INTERVIEW

仙台のプロバスケチームが
新トップリーグ「B.プレミア」参入を目指し
事業力強化を図るM&Aを実行

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株式会社仙台89ERS 代表取締役社長 志村 雄彦 氏

株式会社仙台89ERS 代表取締役社長 志村 雄彦 氏

2023年11月10日、プロバスケットボール・Bリーグ「仙台89ERS」の運営会社である株式会社仙台89ERSと、東京の不動産コンサルティング会社・霞ヶ関キャピタル株式会社のM&Aが発表された。物流施設事業や自然エネルギー事業、ホテル事業などを手掛ける霞ヶ関キャピタルは同クラブの新オーナーとなり、新トップリーグ参入や地域社会貢献活動などを支援していくという。仙台89ERS代表取締役社長の志村雄彦氏にM&Aの背景や経緯、今後の展望についてお話を伺った。

株式会社仙台89ERS
ご成約インタビュー動画

キーワードは「Bプレミア」と「仙台」
クラブの支援を通して
一緒に仙台を盛り上げてくれるお相手を望んだ

クラブの沿革を教えてください。

仙台89ERSは2005年の「bjリーグ(日本プロバスケットボールリーグ)」発足とともに創設されたクラブです。その後、新たに発足したトップリーグ「Bリーグ」の初年度(2016-17シーズン)をB1で迎え、一時はB2へ降格していましたが、2022-23シーズンよりB1に復帰しています。
創設時から仙台の皆さんとともに歩んできた“みんなのナイナーズ”で、地域でのスポーツ振興活動「NINERS HOOP」にも取り組んでいます。

M&Aの検討を始めたのはいつ頃ですか?

仙台89ERSの試合が行われる「ゼビオアリーナ仙台」。
仙台89ERSの試合が行われる「ゼビオアリーナ仙台」。

Bリーグの新構想が2019年に発表された後です。Bプレミア(新B1リーグ)参入の3つの基準「売上高12億円」「観客数12万人(1試合あたり4000人)」「新基準のアリーナ」は仙台89ERSにとって非常に高いハードルであり、この仙台の街にB.プレミアのチームを残すには資金の増強、組織の強化をサポートしてくれる新たなパートナーが必要だと判断し、M&Aに着手しました。
ただ、1~2年の間はなかなか話が進みませんでした。当時B2リーグにいたこと、またコロナ禍で無観客や入場者数制限の試合が続いたことで、我々の“現在地”を明確に示すのが難しかったからです。今回のBリーグの改革は単にチームが強くなればいいわけではなく、観客動員を含め事業の成長を求められているため、Bプレミア参入までの事業成長の道のりを、まず我々自身が明確に描く時間が必要でした。

ストライクにはどのような経緯でご相談を?

いろいろな仲介会社さんのお話を聞き、Bリーグ機構の方とも相談する中で、Bリーグでの実績があるストライクさんにサポートをお願いしようと決めました。
B.プレミアは2026年にスタートしますが、今シーズン(2023-24シーズン)が審査の最終年度になるため、先述の3つの基準をクリアするためどのような時間軸で動いていくのか、ストライクさんによくご相談しました。審査に向けて、時間は非常に重要な要素でした。また、89ERSは仙台、宮城の皆さんと一緒に育ててきたクラブなので、仙台にフランチャイズを残していくことが大前提であり、仙台の発展につながるM&Aにしたいという意思もストライクさんに伝えました。
実際のところ、スポーツチームのオーナーになろうとする企業がそうそうあるわけではないため、候補先を探すのはとても大変だったと思いますが、ストライクさんは「仙台にゆかりがある」という点を意識しながら幅広く探してくれました。

霞ヶ関キャピタル様をお相手に選ばれた理由をお聞かせください。

仙台89ERSでは2008年から10年間、選手として活躍した志村氏。2018年の引退後は取締役GMに就任。2020年7月より代表取締役社長を務める。
©︎SENDAI 89ERS
仙台89ERSでは2008年から10年間、選手として活躍した志村氏。
2018年の引退後は取締役GMに就任。
2020年7月より代表取締役社長を務める。

祖業の地である仙台に恩返ししたい・貢献したいという強い思いがあること。早い段階で執行役員の方と直接お会いできるなど、スピーディに進みそうだったこと。Bリーグやクラブの将来性をきちんと評価したうえで、我々がこれまでやってきたことをリスペクトして、現体制のまま運営を続けてほしいと言っていただけたことも大きかったです。
スポーツクラブに投資することの意味を理解してくださっている点も重要でした。収益性の高い事業ではないため、クラブの社会的存在価値を理解し、スポンサーや株主の皆さん、地域の皆さん、ファンの皆さん――非常に多くのステークホルダーを大切にしてくださる方でないと、長く一緒にはやっていけません。河本(幸士郎)社長との初回面談は集客や地域活動の具体的なアイデアも飛び出し、1時間の予定が何時間も話し込みました。最初から意気投合して、「この方となら仙台を一緒に盛り上げていける!」と感じました。

クラブの知名度、宣伝効果を生かし
新オーナーの事業&仙台の経済の発展に寄与したい

成約までに大変だったことはありますか?

