物流業・運送業のM&Aについて
他の産業と同様に、物流業・運送業も後継者問題は喫緊の課題です。さらに労働力の担い手であるトラック運転手の高齢化も問題となっています。
トラック運送業の99.9%が中小企業です。このような企業にとっては、豊富な資金と労働力に恵まれた大手物流会社の傘下に入る、あるいは経営統合することで、後継者問題を解決することができます。
一国一城の主という立場から大手の傘下に入るという決断は難しいものがあるでしょう。しかし、未来に視点を移すと、これから先は単に「荷物を運ぶだけ」では経営が立ち行かなくなるのもまた事実です。
なぜ物流・運送業のM&Aが活発なのか
M&Aは、大企業だけが対象ではありません。中小企業から零細企業まで、どのような事業規模であっても経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報を有効活用し、また企業のさまざまな課題を解決する突破口となり得ます。
運送業はM&Aが活発な業界のひとつです。特に近年は外部環境の変化からM&Aの需要が増えています。
3「DX化への対応」
コロナ禍でわが国のDX化が諸外国に比べて遅れていることが浮き彫りになりました。IT導入による生産性向上のため、国土交通省を中心に物流DXを推進していますが、DXを加速させるためには中小事業者による取り組みも不可欠です。しかし、資金力はもちろんのこと、社内でIT導入に対応できる人材がいないことも課題となっています。リソースやノウハウ獲得のため、M&Aに踏み切る運送会社も増えています。
4「燃料価格の高騰」
事業用トラックの大半はディーゼル車で、軽油を燃料としています。燃料費は人件費や減価償却費(または支払リース料)に次いで高く、総コストの12.0%を占めています。燃料価格の変動を運賃に転嫁できるとよいのですが、下請け業者が多い運送会社では荷主に対する交渉力が弱く、採算の合わない運賃のまま配送を続ける事業者も少なくありません。
大手の傘下に入ることで、輸送の効率化や価格交渉の立場を強くする、経費削減などのメリットがあります。またM&Aで拠点の拡大や、失注を防ぐ効果も期待されます。
M&Aのメリット・デメリット
M&Aは当然ながら売り手も買い手もリスクは存在します。第三者へ承継した場合のメリット・デメリットをまとめました。
売り手にとってのメリット
- 社名を残すことができる
- 従業員の雇用が守れる
- 取引先との関係が維持できる(あるいは見直すことができる)
- 創業者利潤の獲得で老後の資産形成ができる
- 債務超過の解消
- 連帯保証から外れることで精神的負担から解放される など
売り手にとってのデメリット
- 社名がなくなる場合がある(新会社名になるなど)
- 仕事への情熱、人生の目標を失う場合もある
- 大金を得たことによる人間関係の変化 など
買い手にとってのメリット
- 人材(ドライバー)の確保
- 車両(トラック)の確保
- 新規受注や販路拡大による売上高の増加
- 運賃交渉力や採用力の向上
- 経費削減 など
買い手にとってのデメリット
- 簿外債務のリスク
- 相乗効果が出ない、業績に貢献しない(高値掴みした)など
慣れない交渉やM&Aの交渉が取りやめとなった場合など、心理的ダメージや精神的なストレスがかかる場合もあります。
ですが、M&Aの交渉はひとりではありません。私たちM&Aアドバイザーが最後までサポートします。気になることがありましたら、どんな小さなことでもご相談ください。
物流業・運送業の評価手法について
世界に“たったひとつ”しか存在しない会社の価値を算出することは、とても難しい作業です。しかし経営者にとっては、M&Aの交渉テーブルに着く前に、「自分の会社はいくらの価値があるのだろうか」と思うのではないでしょうか。
企業評価の測定方法には、市場価格(相場)に着目する「マーケットアプローチ」、稼ぐ力を重視する「インカムアプローチ」、会社が持つ資産(純資産)を基準にした「コストアプローチ」の3つの考え方があります。そして、評価手法の選択は、事業の特性や成長ステージ、その他企業の取り巻く環境などを含めて総合的に判断します。
しかし、算出された企業価値が正確に実力を反映したとしても、その価額で売却できるか(M&Aの取引が成立するか)はまた別の話です。(なお、相続のために算出される相続税評価額は、M&Aの評価とは別物であると思ってください。)
たとえば、M&Aを実行すれば今すぐ儲かることがわかっている場合、のれんは高くなる傾向にあります。他にも多くの企業が欲しいと手を上げる案件では、入札形式(オークション、コンペ)になりますから、心理的要因から譲渡価額が吊り上がる場合もあります。つまり、「売りたい」「買いたい」の交点が譲渡価額となるため、企業価値とはイコールではないということです。
それでも事前に企業価値の算定を行うことには意味があります。M&Aの交渉材料として企業評価は不可欠なプロセスです。不当に自社を低く見積もられたら見破ることができますし、第三者による客観的な評価で自社の価値を知ることができるのは、経営者にとって大きなメリットでしょう。
M&Aの評価で使用されるEV/EBITDA倍率とは、買収した場合に何年で元が取れるか(買収費用を回収できるか)を表す指標です。業種によって違いはありますが、一般的にEV/EBITDA倍率は4~8倍が妥当であるといわれています。
