(更新日:2019年1月)
市場規模 9.2兆円
(厚生労働省「平成28年度介護保険事業状況報告」保険給付費、利用者負担を除く)
成長率1%増
(厚生労働省「平成28年度介護保険事業状況報告」保険給付費、利用者負担を除く)
介護業界は大別して、利用者が自宅から通う通所型事業と居住可能な施設でサービスを提供する住宅型事業が存在する。それぞれ、特徴やM&Aにおける傾向をみていこう。
通所型事業では、デイサービスなどの業態が挙げられる。その特徴は、要介護度が低くても気軽に利用しやすいサービスということだ。一方、経営視点では、収支が安定しにくいという課題を抱えている。その背景には、利用者が頻繁に休んだり、数回利用して以後来所しなかったりといった気軽さならではの現象が存在する。しかし、M&Aにおけるニーズが無いわけではない。それは、気軽なサービスであるため、初めて介護サービスを利用するケースが多く、潜在的な住宅型事業の顧客が含まれると期待できるからだ。したがって、通所型事業を送客パイプと位置付ける住宅型介護事業者がM&Aするケースがみられる。
住宅型事業では、有料老人ホームやグループホームといった業態が挙げられる。その特徴は、利用者の施設に居住することと、利用者の収入や要介護度で細かく業態が分けられていることである。経営的視点で見ると同事業には3つの利点が存在する。1つ目は、ストック型ビジネスであることだ。利用者が入居した場合、長期的なユーザーとなるため非常に収支が安定しやすい。したがって経営しやすくM&Aのニーズも高い。2つ目は、場所を選ばず開業できることだ。立地が悪いところで開業しても、事業の性質上一定の集客は期待できるため、価値がつかない土地の活用先として有望な事業である。3つ目は、総量規制が存在するために過当競争に陥りにくいことだ。それ故に、M&Aによって既存施設を取り込むニーズは大きい。しかし、住宅型有料老人ホームに限っては買収ニーズは減少傾向にある。
介護業界全体の課題としては、深刻な人手不足がある。超高齢化社会の到来を背景として、さらに市場規模は拡大していくと考えられるが、それに伴う人材の奪い合いは必至だ。公益財団法人介護労働安定センターの介護労働実態調査(平成28年度)では、介護サービス事業者の61.3%が人手不足感を感じており、その理由としてその7割が採用難を上げている。しかし、富裕層向けに住宅型の事業を展開する事業者のなかでは、待遇の改善やメンタルフォローをすることで採用難の解消と定着率アップを実現するところも存在する。
介護業界の特色として、介護報酬の改訂がもたらす売上の変動がある。介護サービスの価格は、政府によって定められておりそれは毎年変動する。2018年度は幸い+0.54%のプラス改訂でポジティブ要因となったが、過去の推移をみると、-2.27%と大きなマイナス改定された年度も存在し油断は禁物だ。その上、来る超高齢化社会を考えると、長期的に介護報酬が増加するとは考えにくい。
近年の介護業界では、大手企業が中小事業者を買収するケースと、過去に異業種参入した企業がさらなる拡大のためにM&Aを活用するケースが散見される。
大手企業が中小事業者を買収するケースでは、ソラスト(東京都港区)の例を挙げよう。ソラストは2017年11月30日に日本ケアリンク(東京都千代田区)を買収した。同社は、東京を中心に20棟程度保有している。ソラストは、以前から医療関連事業や介護事業、保育事業と多角経営をしている。今回の買収から、同社が介護事業へ強い成長性を見出していると推察される。
同じく大手企業のユニマットリタイアメントコミュニティ(東京都港区)は、2018年11月13日に湘南地区にグループホーム1棟を運営するホームライク湘南を取り込んだ。数年前までは、大手企業同士の買収も見られたが、近年はそのようなケースは少なく、本例のように、譲受企業が大手企業であっても、1棟運営する零細事業者を買収するケースもみられる。
過去にM&Aによって異業種参入を果たした企業が、さらなる介護事業の拡大を目指して中小事業者を買収するケースもみられる。不動産関連事業を展開する大東建託(東京都港区)は、以前から介護事業も展開しているが、2018年11月22日にさくらケア(東京都世田谷区)及びうめケア(同)を買収した。両者は同じ経営者の下成長を続け、現在16事業所で介護事業の展開とコンサルティングサービスを提供している。大東建託は、今後も不動産関連事業で成長していくが、介護事業なども強化することで、より安定した経営基盤を確立することを目指している。
同様のケースで、ココカラファイン(神奈川県横浜市)が2017年6月5日にシニアコスモス(東京都大田区)を買収した。同社は、訪問看護事業を展開している企業で、1事業所のみで運営を続けてきた。以前から、ココカラファインは、同社子会社を通じて介護事業や訪問介護事業を展開しており、今回の買収はそれらの拡充に寄与したと考えられる。
EV/EBITDA倍率(n=17)は平均15.6倍。分布としては10~12倍台が多い。介護業界は、少子高齢化を背景として市場拡大が見込まれるものの介護報酬の改訂など外部要因の影響を受けやすく先行き不安は拭えない。企業評価に際しては、財務データチェックだけでなく、従業員構成や人員配置、そして立地など多角的な分析が重要である。