INTERVIEW

「従業員の豊かな生活を実現したい」
買収した15社すべてが好調、若き社長が語るPMIの成功要因とは?

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松丸喜樹氏

エスオーユーホールディングス株式会社/株式会社博全社 代表取締役 松丸 喜樹 氏

エスオーユーグループは、事業会社20社から構成されており、「葬祭及び葬祭関連事業」「介護事業」「人材サービス事業」を中心に展開している。主力の葬祭事業は、大正4年創業で100年以上の業歴を持つ博全社が中核で千葉県最大規模を誇る。多くの企業を買収し、そのすべての会社が黒字であるという同社グループの松丸社長に、同社のM&Aに対する考えやPMIの秘訣を伺った。

厳しい市場環境を生き残るには、変化に対応・挑戦しなければならない
多様性を得るため、他業種とのM&Aにも積極的に取り組む

エスオーユーホールディングスの概要を教えてください。

当社グループは、今年で104期目を迎えます。グループの中核である株式会社博全社、その前身である株式会社亥鼻葬儀社は大正4年の創業です。私の父である先代社長が25歳だった1964年に葬儀会社を立ち上げ、その後、父が当時の博全社の社長に乞われて会社を引き継いだのが1966年。3年後に祖父が代表取締役となり、さらに11年後、父が継承しました。その父が2008年に急逝し、私が松丸家でいうと3代目として継ぎました。

当社グループは、今(2019年3月末日現在)は9事業、合計20社で構成されています(右ページ表参照)。祖業の葬祭関連事業を中心にしながら、M&Aを通じて15社とご一緒にならせていただき、共に成長しています。お陰様で各社の業績は好調に推移しています。

M&Aによる買収に取り組まれた背景は何だったのでしょうか。

松丸喜樹氏
「変化に対応できる会社にしたい、ナンバーワンではなくオンリーワンの会社にしたい」が持論。「堅い大木も嵐で折れることがあります。他業種の良い部分を取り込んで学べば会社の地力や独自性が強化され、しなやかさも増すでしょう。逆を言えば、変化に挑戦しないことこそが、企業継続を考えるうえで最大のリスクだと思うのです」

いくつかの背景があってM&Aに取り組みました。

1つは経営課題をどう解決し、会社を生き残らせるかという危機感からでした。昨今は人口の高齢化が進んでいて、亡くなる方が増えています。一見すると葬儀関連事業の市場環境はよく見えるかもしれませんが、実態としては喜べないことが多々あります。

例えば一件当たりの葬儀の費用の下落。一昔前の葬儀と言えば、通夜と葬儀・告別式がセットになった画一的なものでした。しかし、今は消費者の価値観が多様化し、家族葬や一日葬といった簡易型葬儀が増え、葬儀の規模が小さくなっています。新規事業者の参入や葬儀式場の増加など、競争環境も厳しくなりました。また、葬儀というのは24時間365日休みがありません。労働条件が厳しく、人材確保は深刻な問題です。こうした市場環境の変化、先行きの不透明感があり、それを打開するためM&Aを検討するようになりました。

2つ目は、自社の歴史を振り返ったことです。2015年に当社は100周年を迎え、その記念事業として社史を編纂することになりました。そこでふと、「なぜ、うちの会社は100年も続いているのか?」という疑問が浮かびました。編纂の過程で公文書や当時の新聞といった資料を紐解いていくと、当社がその時々の変化に対応してきたことがわかりました。

先述した通り、父が葬儀会社を立ち上げ、その後にご縁があって歴史のある博全社を譲り受けました。霊園を運営する宗教法人を引き受けたこともあります。「誰もがきちんとお別れができるように」という相互扶助の考えのもと、1974年から互助会事業に参入し、葬儀だけでなく結婚式事業を手掛けていた時期もありました。その後、少子化時代となって結婚式事業は厳しくなり、撤退しています。

