉:M&Aの検討を始めたのは2023年の初頭で、理由は2つあります。一つは会社の全株式を父から承継するのが難しかったことです。私が社長に就いた2016年ごろから業績が上向いて株価が上がったために、父から株式を譲り受ける際の贈与税が増えてしまいました。税金を支払える範囲で毎年50株ずつ私に移していましたが、全株移行するまでにあと30年はかかるという状況がありました。もう一つはコロナ禍で業績が足踏みするなか、業務DX化など必要な設備投資ができるだろうかという不安です。賃上げの風潮も広がってきて、約460名いる従業員にこの先、明るい展望を見せられるかを考えると、自前では難しいのではないかと感じました。これらの課題を解決する手段としてM&Aの検討を始めました。
M&Aをストライクにご相談されたのはどういうご縁からでしょうか。
上杉:社長をやっていると、M&A仲介各社からかなりの数の手紙が届きます。「御社に興味を持っている企業があります」という通り一遍の文面が多いなかで、ストライクの山野さんからの手紙は異色でした。譲受先の業種を示した具体的なプレゼン資料まで付いていたので、興味をひかれて2年前、山野さんにお会いしたことがありました。そのときのお話は結局見送ったのですが、私たちに寄り添った形での提案が記憶に残っていたので今回、私からご相談したいと連絡を入れました。ストライクさんと専属契約を結ぶ前に、ほかに3社のM&A仲介会社とも会いましたが、コールセンター業界やフロスト社の予備知識なく来られる方ばかりでした。山野さんのような「フロスト社って今、こうですよね」という具体性がないんです。山野さんなら真剣に取り組んでいただけると思いました。
譲渡先を探すにあたって希望された条件は何でしたか。
上杉:最も重視したのは社風の近さです。フロスト社はチームワークが良く、コツコツと地道に努力するワークスタイルです。体育会的な営業を進める会社とは合わないので、社風の近さは重要視しました。それに関連して、従業員が誇りを持てて安心して働けることでした。
「私たちがお役に立てること」と書かれたプレゼン資料
譲渡側に立った考え方に感銘を受ける
ストライクの山野氏と2023年3月に再会され、翌月にはWOWOWコミュニケーションズさんと面談されました。
上杉:山野さんが譲受候補としてリストアップされた約100社から絞り込んで4社と面談し、そのうちの1社がWOWOWコミュニケーションズさんでした。4月の初回面談では常務さんと小川さん、M&A担当のお二人が参加されたのですが、皆さん物腰が柔らかで、人柄と社風の良さを感じました。私の話を聞いてくださり、核心を突く質問もされました。4人それぞれが役割を持って準備され、チームとして臨まれている印象を受けました。特に感銘を受けたのがプレゼンの内容でした。フロスト社に対して私たちがお役に立てること、という数枚のスライドがあったんです。相手の立場に立って話してくださるスタンスが、お客様応対で培ったフロスト社の社風と一致すると思いました。
その場にいらした小川さんは上杉さんにどんな印象を持たれましたか。
小川:WOWOWコミュニケーションズとしてM&Aを検討するなかで、何社かの社長さんにお会いしてきました。多くの社長さんが「よければどうぞ」といったスタンスで臨まれるなかで、上杉さんにはまったく違う印象をもちました。腰が低く、柔らかな語りのなかに、事業や従業員に対する熱い思いを持たれている。お互いの目線を合わせてお話ができたことが良かったと思っています。
譲渡の決め手になったのは何ですか。
上杉:いよいよ譲渡先を決めるという段階で、WOWOWコミュニケーションズの山崎一郎社長に多忙な時間を割いて同席いただきました。決断を迫るような話しは一切されず、私の希望を親身に聞かれ、「それならば、こういうことができると思います」といった前向きな言葉をかけてくれました。そうした人柄や社風が決め手の一つです。もう一つは事業のシナジー(相乗効果)を感じたことです。同じコールセンター業務でも、私たちが携わってきた通販領域にはあまり進出されていませんでした。グループ入りしても存在感を発揮できる相手先であることも決め手となりました。
小川:WOWOWコミュニケーションズは衛星放送事業を行う株式会社WOWOWの顧客対応窓口から始まった会社です。1998年の分社化で、サブスクリプション型のビジネスモデルのノウハウやナレッジを活かして、外部のお客様のコンタクトセンターやデジタルマーケティング業務などを受託してきました。2025年までの中期経営計画に描いた事業戦略では、基盤とするコールセンター事業をより強固にすることを掲げています。通販事業のコールセンター業務に強みのあるフロスト社をぜひ仲間に迎え入れたいと考えました。
新社長が着任間もなく社員と個人面談
顔を合わせ、言葉を交わして不安を払拭
M&Aを進めていくうえで大変だったことは何でしょうか。
上杉:デューデリジェンス(買収監査)ですね。WOWOWコミュニケーションズさん側からいただいた財務や法務などに関する設問や提出資料の量が私の想定を上回っていました。それを1人で、約3週間で用意しなければならないスケジュールだったので、緊張感もかなりありました。