ちなみに、トラック業界(上場企業22社の直近年度、2023/6/16時点)の企業価値/EBITDA倍率は2.2倍(ケイヒン)~18.5倍(AZ-COM丸和ホールディングス)で、平均値が5.7倍、中央値が4.4倍となっています。
トラック業界の直近年度の企業価値/EBITDA(倍)
|
(倍) |
平均値 |
5.7 |
中央値 |
4.4 |
最小値 |
2.2 |
最大値 |
18.5 |
SPEEDA トラック(企業物流)業界より 2023/6/16抽出
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物流業・運送業のM&A相場はいくらか
気になる運送会社のM&A相場ですが、おおよそ「時価純資産+営業利益の数年分」が一般的だといわれています。これを「時価純資産+営業権法」と言い、決算書の貸借対照表の資産と負債の差額である純資産にのれん代(営業権)をプラスする方法です。
決算書に記載している純資産では、節税効果や買った当時の資産をそのまま載せているなど、事業の実態が見えにくくなっています。そのため、時価の純資産に修正した時価純資産を使用します。
会社をまるごと売却する株式譲渡の場合
この「営業利益の数年分」とは、「のれん代(営業権)」となる持続年数のことです(厳密ではありませんが、ざっくりと理解いただければと思います)。
運送事業のみを売却する場合は、「運送事業の資産+運送事業の営業利益の数年分」が目安となります。この場合の事業資産とは、主に保有トラックや倉庫などを指します。
運送事業のみを売却する事業譲渡の場合
ところで、大企業のM&Aと違い、中小企業のM&Aは前提として取引金額を非公開としています。このため情報がなかなか表に出てきません。実際のところ、いくらで売買されているのか取引相場が知りたい方は、物流業・運送業のM&A実績が豊富な仲介会社やアドバイザーに聞いてみるとよいでしょう。
運送業のM&Aスキーム
事業承継には、子供や身内に引き継ぐ「親族内承継」、従業員に引き継ぐ「親族外(社内)承継」、そして第三者に引き継いでもらう「M&A(第三者承継)」の3つのパターンがあります。
M&A(第三者承継)を選択した場合、主に以下のスキームがあります。
このうち、運送業で実施されるM&Aの大半は「株式譲渡」または「事業譲渡」となります。
スキーム |
内容 |
メリット |
デメリット |
株式譲渡 |
会社をまるごと売却 |
外部から見ると大きな変更がない。事務手続きが少ない |
潜在的な債務も引き継ぐ |
事業譲渡 |
運送事業を売却 |
必要な事業のみ買収できる。潜在的な債務を切り離せる |
関係者の同意が必要となるなど、契約上の手続きが煩雑 |
運送業のM&Aはここに注意!
運送会社のM&Aは、同じ業界内ならば 「やりやすいのではないか」 と感じるかもしれません。そのため、仲介手数料を省くために、元請けと下請けが直接取引をしたり、取引先の紹介で直接M&Aを進めることがあると聞きます。
しかし、運送業のM&Aはそう簡単ではありません。
たとえば、M&Aの交渉を進める過程で「何か隠していないか」「瑕疵はないか」などを買い手側が調べる「買収監査(デューデリジェンス)」がありますが、運送会社の場合、労務管理でひっかかることが多く、最悪の場合は破談に至ることもあります(そうでなくても評価が下がることも)。
トラック運転手とのやり取りは「口約束」で、書面で契約を交わさないケースも多くありますし、社会保険に未加入の償却ドライバーが存在する可能性もあります。また未払い残業代のリスクもあるでしょう。
保有トラックひとつにとっても、走行距離や燃費、開閉がトラックウイングなのか、またトラックの大きさは、メーカーは…など、買い手によってこだわる点はさまざまです。
これらの問題は物流・運送業のM&Aに詳しい専門家であれば、想定されるリスクを把握しているため、交渉を進める前にアドバイスをしてくれます。当事者間でM&Aを行うか悩んでいる方も、一度は専門家にご相談ください。
M&Aを検討したい方へのアドバイス
「物流は経済の血液」ともいわれています。モーダルシフトが提唱されていますが、結局のところ“人”がエンドユーザーに荷物を届ける構図はまだしばらく続くでしょう。
コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻で国際物流を取り巻く環境が大きく変化し、大手企業による再編が相次いでいます。一方で、国内物流では「ラストワンマイル」を押さえることで商流までも押さえようという動きが出ています。アマゾンジャパンは2022年12月、街の飲食店や花卉(かき)店などの中小店舗と連携した新たな宅配網を展開すると発表しました。アマゾンは物流を制することでEC市場を制した企業として知られています。アマゾンジャパンのニュースはその象徴ともいえそうです。
M&Aの対策は早めに、そして平常時に行うことがM&Aを円滑に進める上で非常に重要です。なぜなら業界再編がひと段落すると、収益力は同じであっても買収金額として上乗せするのれんが減少する傾向にあるからです。
「物流・運送業は今が売り時でもあり、買い時でもある」
無料相談をしたからといって強引に案件を進めることはありません。M&Aは、売り手と買い手の双方が納得してはじめて案件が成立します。無理強いは厳禁で、信頼関係の構築が最も重要であることをアドバイザーは心得ています。
弊社では物流・運送業のM&Aに詳しいアドバイザーが対応しますので、まずはお気軽にご相談ください。