事業
カテゴリー
会社名 M&A
葬祭事業
および
関連事業
(10社)
エスオーユーホールディングス㈱ -
㈱博全社 -
㈱アスカ -
ファミリード㈱ -
㈲博愛社 M&A
ジャパン メモリアル コーポレーション(ハワイ州ホノルル市) M&A
㈱河邑 M&A
㈱フィオーレ花壇 M&A
㈱セレント M&A
㈱千葉民間救急サービス M&A
介護事業
(3社)
㈱アルテディア M&A
㈱さくらの杜 M&A
ホリーサービス(カリフォルニア州ロサンゼルス市) M&A
人材サービス事業 ㈱ネオネット M&A
旅行事業 ㈱ワールドクリエーション M&A
イベント設営運営事業 ㈱ジェイレンタル M&A
建築・リフォーム事業 ㈱東建ホームズ M&A
不動産事業
宿泊施設企画運営事業
㈱イーストリビング M&A
フランチャイジー事業 ㈲信和コーポレーション M&A
保険事業 エスオーユーインシュアランス(ハワイ州ホノルル市) -
松丸喜樹氏とストライク小山
「働く人の気持ちが一番大切なので、M&Aで同じグループになった人たちにも『絶対に皆さんを豊かにして幸せにしたい。ぜひ私についてきてほしい』という熱意、思いのたけを自ら伝えるようにしています」と話す松丸氏。(写真左はストライクの担当の小山)

そうして今日に至るまでの自社の成り立ちを振り返りますと、環境の変化に応じて自社の在り方を常に変化させ、ご縁を大事にしながら一緒に成長してきたことが見えてきました。そこで、経営課題を解決する上でM&Aの検討を考え始めたのです。

3つ目は、私の持論として、変化に対応できる会社にしたい。ナンバーワンではなくオンリーワンの会社にしたい、という想いです。

M&Aでご一緒させていただく会社は、葬儀業関係だけではありません。最初に譲り受けたのは飲食フランチャイズ(FC)に加盟する外食事業でした。その後も人材派遣事業、千葉県に地盤のない介護事業、海外の介護事業や仏事関連事業、旅行事業など各社とご一緒させていただいています。社内からも、どうしてその事業を譲り受けるのかと訝しがる声も上がりました。

私の考えるシナジー(相乗効果)の幅が広いのかもしれませんが、FCビジネスの品質管理やオペレーションのノウハウ、人材不足を解決するための派遣業のノウハウ、介護施設との連携など、将来的に葬儀業の市場環境がもっと悪くなったときに、多様性を得るための取り組みが大切ではないかと考えています。堅い大木も嵐で折れることがあります。他業種の良い部分を取り込んで学べば会社の地力や独自性が強化され、しなやかさも増すでしょう。逆を言えば、変化に挑戦しないことこそが、企業継続を考えるうえで最大のリスクだと思うのです。

企業文化の同化を押し付けるのではなく
時機を見てトップ自ら
経営に対する考え方や価値観を明確に伝える

多くの企業がグループに入っています。異業種も多いようです。PMI(*)をどのように図っているのか教えてください。

前提として、私の経営目的は「従業員の豊かな生活の実現」です。会社は誰のために経営するのか?当社では、最初に従業員、2番目にお取引先、3番目にお客様、4番目に地域社会、そして最後が株主と定義しています。

葬儀のサービスは、従業員を介してしか提供できません。従業員が会社を信用し、安心できなければ、お客様に良いサービスは提供できないのです。当社を支えていただくお取引先も同様で、お客様に良いサービスを提供するうえで共存共栄の関係です。従業員やお取引先に当社を好きになってもらえるからこそ、お客様にご満足いただけるのです。そして、お客様に信頼いただけた結果として地域社会に貢献でき、最終的に株主に還元できる。当社では、この順番が大事です。