小川:できる範囲で結構ですと上杉さんには伝えていたのですが、中途半端なことはしないご性格なので、期限内にすべて回答されました。そこまで真摯にやっていただいたことに感動したくらいです。親会社に案件が否決される可能性もゼロではなかったので、これは何としても通すんだと、私たちの熱意が一層高まりました。
2023年8月1日に成約されました。従業員にはどのような形で伝えましたか。
上杉:8月1日13時に主だった社員約30名を集め、私と新社長となる小川さん、山崎社長から説明しました。WOWOWコミュニケーションズさんから同席の提案があったのですが、この場にお二人が参加されて本当に良かったです。新たなオーナーと社長の顔を見て会話を交わせたことで安心感を得たようです。参加した社員が各職場に戻って説明し、急速に社内が落ち着いてきました。そして、翌2日には小川さんが社長として着任され、早速社員との個人面談を始められたので、一切の混乱もなく移譲できました。
小川:社名も待遇・組織も変えず、フロスト社に入るのは私一人ですと皆さんにお伝えしました。私どももWOWOWという親会社をもつ子会社です。親と子の関係に不安を感じる気持ちはわかります。従業員の皆さんに安心していただくことが大事なので、時間を置かずに行動しようと思いました。
ストライクの担当者の印象、サービスについての感想を教えてください。
小川:山野さんに感じたのはスピード感と熱量です。ある程度ゴール時期を決めて、そこに向かってリードしてもらった結果、初回面談から約4カ月で成約できました。その間も譲渡、譲受両方を見ながらバランスよく対応していただいたと思っています。
上杉:山野さんの対応が素晴らしかったというお話は先ほどしましたが、もう少し付け加えてもいいですか(笑)。私が有難いなと感じたのは、深読みと先読みができることです。私が交渉の余地を広げたいと思って、あえてイエス・ノーを言わないことがありました。そのときに私の心の内を読んで、気持ちに則した形で相手先との調整を図ってくれました。言葉にしなくてもわかってくれたことが素晴らしいなと思いました。
M&Aアドバイザーより一言(山野 建・事業法人部 シニアアドバイザー談)
フロストインターナショナルコーポレーション様はブランディングを意識された非常に質の高いサービスを提供するコールセンター業務の企業様です。
上杉様はM&Aのご相談をいただいた当初から従業員の皆様のことを一番に考えられており、従業員が誇りを持って安心して働ける企業様を探してほしいとのご依頼から本案件はスタートしました。何社かお会いいただいた中で、そのご要望に一番に応えていただいた企業様がWOWOWコミュニケーションズ様でした。
両社の面談は、以前からのお知り合いであるような和やかな雰囲気で、既に信頼関係が構築されているような印象を受けました。
初回面談から成約に至るまで上杉様と二人三脚で対応できたことや、両社の求めるシナジーが一致した素晴らしいご縁は、私にとって「M&Aに信頼を」の言葉を感じることのできた意義の大きいM&Aとなりました。
会社を離れて転職活動中
事業承継の経験を次の仕事で活かしたい
上杉さんは10月末で社長を退任され、会社からも離れられたそうですね。
上杉:3カ月間の引き継ぎを終えて社長を退任することは私の希望でした。父も譲渡とともに会長職を退いて、親族は社内に誰もいません。譲渡後の会社の関わり方は人それぞれ考えがあると思いますが、私は新しい経営体制になったのだから、元いた人間が意思決定に関わるべきではないと思いました。
今後はどうされるのですか。
上杉:転職活動中です。今47歳ですが、この年齢で社長として事業承継を経験した人は少ないでしょうし、父から株式を受け継ぐ難しさや課題も体験しました。事業承継に悩む中小のオーナー企業に入って経営者の右腕として、これまでの経験を活かせる仕事ができたらと考えています。
新社長の小川さんには今後の事業展開を伺えますか。
小川:フロスト社の質の良いコールセンター機能に、WOWOWコミュニケーションズがもつデジタルマーケティングやデータ分析のナレッジを加味した新たなサービスを、クライアント企業に提案し始めているところです。お客様一人ひとりのインサイト(消費者の深層心理)を把握していかないと良いサービスが提供できない時代になったので、あらゆるチャネルで顧客接点を増やし、サービス向上を図りたいと思います。
M&Aを考える経営者に向けて経験からのアドバイスをお願いします。
上杉:M&Aに対して会社を手放すというネガティブなイメージをお持ちの方もいると思いますが、私は会社を発展させる選択肢の一つだと考えています。現にフロスト社は名前もそのままに、従業員も変わらず、新体制の中で発展していくわけです。経営者としては会社が発展する可能性に蓋をしないことが大事ではないでしょうか。情報収集する気持ちで、M&Aについても仲介会社の話をまず聞いてみてはいかがでしょうか。
本日はありがとうございました。
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