セミナーレポート
SEMINAR REPORT
「物流の2024年問題」はなぜ起きた? 緩和に必要なものとは?
ストライクセミナーで解説
ITやAIの導入による省力化が必要
辻氏は、日本の物流業界を取り巻く環境は極めて厳しく、事業者は生き残りをかけた対応に迫られているとの認識を示し、その原因の一つである少子高齢化と労働力の減少について、グラフや新聞報道などの資料を基に説明した。
さらに日本の産業構造が変化し、粗鋼生産量や、ガソリン、セメントなどの消費量減少に伴い、国内物流量が重量ベースで30年前に約70億トンだったのが現在は4割減の40億トンほどに落ち込んでいる現状を話した。
近年は取扱商品が重厚長大から軽薄短小、多品種、少量、短納期に変わってきているのに加え、eコマースの増加に伴って、取扱個数が急増し、年間50億個に達していることなどを踏まえ、「IT機器の活用やAI(人工知能)の導入などよる省力化を積極的に進める必要が出てきている」と述べた。
規制緩和による過当競争が原因
トラック業界の現状については、トラック輸送が重量ベースで、日本の国内輸送の9割を超え、鉄道や船、飛行機などによる輸送にもトラックが関わっており、トラックは暮らしと経済を支えるライフラインであると強調。
そのうえで、ドライバーの確保が何よりも重要な課題となっているにもかわらず、消費者にお得感を持たせるため、送料無料といったドライバーの神経を逆なでするようなキャッチフレーズを販売促進に使うケースも見受けられるとし、「こうした荷主は誠に残念なことであり、せめて運賃込みとか、運賃は当社負担にすべきだ」と持論を展開した。
こうした事態になっているのは、30年前にトラックの最低保有台数を5台、運賃を届け出制とする規制緩和が実施されたことにさかのぼると説明。
その結果として、事業者数は4万2000社から5割増の6万3000社に増え、過当競争に陥ったため、トラック事業者の営業力が弱まり、荷主の意向に従わざるを得ない状況になったと分析。
さらに下請けや孫請けといった多層構造も、運賃をはじめ輸送条件などについての交渉力を弱め、これがトラックドライバーの長時間勤務や低賃金をもたらしているとした。
生産、出荷の見直し、共同輸送の推進などを
2024年4月に時間外労働の上限960時間という規制が適用された、いわゆる「2024年問題」では、トラック事業者が時間外労働の上限規制に対応できなければ、トラックの輸送量が大幅に減少する可能性が指摘されているとし、こうした事態を避けるには、トラック事業者は仕事のやり方を根本的に見直し、DX(デジタルトランスフォメーション)やAIの導入などによって生産性を上げ、労働時間を短縮することが必要とした。
そのうえで、荷主には荷物を運んでもらえないという問題が生じることになるため、生産、出荷などの見直しによる全体最適化を目指すサプライチェーンの構築や、共同輸送の推進などを求めた。
荷主とトラック輸送事業者は、上下の関係ではなく、相互信頼に基づく運命共同体のようなパートナーシップを築くべきとするとともに、一部の産業や企業に負担を強いるのではなく、消費者も含め社会全体が負担を共有すべきであるともした。
M&Aは事前の相乗効果の見極めが重要
最近のトラック輸送業界の動きとして、M&Aを手段とする業界再編の動きを取り上げた。流れに遅れないようにという雰囲気を感じるとしたうえで、失敗例が多いのも事実であると指摘。
M&Aは事前に相乗効果をよく見極めることと、買収後にどのようにして事業を軌道に乗せるかが重要とし、自社の持つ経営資源や人、物、金を見極め、M&Aの意義と目的を十分に考え、軌道に乗せる基盤作りが重要との考えを示した。
さらにM&Aの仲介事業者については「玉石混交のため、信頼のできる仲介事業者を見極め、選択する必要がある」と述べ、締めくくった。
文:M&A Online記者 松本亮一
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