医療業界のM&Aについて
病院や診療所の多くが事業承継を検討する時期に差し掛かっており、M&Aによる医業承継が活発化しています。
ところが、※日本医師会が2019年に行った調査によると、「医業承継に関する窓口や担当部門の設置または担当者の配置のない都道府県医師会では、医業承継に関する支援や実態把握がほとんどされていない」ことが明らかになりました。
※出典元URL:https://www.jmari.med.or.jp/download/RE079.pdf
なぜ医療法人のM&Aが活発なのか
医療法人や病院のM&Aが増えている理由には、「事業承継」 「経営の安定化」 「設備や施設の老朽化」 「政策的背景」など、さまざまです。
理由
2「経営の安定化」を目的とした医療法人による合併や買収
後継者不在を理由とする事業承継を目的としたM&Aのほかに、経営の安定化を目的とした医療法人による合併や買収も増えています。
医療法人は制度が比較的新しいこともあり、いわゆる老舗やガリバーが存在しません。M&Aで勢力を拡大している徳洲会グループは全国で71の病院を運営している一大グループですが、それでも業界シェアのわずか数%程度といわれています。業界シェア獲得のため、業界シェア上位の医療法人グループが買収を活発化している動きがあります。
理由
3「建物や設備の老朽化」の資金調達として
国内にある病院の多くが、病床数を規制する1985年の医療法改正以前に建てられました。築40年以上が経過し、施設の建て替え需要が高まっています。こうした資金繰りにあえぐ医療機関に対し、ファンドが買い取る事例が増えています。
理由
4「地域医療の維持」と「医療提供体制の再構築」のため
厚生労働省は「地域医療構想」として2025年に向けて病床を4つの機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)に分化・連携を進めることで資源の効率的な配分を行い、患者が孤立せず安心して良質な医療サービスを受けられるよう、医療提供体制の再構築に取り組んでいます。
少子高齢化で高齢者を支える医療や介護に携わる人の数が減少するため、いち早く資源を効果的に、かつ効率的な配置を促すことが社会で求められているのです。
そのほか、水面下では地方財政が厳しいことから公立病院を民間に売却する動きも広がっています。厚生労働省は表立ってM&Aを推進していませんが、実情は規模の大小を問わず、生き残りをかけた再編が行われています。
医療法人M&Aのメリット・デメリット
身内への承継ではなく、第三者へ承継するのですから、当然リスクも存在します。慣れない交渉や売却できなかった場合の心理的ダメージなど精神的なストレスがかかる場合もあり、M&Aですべてが解決されるわけではありません。
第三者へ医業承継を行う場合のメリット・デメリットは以下のとおりです。
譲渡者(売り手)にとってのメリット
- 通院患者を守ることができる
- 雇用を継続できる
- 借入金の個人保証から解放される
- 退職金を得られる
- 経営や労務を離れ、臨床に集中できる
- 引退し、セカンドライフを歩むことができる
- 取り壊しや原状回復が必要ない
譲渡者(売り手)にとってのデメリット
- 経営方針が変わる可能性がある
- 事業承継への準備に手間がかかる
- 承継までに時間がかかる可能性がある
譲受者(買い手)にとってのメリット
- 医師、スタッフをそのまま雇用できる
- 施設、設備を引き継げる
- 患者をそのまま引き継げる
- 地域での知名度、近隣病院との関係が引き継げる
- 施設、設備をそのまま利用できる
- 新規開業に比べ、かかる費用が少ない
譲受者(買い手)にとってのデメリット
- 建物や設備の改修、修繕が必要な場合がある
- 前からの経営方針、運営方針を変えることが難しい場合がある
- 医師、スタッフが離職する可能性がある
患者・地域にとってのメリット
- 同じ場所に通院できる
- 地域の雇用が維持される
- 地域の医療が維持される
患者・地域にとってのデメリット
- 病院の雰囲気、診療方針が変わってしまう可能性がある
医療法人・病院M&Aの相場とは
メリット・デメリットを勘案し、最終的に第三者への承継を決断した場合、それではいったい「いくらで病院は売却できるのだろうか」と思うのではないでしょうか。