株式会社仙台89ERS 代表取締役社長 清村浩一氏
今回お話を伺った仙台89ERS 代表取締役社長 志村雄彦氏。

約50人の株主の皆さんのご理解をいただくことです。仙台89ERSのような市民球団は増資のたびに株主が増え、株主構成が複雑になりがちです。新たな経営体制を模索していることは伝えていましたし、2022年の増資の際、M&Aに向けて合意形成が得やすいような株主構成にしていましたが、お相手が決まってからでないと具体的な話ができないので、短期間に一人ひとりにお会いしてご理解をいただくのは、やはり大変でした。

選手の皆さんにはいつ伝えましたか?

成約2日前の試合日に伝えました。選手にとっては「クラブがB.プレミアに近づいた」という認識が大きいと思います。選手には移籍という選択肢があるけれど、僕はできれば仙台89ERSにロイヤリティを感じてプレーしてもらいたいので、本件によってB.プレミアに近づいたことや中期契約を結びやすくなったことは非常に重要だと考えています。

成約したときのお気持ちをお聞かせください。

まだ見たことのない景色を、仙台89ERSに関わってくださる皆さんとこれから見るのだと思うとワクワクしました。一方で、先人が積み上げてきたものを大切にしなければいけない、事業を大きくするからこそしっかり足元を見据えることが僕の役割だとも思いました。
成約翌日の試合に勝てたときは本当にうれしかったですね。霞ヶ関キャピタルさんがゲームスポンサーだったため、河本社長が試合の前にコートに立ちセレモニーを行ったのですが、5000人を超える観客から大きな拍手があって……。「新しい希望へ向けての想いだ」と感じて感無量でした。その後、仙台の皆さんに各所で「前向きな決断だったね」「B.プレミア頑張って」「また黄援*するね」と声をかけていただいています。
*仙台89ERSでは、チームカラーの黄色にちなんで「応援=黄援」と表現しています。

河本さんは今回のM&Aの目的について「企業価値向上」と話しておられます。

写真左はストライク担当の大西、右は鈴木。
写真左はストライク担当の大西、右は鈴木。

今後、仙台でホテルなどBtoCの事業を展開されるにあたって、仙台での知名度、信用度は必ず上がるはずです。仙台89ERSを黄援してくれるたくさんの方が霞ヶ関キャピタルさんも応援してくれるからです。スポーツコンテンツは効果の高いマーケティング手法で、特に我々は地域に根差したクラブなので、その特性を存分に生かして同社の事業に、ひいては仙台の経済の発展に寄与したいです。
ストライクさんには時間的余裕もない中、黒子に徹して泥臭い交渉もしていただき、本当に感謝しています。チームスポンサーにもなっていただいたので、ここからまた新たなお付き合いが始まると思っています。

今回のM&Aを成功させ
投資対象としてのクラブの魅力を周知し
バスケ界を盛り上げたい

今シーズンの展望をお聞かせください。

チームは30勝(勝率5割)を目標に、昨シーズンより勝ちを積み重ねています。資金があれば即勝てるものではないので、日本一を目指せるチームの土台を地道に築いているところです。
B.プレミア審査に向けて売上は順調、アリーナの改修計画も進んでいます。残る課題は入場者数です。12万人の基準を達成するためにイベント、ターゲットを絞ったマーケティングなど様々な施策を実施して、集客を図っているところです。

やはり集客がカギになりますか?

今回のM&Aにより、中期・長期的な目線で事業展開を図れる体制になったと話す志村氏。
今回のM&Aにより、中期・長期的な目線で事業展開を図れる体制になったと話す志村氏。

はい。“一丁目一番地”は人が来ること。人が集まればスポンサーも集まります。昨シーズンまでは、今週末の集客についていつも頭を悩ませているような状況で、集客のアイデアがあっても実行する余力が資金的にも人材的にもありませんでした。今回のM&Aで“目の前のことをやりこなすのに必死”というフェーズを脱し、中期的、さらには長期的な目線で事業展開を図れる体制になりましたので、プロモーション活動に先行投資をし、しっかり回収できる事業サイクルを生み出したいです。
仙台89ERSがM&Aのモデルケースとして成功することも重要だと考えています。Bリーグのクラブが投資対象として魅力があることを周知できれば、バスケ界を盛り上げることにつながるからです。B.プレミア参入、さらには日本一を達成して、「あのとき話したことを実現したね」と今回のM&Aを振り返ることができるように明るい未来をつくっていきたいです。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(鈴木 芳憲・総合企画室 室長談)

ストライク鈴木

地元企業や市民の応援に支えられてBリーグで戦ってきた仙台89ERSは、BリーグによるB.プレミア構想発表を受け、その高い要件を満たして参入を果たすことを目指し、資本力と経営力があるパートナーとM&Aすることを決断されました。

実際に候補企業を探索すると、東北随一の大都市である仙台に本拠地を構え、まだまだ成長余力のある歴史あるチームということで、複数の企業が関心を示してくださいました。Bプレミア参入を一緒に目指してくれる会社、これまで応援してくれたスポンサーやファンを大事にしてくれる会社、そしてプロスポーツチーム経営という多くの企業にとって未知の領域へチャレンジしてくれる会社という観点で、候補企業と交渉を進めました。

結果として、宮城県にゆかりがあり、B.プレミア参入を含めてチーム経営にコミットしてくれる霞ヶ関キャピタル様との提携が実現しました。スポンサーやファンの皆さんも非常に前向きに受け取ってくださり、次のステージを目指すチームにとって明るい船出になったと思います。

本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。