私たちはそういう想いで経営していますが、もちろん一方的に企業文化の同化を押し付けることはありません。ただ最近、ある程度の期間が経ったら、どこかで腹を決めて自分たちの経営に対する考え方や価値観を伝える必要があるのではないかと思うようになりました。

これまでの経験から、M&Aで同じグループになった後にすぐ辞める人はあまりいません。でも、一緒になってから1~2年が経った頃に、グループの価値観と合わずにお辞めになる方が一定の割合でいます。グループ内のある会社がそのような雰囲気になっていたので、明確に私たちの価値観を伝え、それに共感できるか真剣に検討してもらおうと思いました。価値観を伝えることはトップにしかできません。「私たちはこんな想いで事業をしていて、今後このような会社にしていきたい。絶対に皆さんを豊かにして幸せにしたい。ぜひ私についてきてほしい」と熱意を込め、思いのたけを伝えました。すると、彼らの顔つきが変わったのです。「社長、頑張りましょう!」とも言ってくれました。そこから一気に雰囲気が変わり、その後、同社の利益率は一気に4倍に増えました。中小企業って、泥臭いですがそういうことも必要だと思います。

* PMI とは:Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略。当初計画したM&A後の統合効果を最大化するための統合プロセスを指す。


エスオーユーグループにおいてM&A後の統合で意識されていること
エスオーユーグループにおいてM&A後の統合で意識されていること

あとは単純に、社員旅行や忘年会などグループの従業員同士が交流できるイベントをいろいろな形で開催しています。私はいつも口癖のように「葬儀の仕事では、棺は1人で持てない」と言っているのですが、棺って必ず二人で持ちますよね。前後の二人が歩調を合わせなければ、バランスが取れずに正しく進めません。葬儀はチームで運営しますから、チームワークが何よりも大事です。一方で葬儀業は24時間365日の仕事で、常に人員をローテーションさせながら稼働しているので、従業員同士が顔を合わせるタイミングが作りづらいのです。何もしなければコミュニケーションがどんどん減ってしまいます。チームワークを育むうえで社員旅行が最適なのかわかりませんが、旅行先では必ず、異なる部署が協力し合うようなウォークラリー大会を開催し、宴会で表彰しています。忘年会も座席をシャッフルして、同じ部署で固まらないように工夫しています。何とかグループ内の従業員同士の交流が深められないか考え、地道に繰り返していくと、次第にコミュニケーションが増えていると実感します。

ただ、交流を深めることによって、不平・不満も出てきます。あっちの会社はうちより待遇が良い、といった差も気にされます。交流を深めなければマイナスの意見が出るリスクも防げるかもしれませんが、そこで議論が生まれることによって、表面的なだけではない一体感が生まれてくるのだと思います。当社ではたまたまうまくいっているだけかもしれませんので、絶対にこうしたほうが良いというのはないでしょう。

M&Aにはリスクを伴うが、やらない機会損失もリスク
現状維持は衰退につながり、一歩進んでみることが成長につながる

主に買収を検討される経営者の方々へアドバイスをいただけますか?

M&Aでさまざまな会社とご一緒させていただいて、たまたま成長戦略と課題解決につながっていますが、すべてが順調というわけではありません。いろいろ試してもうまく業績につながらないケースもありますし、一緒になった後に人が辞めてしまうこともあります。

ただ、ゼロに何を掛けてもゼロにしかなりませんよね。M&Aにはリスクはありますが、やらないことの機会損失もリスクです。対処できる範囲でのリスクならば、一歩進んでみることが大事ではないでしょうか。市場環境が不透明な中、現状維持は衰退につながります。

ゼロだと何も学べません。仮にうまくいかずにマイナスになったとしても、そこから確実に学び、何かしら次につながるきっかけがつかめれば、すごい経験値がプラスされます。その経験の積み重ねが、会社を成長させることなのだと思います。M&Aに限らず、会社経営とはそういうものですよね。

本日はありがとうございました。

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