(更新日:2019年1月)
市場規模 9.2兆円
(矢野経済研究所「アパレル産業白書2017年」)
成長率1.5%減
(矢野経済研究所「アパレル産業白書2017年」)
アパレル業界は深刻な不振が続いている。スーパーブランド層とファストファッション層以外の国内中小アパレルブランドは厳しい状態が続いている。特にギャルブランドなどは、ターゲットの趣向が変化しやすいことなどが由来して非常に厳しい状態が続いている。
こうした市場の失速を象徴するように、これまで見られた大手アパレルブランドが小規模な同業者を飲み込むようなM&Aはあまり見られず、アパレル業界でM&Aを行う場合は慎重なブランドの見極めが求められる。
小規模アパレルのM&Aが進まない背景には、アパレル業界特有の事情がある。それは、ブランド価値を反映させて計上する「のれん」が大きくなり、M&A投資に必要な資金が過大になりやすいことである。したがって、ブランド価値の高いアパレル事業者を飲み込めるのは、巨大資本の企業に限られ、彼らの買いニーズが落ち着くとM&Aが進まなくなってしまうのだ。
大手とはいえ、ロードサイドに出店するような低価格層のアパレル企業は、ECシフト等時代の流れについていくことができず、業績が悪化したままだ。また、GMSやファッションモールに出店する企業にも、かつてほどの勢いはない。背景には出店先企業自体の集客力が低下していることが原因と想像される。つまり現在、アパレル業界のいずれの企業も成長が鈍化もしくは業績悪化しておりM&Aに投資するタイミングではない。また、数年前まではファンドが買収する事例もみられたが、現在では買収後のイグジットのめどが立たないという理由で、ニーズは落ち着いている。
異業種参入を特徴とするM&Aについて触れておこう。文頭でも述べた通り、アパレル業界は、今後も構造的な不況が続くと予想される。しかし、こうしたネガティブな環境にもかかわらず、異業種参入する企業が増加傾向にある。その第一の理由として挙げられるのは、約9兆円という膨大な市場規模である。たしかに、既存のアパレル企業は不振にあえいでいるが、その原因は高度成長期に構築された旧来のビジネスモデルを変えられないからだと彼らは考えている。異業種参入の代表例といえるのが、RIZAPグループによるジーンズメイトの買収である。同社は2017年の買収以来、24時間営業の廃止、路面店からの脱却、ブランドイメージの刷新等行い順調に業績を改善してきた。
アパレル業界は厳しい状況が続いているが、その中でも活路を見出そうと異業種に参入したり、海外に進出したりする動きがみられる。また、アパレル企業がテクノロジー企業に資本参加するケースも少なくない。
アパレル企業による異業種参入では、オンワードホールディングス(以下、オンワードHD)の事例が挙げられる。同社は、2017年1月20日にヘアケア製品・化粧品製造販売ベンチャーのKOKOBUY(東京)、同業のInnovate Organics, Inc.(米カリフォルニア州)の2社を買収した。同2社はオーガニックコスメブランド「Product(米国農務省オーガニック認証取得)」を取り扱っている。このM&Aを機にオンワードHDはオーガニック化粧品分野へ本格参入することを公表している。
M&Aを用いた海外展開の事例としては、次の2つが挙げられる。ストライプインターナショナル(岡山)は、2017年11月にベトナムのレディスカジュアルブランド「NEM」を取り込んだ。同ブランドはハノイを中心に44店舗を展開しており、20代~40代の働く女性の支持を得ている。また、同社は2017年11月にインドネシアのファッションECベンチャーであるPT Bobobobo(ジャカルタ)への出資を決めた。ストライプインターナショナルは、中長期戦略としてASEAN市場における事業拡大を掲げ、これらのM&Aは同戦略達成の足掛かりとなるだろう。
TSIホールディングス(以下、TSIHD)は、2017年11月に米ファッションアパレル企画販売のハフホールディングス(HUF、カリフォルニア州)を買収した。以前よりTSIHDはHUFの代理店として同社商品を扱っていた。今回の買収は、TSIHDの事業ノウハウを生かすことで、国内・アジアを中心に更なるHUFブランドの成長が見込めると判断したためだと考えられる。
アパレル企業によるテクノロジー企業のM&Aとしては、ストライプインターナショナルが、ファッション関連EC支援の五反田電子商事に資本参加した例が挙げられる。ストライプインターナショナルは、五反田電子商事の展開するSNS-ECを活用して、ASEAN諸国へのブランド認知を高めたい狙いがある。なお、SNS-ECとはFacebookやInstagramなどのSNS上で商品のPRを行い、反応のあったユーザーに対しては同じくSNSやチャットアプリなどで商品説明や販売を行う。その際、五反田電子商事は現地のインフルエンサーを積極的に起用しブランドの認知拡大や販売促進に取り組むとしている。
国内市場の拡大や新興国マーケットへの拡大及び参入に伴い、アパレル業界には大きな変革が起きている。現在着実に成長している企業にはSPA型のビジネスモデルが多く、業界としての大きな変化を感じさせる。また、流行や気候、そして消費者のファッションに対する認識の変化などが、売れ行きに大きく影響する業界であるため、M&Aを検討する際は、財務状況は健全か、今後成長できるブランドか、ビジネスモデルは時代に合ったものかなど、財務諸表からは見えてこないデータに関しても十分にチェックする必要がある。
上記のホテル・旅館業の上場企業10社のEBITDA倍率の平均は10.9倍であった。なお、最大の倍率はファーストリテイリングの30倍で、市場からの期待値の高さがうかがえる。