特に医療法人の場合、さまざまな点において出資持分のあり・なしで扱いが異なります。
例えば、持分なしの医療法人は、(持分がありませんので)持分を売却できません。買収する際に売却代金として退職金を支払いますが、退職金の上限額は「最終報酬月額×勤続年数×3倍」と税務上で決められています。
一方で、持分のある医療法人は出資持分が相続財産となり、こちらは相続税の課税対象となります。
いずれにせよ医療法人のM&Aは持分あり・なしに関わらず、条件が合えばどちらも譲渡可能ですのでご安心ください。
気になる医療法人M&Aの相場ですが、業務の性質上、取引金額を非公開としている場合がほとんどでしょう。実際にいくらで売買されているのか取引相場が知りたい方は、医療法人M&Aの実績が豊富なM&A仲介会社やアドバイザーに聞いてみるとよいでしょう。
医療法人の評価手法とは
では、どうやって医療法人の価値算定を行うのでしょうか。
医療法人であっても一般的なM&Aであっても絶対的な評価手法というのは存在しません。
たとえば医療法人の企業価値算定では、加重平均資本コスト(WACC)を用いた DCF 法の利用を推奨する立場もあれば、小規模病院では馴染まないといった声もあります。
また「時価純資産価額方式」では、医療施設や医療機器という特殊な資産であることから単なる不動産や保有資産とは違い、換金性の評価が難しいことなどがあげられます。
結局のところ、医療法人も事業会社のM&Aでも売り手と買い手の双方の思い入れを加味した落としどころを探して譲渡価額が決定する点は同じです。
医療法人・病院M&Aのスキーム
医療法人・病院M&Aのスキーム選定の考え方として、まず譲渡主体をみます。個人事業主から医療法人(または医療法人から第三者の個人事業主)へ承継するパターンと、医療法人から医療法人へ承継するパターンに大別されます。
次に譲渡対象をみます。法人格丸ごとが対象となるのか、(一部の)事業が対象となるのかに分類されます。
なお出資持分の定めがない社団医療法人の場合は、譲渡する財産がありません。このため「社員*の交代」という手続きになります。一方で出資持分ありの医療法人では出資持分譲渡(あるいは払戻し)、事業譲渡、合併のいずれかになります。*医療法人の「社員」とは、株式会社でいう「株主」のようなもので、職員のことではありません。
医療法人・病院M&Aスキーム分類
売り手 |
買い手 |
対象 |
スキーム |
個人 |
医療法人 |
事業 |
事業譲渡 |
医療法人(持分あり) |
個人 |
事業 |
事業譲渡 |
医療法人(持分あり) |
個人 |
法人格 |
出資持分譲渡 |
医療法人(持分なし) |
医療法人 |
事業 |
事業譲渡、分割 |
医療法人(持分なし) |
医療法人 |
法人格 |
社員(評議員)入替、合併 |
出資持分ありの医療法人M&Aはここに注意!
医療法では、医療法人の出資持分を医療法人が取得することを禁止しています。このため、買い手は、MS法人を通じて出資持分を取得することが一般的です。
また医療法人M&Aの最も需要なポイントが、出資持分を譲渡しても、社員を交代しないと医療法人の経営権は移転しないという点です。出資持分を取得後、ただちに社員総会を開催し、売り手を社員から退任させ、買い手を社員に就任させることを決議します。この一連の手続きを経て、ようやく買収が完了します。
医療法人・病院M&Aを実施する方へのアドバイス
M&A仲介会社では買い手意欲が旺盛な医療法人とのコネクションを持っているため、仲介会社を通じて紹介してもらうルートが最も手っ取り早いでしょう。ストライクでは、医療法人・病院M&Aの専門アドバイザーをチームで擁しているため、最新の動向が入手できます。M&Aを検討している方は、気軽に相談してみるとよいでしょう。
また、無料相談をしたからといって強引に案件を進めることはありません。なぜならM&Aは、売り手と買い手の双方が納得してはじめて案件が成立するからです。無理強いは厳禁で、なにより信頼関係の構築が最も重要であることをアドバイザーは心得ています。特に医療業界はある意味ムラ社会なので、悪い噂はあっという間に共有されます。
繰り返しになりますが、医療法人や病院の廃業は、地域住民にとって大きな痛手となります。地域医療の安定的供給のためにも、第三者への承継を検討してみませんか。